【完結】“つまらない女”と棄てられた地味令嬢、拾われた先で大切にされています ~後悔? するならご勝手に~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
38 / 46

第37話 確実な証拠

しおりを挟む

「うぁあぁぁあぁぁーー待て!  やめろ、やめてくれぇぇぇ!」

  真っ青な顔で叫びながらこっちに向かってくるティモン。
  カイン様が何を話そうとしているのかようやく分かったらしい。

  (今さら遅いわ……!)

「……ティモン?  何だ……どうした?」

  さすがのモズレー伯爵もティモンの只事ではないその様子がおかしいと思ったのか、焦りの表情を浮かべ始める。

  (ティモンのこの反応……やっぱり、モズレー伯爵は口止め料の事を知らなかったのね)

  そもそもとして、その事を知っていたら伯爵はこんなにも大勢の前で堂々としていられるはずがない。

「そんな事だろうと思いましたが、どうやらあなたはティモン殿から何も話を聞いていないのですね?」
「……だから、何の話だ?」

  カイン様の言葉に伯爵は眉を顰める。

「モズレー伯爵殿、先日の事です。あなたの息子ティモン殿は、僕がリーファへの暴力行為を訴えているという話を知るやいなや、マーギュリー侯爵家を訪ねて来ました」
「……ティモンが?」
「だ、だから!  い、言うなと!  やめろ!  もう、やめてくれぇぇ!」

  カイン様は必死の形相で静止してくるティモンの声を無視したままにっこりと笑う。

「……!」

  伯爵も嫌な予感がするのか、顔色がどんどん悪くなっていく。

「ティモン殿はそこで僕にリーファ……アクィナス伯爵令嬢への暴力行為の口止めを申し出て来たのですよ」
「……なっ!?  く、口止め!?」
「うわぁあ!  だ、だから……や、やめてくれぇぇぇ!」

  どういう事だ!  と慌てて振り返って息子を見る伯爵。
  ティモンは真っ青な顔で頭を抱えて取り乱しながら叫んでいる。

「……さらにティモン殿は、口止め料まで支払うと口にされていましてね?」
「く、口止め料だと!?」
「そうです」
「───っ!」

  カイン様はにっこり微笑む。
  この話には伯爵だけでなく、他の人達も大きく驚いていた。
  ───やっぱり犯人じゃないか!  
  ───謝罪もせず、金を払って揉み消そうだなんて……
  そんな声がたくさん聞こえてくる。

「ま、待て!  マーギュリー侯爵……つまり……」
「ははは……そうですよ。ティモン殿はしっかり暴力行為を認めたうえで、口止め料の支払いの件を紙に残してくれていましてね」
「……なっっっ! か、紙に……!?」
「これはあなたが求めている確実な証拠となりますが、どうされますか?  筆跡鑑定されますか?」
「────!」

  筆跡鑑定などしなくても、もはやティモンのこの様子が全てを語っている。
  さすがの伯爵も……嘘だ!  これはデタラメの話で捏造された書類だ!  とは口にしなかった。

「……ティモン!!   お、お、お前という奴は……!」
「う、うわぁあぁぁーー」

  ティモンは泣きながらその場に崩れ落ち、モズレー伯爵も顔面蒼白のまま呆然と立ち尽くす。
  ずっと成り行きを見守っていた人たちの冷たい視線も、モズレー伯爵親子とローゼへと向けられていく。

  (これで彼らの醜聞は一気に社交界に広まっていくことになるのでしょうね……)

  すでに広がりつつあるローゼの醜聞に加えてこの話は面白おかしく社交界に浸透していく気がする。
  ティモンもモズレー伯爵も悪足掻きなどしなければ、きっとここまでにはならなかったのに。



「……リーファ」
「…………カイン様」

  カイン様が腕を伸ばしてギュッと私を抱きしめる。
  私もそっと背中に腕を回して抱きしめ返す。

  (あたたかい……)

   この温もりに包まれていると、大好きという気持ちが溢れそうになってしまう。
 
「……ありがとうございます」
「うん。だってボコボコにすると約束したからね」
「……はい」

  その言葉にクスッと笑ってしまう。

「リーファもかっこよかったよ」
「……そうですか?」
「ああ」
 
  カイン様が優しく微笑みながらそう言ってくれた。
  それだけで胸があたたかく、幸せな気持ちになれる。

「さぁ、リーファ。約束の謝罪の時間だ」
「……ええ」

  カイン様の言葉にしっかり頷いて彼の手を取った。




  ───その時は私もティモンも地面に頭を擦り付けながら、アクィナス伯爵令嬢に対して謝罪しようではないか!  そうだな……慰謝料もそちらの言い値で払おう!


  モズレー伯爵はこの言葉を発した時はこんな事になるなんて全く思っていなかったのでしょうね。
  申し訳ございませんでした……
  と、まさに言葉通り地面に頭を擦り付けて謝罪する三人を見ながらそんな事を思った。

  (ローゼは絶対に私に頭なんか下げたくない!  と、拒否していたけれど……)

  暴行現場にいて、彼を止めるどころか一緒になって笑い罵り、ティモンの行為を煽っていたローゼも幇助罪に問われるが?  とカイン様から脅されたローゼは顔を真っ青にしてモズレー伯爵親子の横に並んで頭を下げていた。

  ただ、この謝罪の言葉はきっと心からのものでは無いと思う。
  三人とも素直に反省する人達ならこんな事にはなっていない。

  それでも、ティモンとローゼのした事がきちんと世間に伝わり、これから先、どこにいてもずっとこの話がついてまわり、後ろ指をさされながら生きていく事こそが一番の屈辱に違いない。
  そして、同じくモズレー伯爵家の名も地に落ちたも同然。
  その名を社交界で名乗る度に笑い者となる未来が想像出来た。
  
  (それと、慰謝料の支払いもどうなるかしら?)

  私への慰謝料はお父様とお母様が戻って来てから具体的に話し合う事になるけれど、カイン様は搾り取れるだけ搾り取る気満々の顔をしている。

  (カイン様ったら、とっても悪い顔をしているわ……)

  ティモンや伯爵を責めている時もそんな黒い顔が時折見えたけれど……
  でも、カイン様のそんな所も好き。
  私の為にここまでしてくれたのだもの……嬉しい、愛おしい……そんな気持ちの方が強い。

  (あとは、カイン様にちゃんと告白をして、それできちんとこのおかしな関係を───)

  そんな事を考えた時だった。
  頭を下げて謝罪していたはずのティモンが顔を上げて私を呼んだ。

「なぁ、リーファ……」
「……ティモン?」

  この期に及んで何を言うつもりなのかと身構える。

「確かに殴ったり蹴ったりした事はやり過ぎたし、悪かったとは認める。だが、お前は今でも俺に惚れているんだろ?  だから、俺に謝って欲しくてやり直したくてこんな事を企んだのか?」

  (────はい?  やり直す?)

  とんでもない発言に言葉を失った。

「だって、お前……婚約だのなんだの言っているが……実はマーギュリー侯爵にはしつこく言い寄られているだけなんだろ?」

  ……私がまだティモンの事が好き?

  これで全て丸く収まったと思ったのに、ティモンはまだ何かを勘違いしているようだった。
しおりを挟む
感想 413

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。

蜜柑
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。 妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。

処理中です...