【完結】“つまらない女”と棄てられた地味令嬢、拾われた先で大切にされています ~後悔? するならご勝手に~

Rohdea

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第29話 合格発表の日

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◆◇◆


「え?  官僚試験の合否結果の発表を見に行く……ですか?」
「うん」

  パーティーの翌日。
  今日はティモンの官僚試験の合否の発表日。
  朝食の後、部屋を訪ねてきたカイン様は、私の隣に腰を落ち着けるなりそう口にした。

  (ティモンやモズレー伯爵家への抗議は結果発表後だとは思っていたけれど……まさか、発表の場で?)
   
  カイン様は私の視線だけで言いたい事が伝わったようで頷きながら説明を続けた。

「昨日のパーティーでの男爵令嬢の発言を聞いていたら、その方がダメージが大きいかなと思ったんだ」
「カイン様……」
「男爵令嬢の口振りから、あの小者男は自分の試験結果にどうやら自信満々のようだったからね」

  確かにローゼはティモンの合格を確信しているかのような捨て台詞をはいていた。
  ローゼがあそこまで言える……ということは、ティモン自身がそう口にしていたから他ならない。

「それに、僕はアクィナス伯爵の代わりにあの男をボコボコにする使命がある。やるならもっとも効果的な場所でやらないとね」

  (カイン様……)

  私がじっとカイン様を見つめていると、バチッと目が合う。

「──っ!」

  目が合っただけなのに、私の胸がドクンッと大きく跳ねた。
  一気に恥ずかしくなってしまって私は慌てて目を逸らす。
  すると、カイン様が不満そうな声をあげた。
 
「……リーファ、どうして目を逸らすの?」
「き、気のせいです……」

  私は両手で自分の顔を覆いながら勢いよく首を横に振る。

「え?  いや……気のせいどころか、しっかり両手で顔を覆っているよね!?」
「き、気のせいです!」
「えー……」

  だって、昨日の馬車の中でのことを思い出すと恥ずかしくて──なんて言えない!

  昨日、私はカイン様への気持ち……これこそが“恋”なのだと気付いてしまった。

  だから、見つめ合った後に顔を近付けてくるカイン様をそのまま受け入れようと……目を閉じて──……互いの熱が触れ合うまであと少し……
  と、いう所で屋敷に到着した馬車がガタンッと音を立てて止まってしまったから、何も無かった……無かったけれど!
  どうしても意識してしまう……!
  だってあれはキス……?

「リーファ……」
「!」  

  混乱していたらポンポンと優しく頭を撫でられた。
  こんな失礼な態度を取っているのに怒らないなんてカイン様は本当に優し過ぎる!
  このままじゃダメ。だから───

  私は覆っていた両手を顔から離すとカイン様の目を見つめる。
  
「カイン様……今日、全部終わったらお話があります」
「え?」
「だ、大事なお話です……き、聞いてくれますか?」
  
  カイン様は一瞬、ポカンとした表情を浮かべたけれど直ぐに笑顔になって「もちろん!」と笑ってくれた。

  (良かった……)

  ホッとした。
  これまでの事、もうカイン様は全て分かっているのかもしれないけど、全部話をして……それで好きですって気持ちを伝えよう。そう決めた。
  そのためにも……

「カイン様、今日のティモンの合否の発表……私も見に行っていいですか?」
「……あの男と顔を合わせることになるよ?  それに結果次第では暴れる可能性だって……」

  カイン様は心配そうな目で私を見るけれど、私の決意は揺るがない。

「いいえ!  このまま怖がって逃げ続けるのは嫌なんです」
「リーファ……」
「カイン様がいてくれるから私は大丈夫です。あんな人……もう怖くなんかありません。それに……」
「それに?」

  カイン様はちょっと不思議そうな顔をする。

「ティモンの前で“あなたみたいなバカ男を難関と言われる官僚試験の一次合格に導いたのはこの私なのよ!  オーホッホッホ”って笑ってやるんです」
「リーファ……!」

  私がそう口にすると、カイン様はギューーッと私を抱きしめてくれた。



◆◆◆


「ふふ、ティモン。いよいよ発表の日ね」
「ああ…………ふぁ」

  欠伸が出てしまう。
  昨夜のローゼは、なぜかいつもより積極的だったのでかなり寝不足だ。

  (俺の合格が嬉しいのは分かるが、妙に結婚を迫ってくるんだよなぁ……)

  昨夜のローゼはいつも以上に結婚をと口にしていた。
  とりあえず、もちろんだ、と答えておいたが……

  口にしたらローゼはおそらく怒り狂うだろうが、俺はやっぱりリーファの家……アクィナス伯爵家への婿入りを諦めたくないとも思っている。
  リーファが俺に未練タラタラなら尚更だ。
  いくら後に大出世する事が約束されていても、そこに貴族の肩書きはあった方がいい。

  (ローゼの話によると、今は男漁りして淫らに遊び歩いているというリーファだからな!  ローゼを愛人に据えても文句は言わせん)

  他の男と関係を持った女などお飾りの妻で充分だ!

