【完結】“つまらない女”と棄てられた地味令嬢、拾われた先で大切にされています ~後悔? するならご勝手に~

Rohdea

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第5話 助けてくれた人

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  ───それから先の事はあまり覚えていない。

  覚えているのは、誰かの「危ない!」という声にハッとした後、自分の目の前に馬車が迫って来ていた事。
  ダメ……このままだと轢かれてしまう!  逃げなきゃ!
  そう思った事までは覚えている。




「─────……?」

  私は静かに目を覚ました。
  最初に思ったのは、あれ?  おかしいわ。私、馬車に轢かれたのでは?  だった。

  (どういう事?)

  目を開けた私の視界に飛び込んできたのは見知らぬ部屋の天井だった。
  とりあえず、ここが自分の部屋ではない事だけは分かる。
  全身が痛いけれど、それはティモンに蹴られた時の身体の痛みに違いない。
  馬車に轢かれていたらもっと酷い怪我を負うか、最悪だと──……
  そう思うとゾッとする。

  (……生きている……つまり?  私は馬車に轢かれなかった?)

  でも今、私は明らかに寝かされている。
  フッカフカのベッドに。
  寝心地が私のベッドと比べ物にならないほど気持ちいい。本当にここはどこ?
  状況把握の為に、身体を起こそうと力を入れた。だけど……

「痛っ……!」

  ティモンに蹴られた背中が特に痛む。そのせいで上手く起き上がれなかった。

「───お嬢様!  お目覚めですか!?」

  (え?  ……誰?)

  おそらく、メイド?  と思われる人が慌てた様子で私に駆け寄ってくる。

「目が覚めて良かったです……あ、お医者様を呼んで参りますね!  そのまま楽にしてお待ちください」
「え?  あ、あの……!」

  ここが何処なのかくらいは説明して~……
  と、思ったけれど、そのメイドらしき人はバタバタと慌てて部屋から出ていってしまう。

「……お医者さま?」

  つまり、ここはどこかの屋敷?
  考えられるのは、パーティーの主催者の屋敷に運ばれたという事だけど……

「こんなに豪華な屋敷だったかしら?」

  ザッと見ただけでも分かる。
  この家はかなりのお金持ちだ。
  今、私が寝かされているこの部屋にある調度品や飾ってある絵画、花を活けてる花瓶……どれをとってみても、かなりの高級品だと分かる。

「うーん?」

  私が首を傾げていると、

「お嬢様、お待たせしました。お医者様をお連れしました」

  そんな彼女の声と共にお医者様と思われる年老いたおじいちゃん先生と、歳の若そうな男性が部屋に入って来た。

  (……後ろの男の人は誰!?)

「では、診察しようかの」
「よ、よろしくお願いします?」

  色々と疑問はあったけれど、私は大人しく診てもらう事にした。


────


「ふむ……お嬢さん。この身体中の怪我は……」
「……っ!」

  (どうしよう……なんて答えれば?)

  素直に暴行を受けたと言ってもいいの?
  ティモンに何かされない?
  私がお医者様からの質問の答えにつまっていると、先生と一緒に入って来た謎の男性が、衝立の向こうから訊ねてきた。

「……彼女は運ぶ時に痛そうにしていたが、馬車と接触しそうになった際に出来た怪我とは違うのか?」
「違いますな」

  お医者様がキッパリと否定する。

「こちらの頬の腫れも違いますぞ」
「何だと?  その顔の傷は先程負った怪我ではなかったのか!?」

  お医者様のその言葉に驚いたのか、男性が衝立を超えて姿を現した。
  そしてじっと私の事を見た。

「侯爵様……これは人の手によるものと思われますぞ」
「人の手、だと?」

  人の手、と聞いた男性が怪訝そうな顔になる。
  その表情は怒っているようにも見えた。

「失礼、お嬢さん。この身体中にある傷も誰かの手によるもの……そうですな?」
「……」

  お医者様にそう訊ねられるけど、こんな見ず知らずの人達の前で頷いていいものなのかよく分からない。
  もしも、この人達がティモンやローゼと繋がりがあったら……そう思うと素直に頷けなかった。
  そのせいで、私の口から出たのは別の言葉になってしまう。

「私……は、馬車に轢かれたのではないのでしょうか?」

  謎の男性が静かに首を横に振る。

「いや。君は轢かれてない。すんでのところで助かった」
「そう……なんですね」
「だが、君はそのままその場に倒れて意識を失ってしまったんだ」
「え?」

  だから、あの危ない!  という声かけをされた後の事を覚えていないのか、と納得した。

「馬車と接触……はしなかったように見えたが倒れたうえ、意識も失っている。頭を打った可能性はあると思った。そしてよく見れば顔に怪我を負っていたので僕の屋敷に君を運んだんだ」
「お、お屋敷……」

  僕の?
  つまり、ここはこの若い男性の屋敷?

「す、すみませんが……あの、貴方は?」

  何処の誰なのかしら? 
  覚えのない顔なので、少なくともこれまで私と面識があった人ではない。
  失礼だったかなと、心配になったけれど彼は気を悪くした様子もなく答えてくれた。
  
「ああ、すまない。僕はカイン。カイン・マーギュリー」
「マーギュリー……って、侯爵家の……?」
「そうだ。先日、留学から戻って来て僕が跡を継いだばかりなんだが」

  男性が腕組みをしながらそう答えた。

  (まさかの侯爵家!)

  そして、この国にいなかったから全然面識が無かったのかとも納得した。

「……それで、君はどこの令嬢なんだ?  何故そんな酷い怪我をしている?  誰にやられた?  どうして馬車の前に飛び出した?」
「え、あ……」

  次から次へと訊ねて来るので、答えようにも追いつかない。

「あの時、僕が声をかけなかったら、君は間違いなく轢かれていたぞ?」

  侯爵様の目が怒っている気がする。
  これは、もしかして私の足取りがフラフラしていたせいで、自ら馬車の前に飛び込んだと思われているんじゃ……!?

「まさかとは思うが……命を無駄にするつもりだった、のか?」
「そ、それは違います!!」

  そこだけは全力で否定させてもらう。
  そんなつもりは一切無かった。
  どんなに惨めで悔しくても私はそんな事は絶対に考えたりしない!

  私は彼の目をしっかりと見つめながら否定する。

「……では、何があったんだ?」
「そ、それは……」

  出来れば口にしたくは無いけれど、でも、この方は見ず知らずの私を助けてくれて屋敷まで運んで治療までしてくれた。
  その義理はちゃんと果たさないといけない。

  (それに、この国の社交界にいなかった方なら、ティモンとの繋がりはないはず!)

「わ、私は……リーファ・アクィナスと申します。アクィナス伯爵家の娘です」
「アクィナス伯爵家?  伯爵令嬢だったのか」
「はい。それで、こ、この怪我は……」

  しんっと静まり返った部屋に自分の声がとてもよく響いていた。
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