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恋する乙女は好きな人の言葉で一喜一憂するものなんだから!

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  私、キャロラインと婚約者である王太子のシュナイダー様は、転生者である私の、
“私は悪役令嬢だわ!”
  という強い思い込みの元、ちょっとした誤解とすれ違いと勘違いを経て、長いこと拗らせていた互いの想いを通わせ幸せを手に入れた。

  先日、そんな愛するシュナイダー様が学園を卒業されてしまったので私達が会えるのは私が王宮を訪ねる時くらいになってしまった。
  なんだかんだで寂しいわ……
  そう思っていた頃、その話を聞かされた。




「……聖女様、ですか?」 
「そうなんだ。キャロラインも知ってるかもしれないけど、隣国には神に仕える役目を担う聖女と呼ばれる女性がいてね」

  私の目の前で優雅に紅茶を啜りながらシュナイダー様は、淡々とそう話す。
  (私の座ってる位置が膝の上じゃないのは他にも人が居るからよ!)

  それは知っているわ。
  聖女と言うだけあってやはり“特別な力”があるとかで、更には王家と神殿のパイプ役もしているのよね。
  確か、今の聖女様は平民出身の女性だけど立場としては王族に次ぐくらい偉い立場になるのだと王妃教育で習ったわ。

「その聖女様がどうされたのですか?」
「うん……それが」

  そこでシュナイダー様は、少し困った顔をした。
  何かあったのかしら?

「その隣国の聖女は、自国の王子と婚約していたらしいんだけどね」

  聖女が自国の王子と婚約……あるあるね!

「……」

  ん?  あれ?  嫌だわ。ちょっと待って……?
  なんだかその続き聞きたくないのだけど?  だって、嫌な予感しかしないわ。
  聖女……王子の婚約者……
  ねぇ、ほら……それって……

「その王子が『真実の愛に目覚めた!』とか言い出して、聖女との婚約破棄を言い出して追放しちゃったらしいんだ」

  ────やっぱり!!  聖女が追放されてるじゃないの!!

  その瞬間、何故か私の脳内では、

  ~婚約者に真実の愛に目覚めたと言って追放された元聖女ですが、隣国の王子に拾われて溺愛されています~

  というフレーズが頭の中を駆け巡った。
  あぁ、いっぱい読んだわ。追放された聖女……この手の話はたくさん読んだわ……

「キャロライン?  どうかしたの?  顔色が……」
「い、いえ、大丈夫……ですわ」

  明らかに顔色が悪くなっている自覚はあったけれど、私は必死に誤魔化した。

「そ、それで、その聖女様は……」
「とりあえず一旦、我が国に来るらしいんだ」
「!」

  あぁぁ、ほら、ほら、やっぱりそうなる!

  追放された聖女は、隣国で新しい出会いを果たす。
  そう、その時に大抵現れる真ヒーローと言えば……その隣国の王子様!
  そして、新しい幸せを手に入れた聖女は自分を捨てた王子達にざまぁするのよ。
  (キャロライン調べ・改  Ver.2)

  ──ねぇ?  もしかしなくても、この場合の隣国の王子って……
  シュナイダー様の事になるんじゃないの!?

  目の前がくらくらした。
  しかし、とりあえず話を聞かなくては!

「く、国としてその追放されてしまった聖女様をお迎えする、という事でしょうか?」
「……そういう事なんだ」

  シュナイダー様がちょっと苦々しい顔をしながら答えた。

  (……?  シュナイダー様のその表情はいったい……?)

  何だか一気に不安になってしまう。

「な、何かお迎えするのに問題でもあるのですか?」

  私はおそるおそる聞き返した。
  だって、聖女よ?  特別な力があるのよ??
  私、太刀打ち出来るかしら?  無理じゃない?

「え?  あ、いや、問題と言うか……」

  シュナイダー様はちょっと言いにくそうだった。
  それでも私がじっと見つめていたら観念したのか、ようやくその重そうな口を開いてくれた。

「……そ、の、キャロラインと過ごせる時間が減っちゃうな、って残念に思っただけだよ!」
「!!」

  ボンッ!
  その言葉に私は一瞬で顔が真っ赤になった。

  や、やだもう……
  シュナイダー様ったら……!!
  でも、良かった。シュナイダー様はやっぱりシュナイダー様だったわ。

  さっきまで色々と不安になっていたのに、この言葉だけで安心しちゃう私は……やっぱりチョロいのかしらね?

  でも、仕方ないのよ!
  恋する乙女は好きな人の言葉で一喜一憂するものなんだから!   (キャロライン調べ・改  Ver.2)

「キャロライン……」
「?」

  そんな脳内で恋する乙女の事を考えていたら、いつのまにかシュナイダー様の麗しい顔が近くにあった。

  ……あ!
  待って、今この場には他にも人が……

「シュ、シュナイダー様!」

  そう思って止めようとしたのだけど、何故かシュナイダー様は止まらない。
  どんどん麗しのお顔が近付いて来る。

「キャロラインが、そんな顔をするからだよ」
「……っ!」







  ちなみに、キスを終えた後、慌てて部屋を見回したらすでに誰もいなかった。
  とっくに退出していたらしい。

  ──いつの間に!?
  私が内心で慌てていたらシュナイダー様は可笑しそうに笑いながら言った。

「そんな心配していたの?  相変わらず可愛いなぁ。僕が人前でキャロラインのそんな顔を他の人に見せるわけないでしょ?」
「うぅ……」
「よし! キャロライン」

  そうして誰もいなくなったのをいい事に、いそいそと私をいつもの定位置(膝の上!)に誘導するシュナイダー様。さすがだわ。



  そんな良くも悪くもいつも通りのシュナイダー様を見ていたら、“聖女”に関するさっきまで私の感じていた不安はキレイさっぱり遥か彼方に吹き飛んでいた。


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