「あら、ティモンったら、ふふ、眠いの?」
「ああ……」
「そうよね、昨晩は激し……って、ティモン?  え、寝ちゃうの~?」

  合格発表はちょうど昼からだ。幸い、まだ時間はある。

(少し眠いな……一眠り……)

  俺はそのまま夢の世界に旅立った。

  夢の中での俺は、やはり優秀な成績で合格しており、皆から尊敬の眼差しで見られていた。
  リーファもやはり後悔したのか泣いて縋ってきた。
  もう、生意気な事は言いません、反抗しません、そう誓わせてもう一度俺の女に──

  って、ところで目が覚めた。

「ティモンったら!  寝すぎよ!  もう時間が過ぎてしまっているわ!」

  目が覚めると、ローゼが俺を起こそうと身体を揺すっていた。
  慌てて時間を見ると、とっくに昼を迎えている。
  時間ぴったりに見に行かなくても大丈夫だが、遅くなればなるほど俺を称賛する声が聞けなくなるではないか!

「何度も起こしたのよ?」
「し、仕方がないだろう!  眠かったんだから!」

  慌てて支度をして俺とローゼは共に王宮へ向かった。


───


  そして、ようやく王宮に着いた。
  王宮の中を並んで歩きながら合格発表の場へと向かう。

  …………だが。

 (……?)

  何だろう?  すごくチラチラ見られている。
  最初は俺の合格を知ってのことか!?  と、喜んだのだが、どうも違う視線な気がする。
  そこには尊敬の眼差しなど全く感じなかったからだ。むしろ……
 
  (よく見れば、クスクスと笑われていないか?)

  ───はしたない、恋人……間抜けな……取っかえ引っ変え……

  全く官僚試験の合否とは関係無さそうな声が聞こえてくる。

  (は?  何を噂されているのだ?)

「なぁ、ローゼ。王宮の空気がおか…………!?」

  不思議に思った俺はローゼに何か知らないかと思い訊ねようとするが、何故かローゼは顔を真っ赤にして怒りの表情を浮かべている。

「ロ、ローゼ……?」
「…………チッ!  どいつもこいつも……」

  ローゼはこの変な空気の理由を知っているのか苦々しい顔で吐き捨てている。

「おい、ローゼ!」
「……ティモン、さっさと発表の場に行きましょう!  それであなたの合格の話が広まれば皆だって静かになるわ!」

  ローゼはそう言ってなぜか強引に俺を引っ張っていく。
  そして、とうとう俺は発表の場に着いた。
  既に結果は張り出されているようで、掲示の前には多くの人が集まっていた。

  (……結果は分かっているとはいえ、緊張するな……)

  そして一歩一歩、俺は掲示に近づく。
  そんな俺に気付いた一人の男が、
「来たぞ!  モズレー伯爵家のティモン殿だ」
  と、言った。
  その声に掲示の前にいた人達や、少し離れて合否の様子を見ていた人達が一斉に俺に視線を向ける。
  だが、よく見ると、皆、笑いを堪えていたり、身体を震わせていたり……と様子がおかしい。

  (……んん?)

  何だか夢で見た光景とは違うな……
  面白い事でも起きているのだろうか?  だが、そうだとして何故、俺を見る?
  俺に向けられるべき視線は称賛のみだろう!?
 
    ───プッ
    ───クスクス
    ───前代未聞……

  (本当に何なんだ!)

  そう思いながら俺は、やっと掲示の前にたどり着いた。
  そして“合格”と書かれた俺の名前を探そうと目を凝らす。

  ──合格……合格
  やはり、情報どおり二次試験は落ちない試験のようだ。ここまで見る限り載っている名前は合格している。

  (さて、俺は───)

「……うっそ!?」

  と、続きを見ていこうとした所で、突然ローゼが小さな悲鳴をあげた。

「……どうしたんだ?  ローゼ?」
「……あ、うっ……そ……」

  ローゼは何か言っているが、何を言っているのか聞き取れない。
  だが、さっきは怒り(?)で真っ赤だったはずのローゼの顔が今度は真っ青になっていく。
  
  (おかしなローゼだな……)

  ローゼは放っておいて、続きを見るか。

「さて………………とおぅうぅぅぅ!?」

  そう思って掲示の続きを見ていた俺の目に映ったもの。
  それは……


  ───ティモン・モズレー  (二次試験・特別試験)  不合格


  という信じられない文字だった。
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