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第41話 昨日の敵は……
しおりを挟む「──極度のお兄さん好きなんだよね」
(……え? コンラッド様の声?)
「え?」
「は?」
「コンラッド……?」
その声に驚いて振り返ろうとすると、コンラッド様が後ろからわたくしを抱きしめた。
なにごと!? と驚いている間もなくコンラッド様は続ける。
「さっきも、婚約者である私とダンスを踊りながら、祖国での兄王子たちとダンスを踊っていた頃のことを思い出していたからね」
「え!? コ、コンラッド様……!? そ、それは……!」
(間違ってはいないけれど、何かが違う!!)
「確かにクラリッサは酷い人だよ。ここは婚約者の私を一番に想って欲しいところなのに」
頭上からそんなツンッと拗ねた声が聞こえてくる。
そしてますます、わたくしはギュッと強く抱きしめられた。
「殿下! い、いったい何の話をしているのですか!」
「そうです! それにクラリッサ王女殿下とそのご家族の関係は……」
サマンサ嬢の調べた報告書には、当然、わたくしと家族との断裂も書かれている。
なので、内容を知っているであろう二人はコンラッド様のこの発言に大きく混乱していた。
「───実は、先日。私も一緒についていったのだけど、クラリッサはランツォーネに里帰りしていたんだ」
「さ、里帰り……ですか?」
「なぜ? ……だって王女殿下は……」
家族に見捨てられたはずの王女が里帰りするなんておかしい。
そう思っての言葉だ。
「実は……クラリッサは国を出る前、兄妹はちょっとした喧嘩をしてしまっていたようでね?」
「け、喧嘩……?」
「クラリッサがそのことで悩んでいたから、思い切ってその諍いを解消するために里帰りしたんだよ」
「い、諍いを解消……?」
コンラッド様はわざと含みを持たせて二人にそう言った。
───お前たちが暴露しようとしている情報はすでに古いものだ。
その意図が伝わって欲しいとわたくしは願う。
二人は言葉を失って顔を見合わせる。
半信半疑といったところ。
「そうしたら、兄王子たち……クラリッサのことが恋しくなったのか、帰国してから頻繁に手紙が届くんだよね」
(───え? 何の話?)
「手紙……が?」
「ほ、本当なのですか?」
「もちろん、本当だ」
コンラッド様が頷くけれど二人はそう簡単には信じられなかったようで、わたくしの方に視線を向けると二人は言った。
「いえ! ですが、そのわりには王女殿下の様子がおかしいです」
「呆然としています! 手紙のこと知らないのでは? 殿下の嘘だという可能性はありませんか?」
二人の質問にコンラッド様はにっこり笑って答える。
「───いいや? でも、クラリッサが驚くのも無理はないんだ」
「?」
わたくしも含めた皆が首を傾げる。
「だって、あまりにも手紙が執拗いので、お兄さん好きのクラリッサが手紙を読んで“兄たちが恋しいから国に帰ります”なんて言い出さないようにとずっと今日まで隠していたからね」
「「なっ……!」」
「あれ? これってクラリッサの秘密ではなく、私の秘密になるのかな? まぁ、いっか」
「───コンラッド様!?」
さすがに耐えきれなくなったわたくしもコンラッド様に呼びかける。
「しょうがないだろう? 私はこんなにも愛しい婚約者のクラリッサに夢中なのだから」
「~~っっ! そ、それよりも……!」
(なんでそんなすぐにバレてしまいそうな嘘なんかをこの場で堂々と───……)
「ああ、手紙のこと? お兄さんたちにもパーティー気分を味わってもらおうかと手紙の一部を忍ばせて来ていたから……はい。これだよ」
手紙あるの!? パーティー気分を味わうってなんだ!?
会場にはそんな空気が流れたけれどコンラッド様は我関せず。
懐から一通の手紙を取り出すとわたくしに手渡した。
「……」
受け取ったその手紙の宛名の字体を見てわたくしは息を呑んだ。
「……お兄様の字です」
「うん。だから、そう言っていたじゃないか。でも、お願いだクラリッサ。この手紙を読んでもお兄さんたちが恋しいなんて……」
「い、言いません!」
「……手紙を隠していた私を責めたりは……」
「し、しません!」
真っ赤になってそう答えるわたくしと、極度のヤキモチを妬いているようにしか見えないコンラッド様の姿に会場中はすっかり甘い雰囲気に変わってしまった。
「な、なんで……」
「どうして?」
わたくしを責める気満々だった二人はこの展開に動揺している。
そこにすかさず間に入ったのが、サマンサ嬢だった。
「───二人共! さっきから突っ走りすぎよ。いい加減に私の話を聞いて!」
「サマンサ様……?」
その声に二人の令嬢が振り返る。
そこにはもうオロオロしていたサマンサ嬢はいない。
「今ので、よく分かったでしょう? コンラッドの王女殿下への無性に重たい愛が!」
「重たい愛……?」
「そうよ! くだらない嫉妬で遠く離れた家族からの手紙をこっそり隠しているのよ? 私からすればそんなことをするコンラッドの方が王女殿下に相応しくない気がするわ!」
サマンサ嬢のその言葉に会場も確かに……という空気になる。
そのせいで、なんとも言えない視線がコンラッド様へと集中する。
「……クラリッサ。すごい呆れられた視線が私に向けられているんだけど……」
「……」
わたくしはなんて答えたらいいのか分からず苦笑することしか出来なかった。
(手紙……の件は後でコンラッド様に説明してもらうとして……今はこっちよね)
「コンラッド殿下、並びにクラリッサ王女殿下。このたびは二人の門出でもあるこのような場で、私と私の友人が大変失礼な振る舞いをいたしました……心よりお詫び申し上げます」
サマンサ嬢がわたくしたちの前で頭を下げる。
そんな彼女の姿に二人の令嬢も慌てて後から従った。
「も、申し訳ございませんでした……」
「私たち……と、とんでもないことを……申しわけございません……」
「──コンラッド殿下。全ての責任は私にあります。元々は私の不用意な発言が彼女たちを誤解させてしまったのです。王女殿下も本当に不快な思いをさせて申し訳ございませんでした」
(サマンサ嬢……)
彼女がこう振る舞うのは珍しいことだったのか、コンラッド様が驚いた顔をしている。
「……とりあえずこの件の処分は追って伝える。今は──」
「はい。せっかくのパーティーの場を乱した私たちはこれで下がらせて頂きます」
そう言ってサマンサ嬢と二人の令嬢は会場を後にしようとする。
わたくしは出ていこうとするサマンサ嬢に声をかけた。
「───サマンサ様! あの!」
「はい?」
振り返った彼女に向かってわたくしは言った。
「また、わたくしとお茶を一緒に飲みましょう?」
「……え?」
「今度こそ、サマンサ様の……あなた自身のお話を聞かせてください」
わたくしのその言葉にサマンサ嬢の目が驚きで大きく開く。
そして、そっと口を開く。
「……また、あの茶葉を用意していただけるなら」
「分かったわ! 用意しておきましょう」
わたくしは笑顔で頷く。
「あと……それですと、コンラッドの情けない子供時代の話も含まれますよ? きっと百年の恋も冷めてしまうかもしれませんが?」
「!」
「お、おい、サマンサ!」
「大丈夫です。ぜひ! ──楽しみにしていますわ!」
「な! クラリッサまで!」
コンラッド様が慌てている。
どんな話を聞いてもあなたへの想いが冷めることはないけれど───
オロオロするコンラッド様の横で、目が合ったわたくしとサマンサ嬢は一瞬だけ微笑み合った。
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