【完結】偽りの愛は不要です! ~邪魔者嫌われ王女はあなたの幸せの為に身を引きます~

Rohdea

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第32話 公爵令嬢の誤算

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❋ ❋ ❋


  (どういうことなのよ、これはーーーー!)

  私からコンラッドを奪ったあの憎き王女のとんでもない本性を知った私は、侍女の助言に従ってお茶会を開いた。
  もちろん、この目的は王宮への立ち入りを禁じられている私の代わりに、王女の本性を広めてもらう為。
  侍女の言う通り、お父様には反対されなかったのでお茶会は無事に開催された。
  あとは私が王女の本性をバラすだけ!

  ……だった……のだけど。

「サマンサ様のお茶会に招待されるなんて夢のようですわ!」
「私もいつかは……と憧れでしたの」
「まさか、このような機会がやって来るなんて!」
「あぁ、美味しいです。やはり、公爵家ともなると使っている茶葉が我が家とは違いますね」

  (……なんだか、やかましい……わね)

「───え、ええ。ありがとう……今日は楽しんでいってちょうだい……」
「ありがとうございまーーす!」
「きゃーー、美味しそう」

  私がそう口にすると、彼女たちは仲良く口を揃えてお礼を言って、お茶やらお菓子やらに夢中になり始めた。
 
  (え?  話は?  どうして食べることばかりに夢中になって……?  え?  え?)

  お茶会に現れたのは、今まで私と全くといって交流が無かった下位貴族の令嬢ばかりだった。
  基本的に下位貴族の令嬢たちとこの高貴な身分の私では話が合わない。
  教養もマナーも何もかも稚拙なせいで、一緒にいて私に得られるものも何一つないので敬遠していた。

  (ここは、お菓子なんて殆ど手をつけずに含み笑いしながら「サマンサ様、最近コンラッド殿下とはどうなんですの?」とか聞いて色々と探ってくる所でしょう!?)

  お菓子に夢中になっている彼女たちからは、コンラッドのコの字すら話題に出て来ない。
  私は侍女に「どういうことよ!?」と目で合図を送るもののスッと視線を逸らされた。

  (……チッ!  よ、予定とはかなり違うけれど彼女たちが“お喋りな性格”なのは間違いなさそうよね)

  さっきからこれ美味しいだのなんだのとこれだけ騒いでいるのだから、上手く誘導さえすれば社交界であの王女の真実の姿の噂を広げてくれること間違いなしのはず。
  私は内心でニヤリと笑う。

「ところで皆様、これまで社交界では私とはあまりお付き合いして来ませんでしたが普段は──」
「ああ、はい。私はあまり社交界に顔を出さないので……」
「……私もです」
「お恥ずかしながら、家にあまり余裕がなくて社交界は……」

  (…………は?)

  なんと彼女たちの口から出るのは、社交界とは縁遠いという言葉ばかり。

  (嘘でしょう!?  こんな状態でどうやって私の代わりに噂を広められるのよ!?)

「ですから、今日はサマンサ様にお誘いいただけて本当に幸せです!  ありがとうございます!」
「え、ええ。こちらこそあ、ありがとう……そう言っていただけて嬉しいわ……」

  純粋に私を慕ってくれるような様子を見せてくれるのに……何かが違う。
  私が求めていたのはこれじゃない。
  おかげで会話も全然私の思う通りに進まない。
  話題を一つふるだけで、あれやこれやと好きに喋られてしまい一向に私が望んだ会話にならない。

  (このお茶会は失敗だったのでは?)

  本気でそう思いかけた時、ついに待ってましたの話題に切り替わった。

「そういえば、コンラッド殿下の婚約が発表されましたね」
「お相手はランツォーネの王女殿下だと聞きましたわ」
「どんな方なのでしょう?」

  (───来たわ!  ついに!  やっとあの王女のことを話せる!)

「──そうです、皆様、聞いてく……」
「私がお父様から聞いた話だと、あのコンラッド殿下がデレデレだそうですわ」
「ええ!?」
「想像出来ません!」
「あ、でもお相手の王女殿下も、コンラッド殿下の前では頬を赤らめたりして大変可愛らしい様子だったと私も聞いたわ!」
「それは素敵ね!」

  (は?  …………ちょっと?)

  私の目の前で、コンラッドと王女のラブロマンスの話で盛り上がり始めた令嬢たち。
  確かに侍女からは、
  ───サマンサ様と殿下の絆は、王子と王女の新しいロマンスに塗り変わっております。
 と、聞いてはいたけれど!
  まさか、ここまでだったなんて……

  (え、やだ、ちょっと……この空気でその王女は殺人未遂を起こしていてーー……なんて言える?)

  駄目よ。
  今、そんな強引にその話題へと持っていったら、私が王女に嫉妬して悪意のある噂を広げようとしている……なんて目で見られてしまう気がするわ。完全に逆効果。

「~~~~っ!」

  その後もコンラッドと憎き王女の話題で盛り上がる令嬢たち。
  どれだけエピソードがあるのか、どれもこれもコンラッドが王女にベタ惚れしている話ばかり!
  もうそこには、私とコンラッドのかつての噂なんてどこにも存在していなかった。

  (な、何でなの……)
  
  こうして私は完全に出鼻をくじかれた。



❋❋❋


「───に、なると思うだろう?」
「はい……」

  わたくしが神妙な顔で頷くとコンラッド様は首を横に振った。

「そんなことはない。サマンサのお茶会は失敗している」
「え?  サマンサ嬢のお茶会は失敗している……ですか?」
「うん、ほらここ」

  そう言われてコンラッド様の手紙をそっと覗きこむ。
  すると、そこには確かに“サマンサ嬢は噂を広めることは失敗した様子”と書かれている。

「本当ですね……でも、何故ですか?」
「……」

  わたくしが手紙から目線を上げると、コンラッド様はちょっと悪い顔をしていた。
  
「……公爵家には私の手の者を潜ませているんだ」
「え!」
「サマンサの性格上、自分の代わりに社交界で噂を面白おかしく広めてくれそうなお喋り好きな令嬢をお茶会に呼べ!  と命令すると思ってね。だからお喋り好きだけど社交界にはあまり縁のない令嬢たちをリストアップさせておいてお茶会に招待させるように仕組んでおいた」
「……コンラッド様」
「手紙を読む限り上手くいったみたいだ。まぁ、それでもサマンサは諦めの悪い性格だし、古い情報になったとはいえ、クラリッサの情報を握ったのは確かだから……油断は出来な──って、クラリッサ!?」

  わたくしは自分からコンラッド様に抱きつく。

  サマンサ嬢がわたくしの話を悪意を持って広めていても、冤罪だと証明された今なら、それを広めたサマンサ嬢は真偽の不確かな情報を悪意を持って広めた……と反撃することが出来る。
  だから、サマンサ嬢のすることを放っておいてもよかったはず。
  けれど、それをせずに未然に防ぐ方法を取ったのは……

  (わたくしのため……)

  噂が大きく広がれば、冤罪だと知ってもわたくしのことを悪意ある目で見る者は必ず現れる。
  だって、人の印象なんてそうそう簡単には変わらない。
  だから、これは少しでも変な先入観をわたくしに抱くことが無いように、と配慮してくれたからだ。

「クラリッサ?  どうした?」
「……ありがとう……ございます」
「え?」
「……」

  わたくしはありがとう以外の言葉が出て来なくて無言でギュッと抱きつく。

「よく分からないけど、クラリッサから抱きついてくれるなんて幸せだからいいかな」
「!」

  コンラッド様はそう言って優しく抱きしめ返してくれた。
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