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第31話 公爵令嬢の企み?

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❋ ❋ ❋


「コンラッドがいない……!?」
「は、はい。婚約者の王女殿下と他国に行かれているそうなのです」
「またなの!?  この間行って帰ってきたばかりでしょう!?」

  サマンサは侍女にそう怒鳴りつける。
  けれど、怒鳴りつけられたからと言って侍女にそれ以上のことが分かるはずがない。

「……どこの国に行ったのよ?」
「そ、それが……探ってみたのですが……そこまでは分からず。どうも行先は公にはしていないようなのです」
「はぁ?」

  ますます意味が分からない。二人揃ってどこに行ったのよ……と、サマンサは苛立つ。

(せっかく、あの王女の弱みを握ったというのに……)

  この事実を突きつければ、何故か王女にベタ惚れ……なんて噂されているコンラッドだって騙されたと目を覚ますはず。
  だって、私が調べた所によると、あの王女は自国で“殺人犯”と呼ばれていたのよ?
  そして我儘で傲慢な性格だとも。
  やっぱりとんでもない性格だったわ。
  気に入らない令嬢をいじめ抜いて、しまいには殺人未遂事件まで起こしてる───そんな女をコンラッドの妃だなんて認められるはずがないわ。
  なんて図々しいの!

  (しかし、そうなるとあの王女……どうしてやろうかしら?)

「やっぱり誰よりもコンラッドの妃に相応しいのは私でしょう?  私しかいないわ。そう思うわよね?」
「え、ええ……はい」
「いいこと?  コンラッドも、王も王妃もみーーんなあの王女に騙されているのよ!」
「あのサマンサ様……わ、私にそう仰られても……」

  侍女は困った顔をサマンサに向ける。
  一方、サマンサはキッと侍女を睨みつけるだけで再び怒鳴る。

「あぁ、もう!  私の王宮立ち入り禁止はいつ解けるのよーー!  そもそもなんで禁止なの!  何度試みても本当に通してくれないし!  これじゃみんなにあの王女の真実を伝えられないじゃないのーー!」

  侍女はどうにかしてサマンサをなだめようと思った所でふと気付いた。
  すごくすごく単純な方法があるじゃないか、と。

「サマンサ様……それならご自身でお茶会を開けば良いのでは?」
「は?  お茶会?」
「そうです。旦那様はなぜかサマンサ様の王宮への立ち入りは禁止だと言い渡していますが、公爵家でサマンサ様がお茶会を開くことまでは禁止していないですよね?」
「……!」

  侍女からその提案を聞いたサマンサはニヤリと笑う。

  (先にコンラッドを含めた王族の人たちに真実を伝えなくちゃと思ったけど……先に世間に広めておくのも悪くはないわよね……?)

  そこから王族の耳にも入るはず!
  そうなれば帰国したコンラッドの耳にだって必ず入る!

「分かったわ! お茶会を開くわ!」
「承知しました」
「そうね、メンバーは……ああ、コンラッドが王女と婚約してから私に同情的な目を向けている令嬢たちを中心に集めてちょうだい!  あと、そうね……お喋りな性格なら、なお良いわね!」
「は、はい!」

  (二人揃ってどこに行っているか知らないけれど、王女は帰国した時に思い知らせないとね)


  ────残念でした!
  あなたの居場所はもうなくなっているわよ?  王女殿下。

  

❋❋❋


「───サマンサがクラリッサの情報を入手したらしく、それを広めようとしている」
「え?」
「サマンサが何かしら動いた時は注意するようにと側近に言っておいたんだ」

  手紙を開封して中身を読んだコンラッド様がため息と共にそう言った。

「わたくしの情報って、まさか……」
「うん……今日、解決したばかりの転落事故の件だろうね、あとはクラリッサが行った過去の嫌がらせの件……かな」
「……」

  あの時に話していた懸念事項が現実となった。

  (サマンサ嬢はそこまで……)

  わたくしはどこか彼女を甘くみていたのかもしれない。
  あんなに過去の自分と似ていると思っていたのに……

「クラリッサが冤罪だった……という話が広まるとしたらこれからだろうから、確実にサマンサは古いその情報を真に受けていると思う」
「……もう既に広めてしまっているのでしょうか?」

  前にも言ったけれど、冷たい目で見られることなんてすっかり慣れている。
  だから、どんな目で見られても挫けたりなんかしない。

  (でも……)

  少しずつ王宮の人たちとの関係も良くなって来ていた気がしたけれど、これでまた振り出しに戻ってしまうのかもしれない。
  それに、コンラッド様にも迷惑を───……
  わたくしは、ギュッとドレスの裾を掴み握り込む。

  (──それでも、どんな目で見られても何を言われても転落事故の件だけは、はっきり否定させてもらうわ)

  他のことはいくら責められても仕方がないことだと受け入れている。
  それでも転落事故の件だけは絶対に認める訳にはいかない。
  また冷たい目で見られる形に戻ってしまっても、前みたいにどうせ訴えた所で無駄なんだとはもう思わない。

「……クラリッサ」

  コンラッド様がそっとわたくしの頭を撫でた。

「こういうこともあるかと思ってね、実は少し先に手を打っておいたんだ」
「え?」
「そもそも、サマンサは今、王宮に立ち入り禁止になっている」
「立ち入り禁止……?」

  そこで、今更ながらハッとする。
  だから、彼女はあのお茶買いのあと、わたくしに追い打ちをかけに来なかったの?
  あれは来なかったのではなく、コンラッド様が手を回していたから来たくても来れなかった……?

「サマンサは母上を使ってまでクラリッサに接触を試みていたからね。二度目は起こらないようにと今度は厳重にしてある。もちろん母上にも強く言っておいた」
「そ、そうだったのですね、ありがとうございます」

  (───何も知らなかった。知らないうちに守られていた……)

  コンラッド様のその気持ちに泣きそうになった。

「だから、とりあえずサマンサは王宮でクラリッサの話を広めることは不可能なんだ」
「はい……」
「そうなると、サマンサの取ろうとする方法はおのずと限られてくる」
   
   他に噂の類を広める方法、となると……

「……お茶会、ですか?」

  わたくしが訊ねるとコンラッド様は頷いた。

「手紙にもそう書いてあるよ。サマンサは令嬢たちを集めてお茶会を開いたそうだ。そして当然、話題はクラリッサ、君のこと───」
「!」

  わたくしはゴクリと唾を飲み込んだ。
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