【完結】“つまらない女”と棄てられた地味令嬢、拾われた先で大切にされています ~後悔? するならご勝手に~

Rohdea

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第2話 モヤモヤ

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「えーー?  プロポーズされたの!?」
「しーー!  声が大きいわ。まだ、誰にも内緒なの!」
「あ、ごめんね、つい……」

  ティモンからプロポーズを受けてから数日後。
  私は親友のローゼと二人でお茶会を開いていた。
  ローゼはとにかく明るくて華やかな美人。性格も人当たりも良いので誰からも人気がある令嬢だ。
  特にキラキラとした輝きを放つサラサラの金の髪は、平凡な亜麻色でくせっ毛の私には羨ましいくらい眩しく見える。

  私はそんな彼女にだけは、ティモンとの交際を明かしていた。

「良かったわね、リーファ」
「ありがとう」
「でも、とってもおめでたい話だけれど、リーファが結婚だなんて……先を越されてしまうのね……さみしいわ」

  ローゼが寂しそうに飲んでいたお茶のカップをソーサーに戻しながら俯いた。

「ローゼ……」
「でも、親友のリーファの結婚だもの!  心から祝福するわ!」
「ありがとう!  でも、まだ先の事だから秘密にしていてね」
「もちろんよ!」

  顔を上げたローゼが笑顔で頷く。

「でも、ローゼは?  ローゼはいい人いないの?」
「私?  うーん、私はね……ほら……」

  (あ……しまった!)

  そう言って顔を曇らせるローゼ。  
  ローゼは社交界でもモテるし、とても人気なのに婚約者はいない。
  その理由は彼女の家が没落寸前の男爵家だから、と言われている。
  ローゼ自身もよく「家がね……」と言っている。相当ネックとなっているのだと思う。

  こんなにも美人なローゼなので、交際を申し込む男性は少なくないと聞いている。
  だけど、誰もが結婚までは無理……と渋るらしい。
  
  (でも、ローゼにも素敵な人がきっと現れるわ!)


  この時、何も知らない愚かな私はそう信じていた────


◆◇◆


  その日は、ティモンが勉強ではなく息抜きしたいというので、街でデートをする予定だった。

「あ、大変!  早く着きすぎてしまったわ」

  このまま待ち合わせ場所で待機するにはちょっと時間が余り過ぎる。
  しょうがないので先に街の中をフラフラと探索する事にした。

  街の中を歩いていて、私は目についた宝飾屋の前でふと足を止めた。

  (そうだ、指輪……)

  ティモンと婚約するならやっぱり指輪は必須だ。
  もしかして、今日彼が街に行きたいと言っていたのはその買い物だったりするのかしら?
  そんな事を考えていたら、ついつい頬が緩んでしまう。

「気が早いわね、私も。顔、赤くなっていないかしら?」

  そんな独り言を呟きながらお店のガラスに映った自分の姿を確認していた時だった。
  ガラスに映りこんだ人影を見てあれ?  と思った。

「……ローゼ?」

  映りこんだ人影がローゼに見えた。
  私は慌てて振り返る。
  だけど、ローゼらしき人物の姿は見えなくなっていた。

「……まぁ、街にいてもおかしくは無いものね。でも……」

  私の勘違いでなければ、そのローゼかもと思った人物が歩いて来た方向は店ではなく宿が建ち並ぶ区画だった。

  (もしかして、ローゼが宿に?)

「んー……きっと人違いよね」

  私はそう思う事にした。
  それに万が一、あの人物が本当にローゼだったとしても宿に泊まる事が別に犯罪なわけでもない。何故か……は気になるけれど。
  だから私が気にすることでは無い。

 「あ、時間!」

  そうこうしているうちに、ティモンとの待ち合わせの時間になったので私は慌てて待ち合わせ場所まで戻る事にした。



「リーファ」
「ティモン!」

  五分ほど遅れてティモンが待ち合わせ場所にやって来た。
  片手を上げながら向こうから歩いてくる。

「すまない、遅れた」
「ううん、大丈夫よ」

  ティモンが到着し、私が微笑みながらそう答えた時、ティモンの方からフワッと知らない香りがした。

  (……あれ?)

