2 / 13
あぁ、なんてベタな展開なの。
しおりを挟むそうして、とうとう我が国に隣国の聖女様がやって来た。
「初めまして、セイラ・リーンウードと申します。この度は私を迎え入れて頂きありがとうございます」
そう言って挨拶する聖女様は、
まさかの黒髪黒目の……そう、まるで前世の日本人を思わせるような容姿だった。
懐かしさと共に、私の中では別の思いが渦巻いた。
(ま、まさかとは思うけど、異世界転生……じゃなくて、異世界転移とかじゃないわよね……?)
名前は聖女っぽいけど、容姿は日本人だなんて思わずそう疑いたくもなるわ。
“この世界は現実。物語なんかじゃない”
あの時、そう思って生きて行くと決めたのに。また、この世界は……なんて気持ちが再び湧き上がって来てしまう。
私は首を横に振って必死に浮かんだ不安を打ち消す。
転生? ……転移かも。
そんな思いは一先ず置いておき、私も挨拶を返す。
「初めまして、シュナイダー殿下の婚約者キャロライン・マクルーハンと申します」
私がそう挨拶すると、なぜか聖女様はパチパチと目を瞬かせた。
「あの! キャ、キャロライン様とお呼びしてもいいですか!? 素敵です! 話に聞いていた通りなのですね!!」
「話?」
何故か聖女様は私を見てはしゃいでいる。
どうして?
そんな、私の疑問が伝わったのか、聖女様はふふふ、と微笑んで言った。
「シュナイダー殿下とキャロライン様の仲睦まじさは隣国でも有名でしたから。まさかこうしてお二人が並んでる姿が見られるなんて感激です!!」
「!?」
その発言にびっくりして声も出せない私とは対称的に、何故かシュナイダー様はドヤ顔でウンウン頷いている。
ちょっと、何で!?
「私、シュナイダー殿下の告白が元になったと言う本も読ませて頂きました!」
「え!」
アレを?
いや、その前にあの本、隣国でも売られてるの!?
販売経路広すぎないかしら? 作者は欲を出しすぎではないかしら?
「本当に……とても羨ましいです。私もあんな風に愛してくれる人と幸せになりたいなって……」
「あ……」
聖女様の語尾が段々と弱々しくなっていく。
しまった!
そうよ、聖女様は確か婚約者に『真実の愛に目覚めた!』なんてわけのわからない理由で婚約破棄されて追放されたんだったわ……
ねぇ、本当に“真実の愛”って何なのかしらね!?
ようするに、隣国の王子は婚約者がいる身でありながら浮気しただけよね?
それを最もらしく言い換えたのが“真実の愛”
他人の事だけど、腹が立ってくるわ。
(だからこそ、そんな王子はざまぁされるのよね)
「ビーブル殿下に言わせると、私は“偽者”らしいのです……」
「え?」
ビーブル殿下と言うのが、聖女様を追放した隣国王子の名前よね?
「私は聖女の名を語った偽者だと」
「で、でも、聖女様には特別な力があると聞いていますわ?」
「……ですが、私は上手くその力を使えなくて……」
聖女様は悲しそうに目を伏せる。
つまり、ビーブル殿下の浮気だけでなく、力が上手く使えない事も追放の原因になったという事かしら?
「……」
「キャロライン? どうかした?」
私が黙り込んでしまったので心配したシュナイダー様が顔を覗き込んでくる。
(ち、近い!!)
その麗しのお顔……近過ぎるとドキドキするので、控え目でお願いしたいわ。
「い、いえ? な、何でもないですよ?」
「そう? 深刻そうな顔をしていたよ」
「そんな事、無いですわ……」
私は必死に誤魔化そうとしたけれど相手は私をこよなく愛するシュナイダー様。
誤魔化しは一切効かない。
「キャロライン? 僕を甘く見てはいけない」
「へ?」
「僕はキャロラインの事なら前髪を数センチ切っただけでも分かる自信がある!」
「え……」
何その自信……
「ちなみに、今日のくるんくるんのその毛先は昨日より少し元気が無い」
そう語るシュナイダー様の顔は至って大真面目だ。
「何ですかそれ……」
「本当だって。僕には分かるんだよ。ずっとキャロラインを見て来たからね」
「……!」
シュナイダー様がいつもの甘く蕩けそうな微笑みでそんな事を言うのでボンッと私の顔が赤くなる。
「赤くなった! うん。キャロライン、可愛い」
「シュ……シュナイダー様」
と、いつものように二人の世界に入ろうとしていた所でハッと気付く。
──聖女様……セイラ様がこの場に居た事を!
私はおそるおそる聖女様を見ると、聖女様は「ほ、本物!」と何やらまた感激していた。
「本当にあの本の通りなんですね!」
「そ、そうかし、ら?」
「驚きました! ……私もちゃんと力が使えていたら……ビーブル殿下とこんな風に……」
「!!」
た、大変!
ますます落ち込んでしまったわ!!
絶対、セイラ様は聖女だと思うのに。
だって……ほら。こういうのって、あれよね?
聖女様は決して落ちこぼれ……なわけではなく、強大な力を秘めているんじゃないかしら? 絶対そうだと思うの!
……たいてい強大な力を持て余してしまって上手く力が使えなかったり、制御が出来なかったりして、それで力が使えない無能だと周りに誤解されてしまうのよ! (キャロライン調べ・改 Ver.2)
あぁ、なんてベタな展開なの。
セイラ様……あなたは間違いなく真の聖女よ!
きっとそのうち力に目覚めて、あなたをポイ捨てした王子にざまぁが出来るわ!
そう思った私は聖女様の手を取るとギュッと握りしめて言う。
「セイラ様! 心配はいりません! きっとあなたはこの先、力を使えるようになります!」
「え?」
「私が保証します!」
「キャ、キャロライン様? 突然どうされたのです?」
聖女様はびっくりしたのか目を丸くして驚いていた。
「うん。キャロラインが言うと本当になりそうだから凄いよ。謎のパワーがあるよね」
シュナイダー様も笑顔で同意してくれた。
「ほら、シュナイダー様もそう言ってくださっているわ!」
「は、はぁ……」
「頑張りましょうね、セイラ様!」
「は、はぁ……」
こうして、何故か私は、いつかライバルになるかもしれないはずの聖女様を励ましていた。
そう。
真の力に目覚めた聖女様を我が国の人達がどう扱うかを考えもせず───
58
お気に入りに追加
1,601
あなたにおすすめの小説

