【完結】“つまらない女”と棄てられた地味令嬢、拾われた先で大切にされています ~後悔? するならご勝手に~

Rohdea

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第25話 元親友

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  怒ってる……?
  どうしてローゼは何事も無かったかのように、私に話しかけられるの?
  私には分からない……

「ねぇ!  リーファったら、無視しないで、ね?」
「……」

  二人の裏切り行為の始まりがどちらからだったかなんて、どうでもいい。
  だけど、ローゼだけは私とティモンが交際している事もプロポーズされた事も全て知っていた。
  知っていてティモンと隠れてコソコソと……あんな事を。

  ───ギュッ
  私は無意識にカイン様の手を強く握っていた。
  それに気付いたカイン様が優しく握り返してくれながら私に訊ねる。

「……リーファ、先程から後ろで君の名前を呼んでいる彼女は……知り合い?」
「……」
  
  どう答えたものかと悩んでしまい答えに詰まってしまう。
  よくよく考えれば私、カイン様にローゼの事はちゃんと説明していない。
  あの時、直接殴ったり蹴ったりして来たのはティモンだけだったから、その事しか話していなかった。

  「……あぁ、そういう事か。彼女が……例の、そうなのか」

  (──え?)

  私が何かを言う前にカイン様は何かを察したのか小さく頷いた。
  そして、ローゼには聞こえないくらいの小さな声で私に訊ねる。

「リーファ。後ろの彼女はこれからも付き合いを続けていきたい人?」
「──いいえ!」

  私が力強くそう答えると、カイン様は分かった……と頷いた。
  そして、いつものように優しく微笑みながらギュッと手を握ってくれる。

  (カイン様……!)

「リーファ。詳しくは聞かない。でも、僕はいつだってどんな時だって君の味方だ」
「カイン様……?」
「そうだろう?  だってリーファは僕の可愛い恋人で……婚約者だからね」
「!」

  ───そうよ。今の私は一人じゃない。カイン様がこうして隣にいてくれている。
  それだけで心強かった。
 
「ちょっと、リーファ!  いい加減に……」
「……ローゼ、久しぶりね。元気だった?」

  私は、小さく深呼吸してから振り返るとローゼの目を真っ直ぐ見つめる。

「……っ!  え、ええ、分かるでしょう?  ふふ、見ての通り元気よ」

  ローゼはきっと私が傷付き落ち込んだ顔をしている姿を期待していたのだと思う。
  だから、思っていた様子と違っていた事に少し戸惑った様子だった。
  そんなローゼに向かって私はにっこり笑う。

「それは良かったわ。それじゃ、これからもどうぞ“彼”と仲良く元気で過ごしてね」

  ……過ごせるなら、だけど。

「なっ……!  ちょっと待ってよ、リーファ!  久しぶりに会ったのにそれで終わりなの?  私達、親友でしょ?」

  その言葉に私の眉がピクリと反応する。

  (親友……?  ローゼ、あなたはまだそんな事が言えるのね?)

「……親友だったの間違いでしょう?  いいえ、私達は初めから友達ですらなかったのかもしれないわね」

  自分でも驚く程、冷たい声が出た。

「え?  ちょっと……リーファったら…………あ、そう、よね。やっぱり怒っているのよね……」
「……」

  ローゼは悲しそうに目を伏せると、今度はその瞳に涙を浮かべてうるうるさせ始めた。
  
「リーファ……ごめんなさい、は私もどうかしていたの」
「どうかしていた……と言うにはローゼ?  私にはあなたもノリノリに見えたわ」
「そ、そんな事は無いわ!  あれは……ティモンが……勝手に……」

  あれだけはっきり私の目の前で、ティモンと散々な事を口にしておいて“どうかしていた”で済ませられると思っているなんて。

  (……あぁ、ティモンもだろうけれど、ずっとローゼは私の事を下に見て馬鹿にしていたのね?)

  そう思うと、ますます腹が立ってくる。  

「ローゼ。私はもう彼……ティモンの事なんてどうでもいいのよ」
「え?  どうでも……いい?」
「見て分かるでしょう?」
「なん……で、ハッ……え、隣、誰?」

  そこで、ローゼはようやく私の隣にいるカイン様の存在に気付いた。
  
「初めまして、カイン・マーギュリーと申します。どうもリーファがお世話になっていたようで」
「え?  マーギュリー……え?  侯爵……?  僕のリーファ……え?」

  カイン様は、にっこり笑顔をローゼに向けて挨拶と自己紹介をしたけれど、それはいつも私に向けてくれる笑顔とは全然違う。目の奥が全く笑っていない冷たい笑顔。
  一方のローゼは驚きすぎたのか、まともに受け答えが出来ておらずひたすら動揺していた。
  
「そうですよ、リーファは僕の愛しくて大事な可愛い婚約者なので」

  カイン様はにっこり笑顔を崩さないまま、私の腰に腕を回して抱き寄せる。

「愛し……か、かわ……こ、婚約者!?」

  ローゼの顔は驚きと動揺でいっぱいになり、せっかくのうるうるさせていた涙も引っ込んでしまっていた。

「き、聞いてないわよ、そんなの!  う……嘘……そうよ!  リーファったらいくら何でもそんな嘘ついてまで私に───」
「ローゼ。嘘ではないの。カイン様は本当に私の婚約者なのよ」
「……なっ!?  そ、そんなのう、嘘よ!  嘘に決まってるわ!」
「嫌だわ、ローゼ。そんなついたらすぐにバレてしまうような嘘なんて言えるはずがないでしょう?」

  婚約なんて重大なことで嘘なんて付けるはずないと分かってるでしょうに。
  ローゼはよっぽど動揺しているんだわ。

「だ、だってこんなに、カッコいい人…………ティモンよりも……」
「……」

  今、最後に小さな声だけどティモンよりもって聞こえたわ。
  ローゼにカイン様は顔じゃなくて中身がとっっってもカッコいいのよ!  と言ってやりたいけれど、ローゼが知る必要のない事なので絶対に言わない。

  (カイン様の素敵な所は私だけが知っていたい……!)

「……でよ…………ファ、ばかり…………」
「ローゼ?」
「そう…………私…………が……い」

  身体を震わせながら、下を向いているローゼが何かブツブツ呟いている。
  不気味だわ、と思っているとローゼは勢いよく顔を上げた。
  その表情には先程までの動揺は消えていて、華やかで美人で明るく……かつての私が憧れていた笑顔をカイン様に向ける。

「ふふ、失礼しましたわ。マーギュリー侯爵様!  私はリーファのローゼ・フェルドと申しますわ」

  ローゼのその笑顔を見た瞬間、ローゼは私からカイン様を奪うつもりなんだと分かった。
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