  ティモンは普段から香水を使っているけれど、この匂いは初めてのものな気がする。
  香水、新しいのに変えたのかしら?

「ティモン、今日は新しい香水をつけているの?」
「え?」

  ティモンが驚いた顔を私に向ける。
  あれ?  何で驚くのかしら?  と、不思議に思った。
  私は首を傾げる。

「ティモンからいつもとは違う匂いがするけれど?」
「……あ、ああ!  そうなんだよ!  すごいなリーファ。分かるのか……」

  ティモンの声は少し上擦っていて、自分の身体の匂いを確かめるように腕を動かしていた。

「うん、でも私は前の方が好きかな。今日の匂いは男性がつけるには少し甘い気がする」
「そ、そうか?   悪い。次は気をつけるよ」

  ティモンは、ハハハ……と笑いながら頭を搔いていた。

  そんな話をしながら私たちは歩き出す。
  さっき、先に街に行った時に通った宝飾屋の前に差し掛かった時は淡い期待を抱いて胸がドキドキした。
  でも、ティモンはその店を全く見ることも気にすることも無く素通りしてしまった。
  その事に密かにガッカリしながらも、きっと今じゃないと言い聞かせて私は笑顔でティモンに訊ねる。

「ねぇ、ティモン。お腹空いてない?」
「え?」
「もうすぐお昼だし、どこかお店にでもー……」
「ああ、悪い。リーファ。俺、今はあまりお腹空いてない」
「そうなの?」

  ティモンはよく食べる方なので珍しい。
  そんな私の疑問が伝わったのか、ティモンは申し訳なさそうに言った。

「実は、今日寝坊しちゃってさ、朝食を摂って来たばかりなんだよ」
「ええ!」
「本当にすまない。だけど、リーファがお腹空いてるなら……」
「ううん、私は大丈夫」

  (何だろう?)

  香水の事も、朝食の事も、別にティモンはおかしな事を言っているわけでは無いのに……
  何かが私の胸に引っかかる。

  (私は何にモヤモヤしているのかしら?)

  その原因が分かればティモンに疑問をぶつける事も出来るのに。
  胸の中にあるモヤモヤの正体が分からず、うまく言葉に出来ない。

  結局、その日は終始ティモンとの会話が噛み合っているようで、でもどこかがズレている。  
  そんな感覚のままデートを終える事になった。

「……こんなにも楽しくなかったデートは初めてかもしれない」

  私はそんな事をこっそり呟きながら屋敷に帰った。


◆◇◆

  
  このモヤモヤの正体が分かったのは、それから数日後。
  我が家が昔から懇意にしている家で開かれたパーティーに出席した時だった。

「ローゼ!」
「あら、リーファ」
「今日のパーティーはローゼも来ていたのね!  すごいたくさんの人に囲まれている令嬢がいるわと思ったらローゼなんだもの」
「ふふ」

  やっぱり、ローゼは人気者なんだわ!
  と思っていたらローゼが私に目配せをしていた。

「どうしたの?」
「リーファ、“彼”が来ているわよ?」
「え?」

  そう言われてパーティー会場の入口に視線を向けると確かにそこにはティモンの姿があった。

「ティモン……」

  数日ぶりに会えた事を嬉しく思っていると、ローゼが不思議そうに訪ねてきた。

「あら?  リーファは彼も参加する事、知らなかったの?」
「うん……お互いの予定そこまで擦り合わせていなかったから」

  周りには交際を秘密にしているから仕方がない。

「へぇ、そうなのね……」

  この時の私は、ローゼがどこか意味深な微笑みを浮かべていた事に全く気付いていなかった。
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