【完結】偽りの愛は不要です! ~邪魔者嫌われ王女はあなたの幸せの為に身を引きます~

Rohdea

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第30話 情けない人たち

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「……ク、クラリッサ、や、やめろ……!」
「どうして?  お父様?  お父様は侯爵のように悩んではいないみたいですけれど、この先は分かりませんからね、ふふ」
「そ、そんなものは、求めておらん!」

  お父様が必死に抵抗しようとするも、わたくしは笑顔で押し切る。

「大丈夫ですわ。(ただの水だから)命に支障はありません」
「そ、そういうことでは無い!」
「嫌ですわ。昔はわたくしからのプレゼントなら、何でも“嬉しいよ”と言って受け取ってくれたではありませんか」

  (そう……それが例え道端で拾った石ころでも!)

「───っ!」

  そう言ってわたくしは、言葉を詰まらせたお父様に毛根活性剤と称した水を頭からかけてあげた。
  うわぁぁぁーーと情けない悲鳴をあげるお父様の姿は滑稽だった。
  その様子を見ていたお母様も「陛下あぁぁぁ!」と悲鳴をあげて卒倒した。

「さ、お兄様たちも!  王太子殿下には婚約祝いで更にもう一本追加しちゃいますね!」
「ク、クラリッサ!」
「お、お前……ほ、本気で言っているのか!」
「何がです……?  もちろん本気ですわよ?」

  わたくしは首を傾げる。
  だって、お父様やお兄様たちの頭の事情がどうなろうとわたくしには一切関係ありませんもの。
  そんな中、婚約が決まったばかりの王太子のお兄様がとにかく必死に抵抗しようとする。

「い、いや、待て!  お、お前のこ、婚約者殿がもし同じようなことになったら、お、お前だって、い、嫌だろう?」
「コンラッド様が?」
「そそそ、そうだ!」
「……」

  わたくしは想像する。
  そしてすぐに一つの結論を出した。

「───コンラッド様はどんな髪型をされてもかっこいいので問題ありませんわ」
「なっ!」
「お前、正気か!?」
「ええ、もちろん!」

  コンラッド様の素敵なところは見た目だけではないもの。
  だからどんな髪型でも似合うと思うわ。

  (───あなた達には分からないでしょうけど!)

「や、やめろぉぉぉーーーー」
「絶対、活性化なんてしない!  それ、死滅一択だろぉぉ!?」
「さぁ?」

  再び叫び出したお兄様たちにわたくしは怪しく微笑む。

「───クラリッサ、た、頼む!  わ、私たちが悪かっ……」
「あ、そういうの本当に今は求めていませんので!  どうしても謝罪したいのなら後日、正式な文書でプリヴィア宛てに送ってくださいませ!」
「「ク、クラリ……」」

  わたくしは笑顔のまま、問答無用でお兄様たちにも偽毛根活性剤を頭からたっぷりかけてあげた。




「……ふぅ」

  お父様を始めとした家族だった人たちが皆、うずくまって苦しそうに呻いている。
  その呻き声の中には“信じてやれず、すまなかった”なんて言葉もあったけれど、それを聞いた所でわたくしの心は動かない。
  
  (だからと言ってこれ以上のことをしてやろうなどとは思えないけれど)