虐げられていた令嬢は没落した家を見捨てる~愛しい貴方がいればいい~
琴葉悠
恋愛
バルテル侯爵家で疫病神扱いされているセレスティーヌ。
毎日の酷い扱いにも耐える自信があった、それは愛しいクロードとの夢の中での逢瀬の時があったからだ。
そしてその夢の中での幸福の時間は現実になる──
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
悪女と言われた令嬢は隣国の王妃の座をお金で買う!
naturalsoft
恋愛
隣国のエスタナ帝国では七人の妃を娶る習わしがあった。日月火水木金土の曜日を司る七人の妃を選び、日曜が最上の正室であり月→土の順にランクが下がる。
これは過去に毎日誰の妃の下に向かうのか、熾烈な後宮争いがあり、多くの妃や子供が陰謀により亡くなった事で制定された制度であった。無論、その日に妃の下に向かうかどうかは皇帝が決めるが、溺愛している妃がいても、その曜日以外は訪れる事が禁じられていた。
そして今回、隣の国から妃として連れてこられた一人の悪女によって物語が始まる──
※キャライラストは専用ソフトを使った自作です。
※地図は専用ソフトを使い自作です。
※背景素材は一部有料版の素材を使わせて頂いております。転載禁止
偏屈な辺境伯爵のメイドに転生しましたが、前世が秋葉原ナンバーワンメイドなので問題ありません
八星 こはく
恋愛
【愛されスキルで溺愛されてみせる!伯爵×ぽんこつメイドの身分差ラブ!】
「私の可愛さで、絶対ご主人様に溺愛させてみせるんだから!」
メイドカフェ激戦区・秋葉原で人気ナンバー1を誇っていた天才メイド・長谷川 咲
しかし、ある日目が覚めると、異世界で別人になっていた!
しかも、貧乏な平民の少女・アリスに生まれ変わった咲は、『使用人も怯えて逃げ出す』と噂の伯爵・ランスロットへの奉公が決まっていたのだ。
使用人としてのスキルなんて咲にはない。
でも、メイドカフェで鍛え上げた『愛され力』ならある。
そう決意し、ランスロットへ仕え始めるのだった。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。

嫌われ王妃の一生 ~ 将来の王を導こうとしたが、王太子優秀すぎません? 〜
悠月 星花
恋愛
嫌われ王妃の一生 ~ 後妻として王妃になりましたが、王太子を亡き者にして処刑になるのはごめんです。将来の王を導こうと決心しましたが、王太子優秀すぎませんか? 〜
嫁いだ先の小国の王妃となった私リリアーナ。
陛下と夫を呼ぶが、私には見向きもせず、「処刑せよ」と無慈悲な王の声。
無視をされ続けた心は、逆らう気力もなく項垂れ、首が飛んでいく。
夢を見ていたのか、自身の部屋で姉に起こされ目を覚ます。
怖い夢をみたと姉に甘えてはいたが、現実には先の小国へ嫁ぐことは決まっており……
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

王宮勤めにも色々ありまして
あとさん♪
恋愛
スカーレット・フォン・ファルケは王太子の婚約者の専属護衛の近衛騎士だ。
そんな彼女の元婚約者が、園遊会で見知らぬ女性に絡んでる·····?
おいおい、と思っていたら彼女の護衛対象である公爵令嬢が自らあの馬鹿野郎に近づいて·····
危険です!私の後ろに!
·····あ、あれぇ?
※シャティエル王国シリーズ2作目!
※拙作『相互理解は難しい(略)』の2人が出ます。
※小説家になろうにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる