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第34話 悪足掻きをしてくるので
しおりを挟む顔色を悪くしたティモン。
だけど、すぐに何か思う事があったらしく、ハッとした表情をする。
「いや……待て! 俺が今この場で履いている靴が、リーファが暴力行為にあった……といわれている日に俺が履いていた靴かどうかなんて分かるわけないじゃないか! デタラメを言うな!」
ティモンが悪足掻きを始めた。
どうやらこの靴は違うと言いたいらしい。
「……ティモンこそ何を言っているの? 私はそれが同じ物だと分かっているからそう言っているのよ?」
「はぁ!?」
「……だって、どこからどう見てもあの日の靴でしょう?」
「な、何故だ!?」
(まさか今日もあの日と同じ靴を履いてるとはね……私もびっくりよ)
ティモンは、私が訴えるなんて微塵も思っていなかったから、証拠となる靴を処分しようとは全く考えなかったに違いない。
それどころか、ドレスに自分の足跡が残ってる事すら考えなかったかもしれないわ。
残念だけど、その詰めの甘さがこうして命取りになるのよ。
「何故って言われても同じ物よ、としか言えないけど」
「ははは! バカにするなよ、リーファ! ……そんな言い分ならば何の根拠もな……」
「だって、色かたちは勿論だけど……踵部分のすり減り方、右の靴の側面に軽く付いてしまっている傷……何もかもあの日に履いていた靴と一致するじゃない!」
「───は? ちょ、ちょっと待て!」
何故かティモンが慌て出す。
「おい、リーファ……! なんでそんな細かい事を……!」
「え?」
なんでと言われても。
覚えているから……以外に説明のしようがないわ。
ティモンが「有り得ない……」と、呟くとカイン様が苦笑しながら私を抱き寄せた。
「カ、カイン様!?」
皆が見ているのに!
慌てる私と目が合ったカイン様は優しく微笑んだ。
(もう! その微笑みはずるいわ!)
そして、カイン様はすぐにティモンへと視線を向ける。
「ははは……すごいな。ティモン殿はこれまで全く何も気付いていなかったようだな」
「……何の話だ!!」
ティモンがカイン様を睨んだ。なんて態度かしら!
「君はずっとリーファから試験勉強のサポートを受け続けていて何も感じなかったのか?」
「……だから、何をだ?」
「リーファの記憶力が人よりも優れている事だよ」
「記憶……力?」
ティモンが意味が分からないという表情を浮かべて首を傾げる。
「さっきだってそうだろう? リーファは君やそこの女の発言を事細かに覚えていた。それだけでもリーファの凄さが分かると思うんだが?」
「なっ……!」
「それから、リーファは一度見たものは忘れない記憶力の持ち主だ…………そうだよね、リーファ?」
「え? はい、そうですね。読んだ本の内容、見たもの……すぐに頭の中で思い返せます」
カイン様の言葉に私は大きく頷く。
けれど、ティモンは納得のいかない顔をした。
「そ、そんなのは後からどうとでも言えるだろう! デタラメかもしれな──……」
「往生際の悪い男だな。それなら少し試してみようか。リーファ、いいかな?」
「はい、どうぞ」
私が笑顔で頷くとカイン様も、頷いた。
そして官僚試験の責任者に声をかける。
「申し訳ございませんが、そこのティモン殿が正答出来なかったという官僚試験の問題……あー……たくさんあるとは思いますが、その中からどれでもいいので一つ、リーファに質問してもらえませんか?」
「え? 試験問題をそこの彼女に……ですか?」
「そうです。先程も申し上げましたが、ティモン・モズレーの一次試験の優秀な成績は全て彼女のおかげなのです。ですから、彼女……リーファなら絶対に答えられます!」
カイン様が力強く頷きながらそう説明する。
その言葉に対しての周りの反応は凄かった。
───そんな事が可能なのか?
───今、この場で問題を? 有り得ない!
ティモンはそんなことは不可能だと笑い飛ばした。
「ははは、バカかお前たち! 官僚試験の問題がそんなに生易しいものでは無いことは分かっているはずだ! リーファなんかに解けるはずがないだろう!?」
「黙れ! お前のような男のためにリーファは一次試験も二次試験もお前よりたくさんの問題を読み込んで来た! だからお前が答えられなかった問題でもリーファなら必ず正解する!」
カイン様のその言葉はティモンのプライドを傷つけたのか、顔を真っ赤にしてティモンは怒った。
「……ふ、ふざけるな!」
「いいから、黙って見て聞いていろ。そのかわり、リーファが正解した時はリーファの実力を認めて謝れ! ───いいな?」
「……くっ!」
ティモンはカイン様に怒鳴られながら睨まれて尻込みしていた。
(カイン様……)
絶対の信頼を寄せてくれていることが伝わって来て嬉しくなった。
それなら私はその信頼に応えるまでだわ!
突然、話題を振られた試験の責任者は半信半疑な様子のまま、私に質問をした。
「──で、では、そこのティモン・モズレー殿だけが不正解だった簡単な問題を一つ。隣国、ドゥダバ国のヌーメア地方では作物が育ちにくいと言われている。その原因は?」
(ティモンだけが不正解だった簡単な問題……)
その事に吹き出しそうになった。
そんな問題を選ぶあたり、責任者の方々もティモンに対して呆れているのかも。
そして、その質問の答えは確かに“簡単”だった。
「……その地方は、もともと寒い地域でもあり、さらに非常に気候が不安定な地域です。だから……」
「そうだ! それが答えだ!! 俺だってそう答えたさ。だが不正解とされたんだ! 間違ってないだろう!?」
「……」
まだ、回答の途中なのに何故かティモンが割り込んでくる。
私は小さくため息を吐いた。
「……というのが建前とはなっていますが、本当の理由は違います。一番の原因と問題は土壌汚染です」
「は?」
「あの地域は、これまでのドゥダバ国の歴史に翻弄された地域で──」
私が語り終えると、「……文句無しの正解だ」と試験責任者は頷いてくれた。
私の答えに満足したのかどこか嬉しそう。
(良かった!)
カイン様と目が合って微笑みを交わしたその時、ティモンが青白い顔でワナワナと震え出した。
「ど、どういう事なんだ! 何故、俺の解けなかった問題をリーファなんかがあっさり正解するんだよ!」
私は呆れた気持ちで説明する。
本当にこの人は何も勉強していなかったんだわ。
「ティモン、ドゥダバ国の事は過去にもたくさん出題されていたでしょう? だから、歴史分野の本も読んで頭に入れておく必要があったのよ。そうしたら、あの地域の抱える問題は単なる天候ではないと分か……」
「今、手元にその本は無いだろう!?」
「だから、言ったでしょう? 頭に入ってるのよ。読み返さなくてもちゃんと覚えているから答えられるの!」
「……っ!」
ショックを受けたティモンは、目を大きく見開いて「まさか……本当に……?」と呟いた。
そこへすかさずカイン様が間に入る。
「惨めな男だな。自分が、常に見下していたリーファ以下の人間だという事をいい加減に認めろ。だが、これでリーファの記憶力の凄さは分かったはずだ」
「……くっ!」
「と、いうわけでティモン殿? 君のその靴とこちらで残っているリーファへの暴力行為の犯人の足跡の記録……きっちり照合させてもらおうか?」
それから謝罪もだ……と、カイン様が黒いオーラ全開でティモンに向けて笑った。
一方のティモンは変な汗をダラダラと流していた。
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