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第49話 自分で決めた選択
しおりを挟む(自ら手放したって、どういう意味かしら)
コンラッド様はよく分かっていない様子のわたくしに説明してくれる。
「トゥライトル侯爵や、君の兄王子たちがたくさん手紙をくれたからね。あのパーティーの後、その後の話は定期的に私の耳にもいくつか入って来てはいた」
「はい……」
(んん? お兄様たちからの手紙がたくさん……?)
そこが少し気にはなったけれど、とりあえず話の先を聞くことにする。
「だが、ジャン……そこのクラリッサの元護衛騎士についてはあまり情報がなかった。まぁ、騎士も既に辞めている身だからね」
(コンラッド様もはっきりとした情報は持っていなかったのね……)
わたくしと同じね、と思った。
「なので、そこの男からクラリッサに会いたいという内容の手紙が届いた後、私は何を今更! と、気になって元護衛騎士とその元妻、アルマのことを詳しく彼らに聞くことにした」
「あ……」
わたくしがジャンに会うか否かの結論を先伸ばしにしていたから、その間にコンラッド様は黙って待つことはせずに色々行動していた、そういうことらしい。
(流石というか、本当にコンラッド様らしいわ)
「そうして教えてもらったのが、そこのジャンの夫人──アルマの受ける処罰についてだった」
「アルマの!」
わたくしが咄嗟に反応を示すと、コンラッド様は頷く。
「王女でもあるクラリッサに冤罪をきせたことを罪に問われている彼女だけど、その背景にあったことや、大人しく取り調べにも応じていて素直に自供をしていることも含めて、処罰に関しては情状酌量の余地があるともされている」
「……! そうなのですか?」
元宰相のことに関しては今も許せないという気持ちが強いけれど、正直に言えばアルマに対してわたくしは厳しい刑を望んでいなかった。
口を出すことはしないと決めたからもちろん誰にも言っていないけれど。
だからその話を聞いてひそかに安堵する。
「そうは言っても、もちろん、それなりの処罰は受けることにはなるけどね」
「はい……」
「そういう理由で、ジャンとの婚姻も互いが納得して望むのなら継続しても構わないと言われていたそうだ」
「え? でも、二人は離縁した、と……」
ジャンの言い方だと離縁したくなかったけど、無理やりさせられたかのような───
そう思ったわたくしはジャンに視線を向ける。
でも、彼は俯いたままだった。
(ジャン……?)
「二人の中で話し合いの時間がもたれて、アルマはジャンにこれまでのことを認めた上できちんと謝罪と説明をして反省の意も示した」
「アルマ……」
「そこで、もしも許してくれてやり直せるチャンスを貰えるならば、ジャンと新しい関係を一から始めたい……とアルマは願ったそうだ。しかし──」
「……ジャンはそれを拒否、した?」
コンラッド様は頷いた。
「実は出会いそのものから騙されていた……ということを知ったジャンの気持ちを思えば、そう簡単に許せずに、アルマとはやり直せない無理だと思うことは別に何も責められることではない。至って自然な感情だ」
「はい……」
「実際、アルマもジャンのそんな気持ちが分かったからこそ、追い縋ることはせずに納得して離縁を受け入れた。そうして二人の離縁は成立し別離の道を選んだ──」
コンラッド様はわたくしの顔を見ながらそこまで言うと、今度はジャンに視線を向けながら問いかけた。
「そういうわけで。彼女とはやり直せないと判断したのは自分自身の選択だろう? ジャン・トュース」
「……」
「人の気持ちは難しいし、そんな簡単に割り切れるものでもない。だから、本当に彼女を愛していたと言うなら反省したアルマを受け入れてやり直すべきだ……とまではさすがに言わない」
「……」
ジャンはここでも言葉を発しなかったけれど、チラッとコンラッド様に視線だけ向けた。
「だが、自分で考えて決めたはずの彼女との別離をまるで全てクラリッサのせいのように言って逆恨みするのだけは止めてもらおう。許せない!」
「っ!」
ジャンは身体を少し震わせたけれど、それでも声はあげなかった。
とにかく沈黙を貫こうとしている。
そんなジャンに対してコンラッド様も止まらない。
「申し訳ないが、私には愛していたはずの女性の全てを受け入れられなかった自分の器の小ささをクラリッサを責めることで発散している子供にしか見えない」
「なっ……! こ、子供!?」
コンラッド様のその言葉でようやくジャンも声を上げる。
さすがに子供扱いされては黙っていられなかったらしい。
「ああ。子供だ。少なくとも騎士を名乗っていた男には見えない」
「……くっ!」
ジャンは悔しそうにコンラッド様を睨みつけたけれど、対するコンラッド様は余裕の態度を崩さない。
「君は王女の護衛騎士という立場でありながら、クラリッサよりも彼女を選んだんだ。それだって自分で決めたことだろう?」
「……そ、れは……」
「ん? ああ、少し違うか。それも殆どアルマの言いなりになっていただけだったか……やっぱり子供のようだな」
「っっ!」
その言葉はジャンのプライドを大きく傷付けたのか、ジャンは悔しそうに歯を食いしばっている。
「───クラリッサは、誰からも守られず、罰を受けて心も身体もたくさん傷付いた!」
「え? 誰からも……守られ、ず? だって、王女……」
ジャンがおそるおそるわたくしの方を見る。
その目がまさか……と言っている。
「クラリッサの様子が以前と違っていることは感じているくせに、どうしてそこは分からないんだ」
「そ……そういう振りをしている、のだと……だ、だから……」
「違う! そうではない!」
「ち、がう?」
動揺するジャンに向かってコンラッド様は冷たい目を向けて言った。
「それに、だ。仮にそうだったもしても、だからと言ってクラリッサに対して何を言ってもいいわけではないだろう!」
「……っ」
「いいか? よく聞け───最後の忠告だ。これ以上私の大切なクラリッサを傷付けようとするのなら、私は何一つお前に容赦はしない」
「!!」
コンラッド様のその発言はとても恐ろしく聞こえた。
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