  この先のこの人たちの事を思えば……ね。

「───クラリッサ」
「コンラッド様!」

  コンラッド様がそっとわたくしを抱き寄せる。

「すごい───地獄絵図みたいになってる」
「はい!  これでギャフン!  と言わせられたかな?  と思います」
「ははは、そっか」

  コンラッド様が笑ってくれたので、わたくしも微笑んだ。

「あの……本当に、あ、ありがとう、ございました!」
「クラリッサ?」
「だって、コンラッド様がいてくれたから……」

  そう言いかけた所で、ギュッと抱きしめられた。

「コ、コンラッド様!?」
「当然だ。愛しい愛しいクラリッサの為だからね」
「あ……」

  そう言ってコンラッド様がわたくしの額にそっとキスを落とす。
  一瞬でわたくしの顔は真っ赤になった。

「君はまた、そうやって可愛い顔を……しかも会場こんなところで……」
「だ、誰のせいですか!」
「ははは、私かな?」
「もう!」

  わたくしたちは見つめ合っては笑い合う。
  そんなわたくしとコンラッド様の様子をお父様たちは呻き声をあげながらも呆然と見つめていた。





  その後、抵抗する気力をなくした元宰相、アルマ親子は取り調べのために別室へと連れて行かれた。
  アルマがほぼ自白してくれたけれど、これから更に追求されることになる。
  そしてジャンはそこでも連行されていくアルマの後ろ姿を呆然と見ているだけ。
  その様子を見て、わたくしは必死になって助けようとはしないのね……と思ってしまった。
  なかなか現実を受け入れられていないからなのかもしれないけれど、二人の愛がどんなものだったのかが分かってしまい何とも言えない気持ちにさせられた。

  (ジャンにとってはアルマに騙されたままの方が幸せだったのかもしれないけれど……)

  わたくしに散々振り回された挙句、巻き込まれた彼の今後がどんな道を選ぶにしても幸せであればいいと思った。

「クラリッサがまたあの男を見ている」
「ん?」

  その声に振り向くと、非常に面白くなさそうな顔をしたコンラッド様が立っていた。

「……クラリッサは優しいからあの男の今後でも心配しているんだろう?」
「そ、それは……」

  相変わらずコンラッド様にはわたくしの気持ちがお見通し。あっさり見抜かれてしまう。

「し、心配は確かにしましたが……もう彼にわたくしが関わることはありません!」
「クラリッサ……」
「わ、わたくしはコンラッド様の……コンラッド様のこ…………」
「クラリッサ?」

  ──コンラッド様のことが好きだから!
  そう言いたいのに上手く言葉が出てくれない。

  (知らなかった……“好き”という言葉を口にするのはこんなにも難しいことだったのね)

「こ、婚約者……ですもの……」
「ははは、そうだね」

  肝心の言葉が言えなかったのに、コンラッド様は優しく笑って頭を撫でてくれた。


❋❋❋


  結局、滅茶苦茶になったパーティーは、そのまま終了。
  お父様たちは、皮肉にも冤罪だった王女をろくに調べもせず、罪人扱いした人たちとして今度は非難の目を向けられることになった。

  (国民の手のひら返しもすごいわ……)

  国民の同情の目が一気にわたくしに寄せられてしまい、それはそれで正直、気持ち悪い。
  



「え?  明日には帰国ですか?」

  トゥライトル侯爵の屋敷に戻り身体を休めていたら、コンラッド様が部屋を訪ねて来た。
  そして、慌ただしいけれど明日には帰国しようと言った。

「うん。これで、クラリッサの冤罪も晴れたし。それに」
「それに?」
「クラリッサが、居心地が悪そうだからね」
「……」

  (本当に狡い人……)

「……アルマの供述の裏取りのための取り調べはわたくしは受けなくてもいいのでしょうか?」
「クラリッサの供述はすでに前に述べてるのだろう?  あとは勝手にやるさ」

  これも、わたくしの気持ちを考えてくれているからなのだなと思うと擽ったくて嬉しい。
  
  それでは、後処理に追われているトゥライトル侯爵にしっかりお礼と挨拶をしてわたくしたちは帰国───と思ったところに、プリヴィア王国から一通の報せが届いた。
  手紙を受け取ったコンラッド様が首を傾げる。

「……なんだろう?  帰国してからではダメだったのかな?」
「そうですね……」

  コンラッド様曰く、これまで海外に出ている時は、自分から連絡をした時を除いて、余程のことがない限り国の方からは連絡など来ないという。

  (つまり、これはよほどの緊急事態……?)

  不安な気持ちを抑えつつ、わたくしたちはその届いた手紙を開封した。
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