【完結】私の好きな人には、忘れられない人がいる。

Rohdea

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番外編

ルカス③

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  ユーフェミアが現れて、余計な事を口走ったせいで後処理に追われて大変だった。
  おかげで1週間学校に行けなかった。

  最後のテストはもうすぐなのに。
  ……それに、マリエールにも会えてない。


  あんな形でパーティーでマリエールと別れてそのままなんて最悪だ。


  1週間ぶりに学校に行った時に会えたマリエールは、どこか元気が無かった。
  最後のテストが近いからだろうか?


  ドレスを返すと言われても困った。
  いや、一方的に渡したのはこっちだし、現状、ドレスが手元にあってもマリエールが持て余すのも困ってるのも分かってるんだが。
  だが、アレはマリエールの物だ。
  マリエールの為に俺がこっそり用意したドレスなんだ。

  そんな事を口に出したら「どうして?」と聞かれそうで怖い。

  そうしたら “マリエールの事が好きだから”

  そう言いたくなってしまう。
  だけど、まだ言えない。
  今、それを口にする事は出来ない。

  全てはテストの後に。
  首席卒業者が決まってからだ──


  泣いても笑っても最後のテストで運命が決まる。
  俺は……絶対に首席卒業の座を手に入れたい。





  だけど、結果はマリエールの勝ちだった。





  貼られた結果表を見た時は色んな思いが渦巻いた。

  でもやっぱり思うのは、さすがマリエールだ……これに尽きる。
  俺の惚れた女はやっぱり凄い。

  ……マリエールの望みは何だろう?

  俺の望みはもう叶いそうにないけど、マリエールの願いが叶って幸せになってくれればいいなと思う。

「悔しいけど、お前が誰よりも努力して来た事は俺が1番知ってるからな」
「…………」
「そんな情けない顔をしてないでちゃんと胸を張れ、マリエール」

  マリエールが複雑な表情をしていたから、俺はなるべく明るくそう言った。


  だから、そんな申し訳なさそうな顔をしないでくれよ。
  もっと喜んでいいんだよ。

  マリエールの願いが叶う。

  ──それだけで、俺は満足なんだから。



****




  そうして迎えた卒業式。
  昨夜は眠れなかった。

  “マリエールの願いは何だろう?”

  ずっとそんな事を考えていたせいだ。

  真っ先に思い浮かんだのは、“ルドゥーブル男爵家の再興”
  マリエール自身を見ていると令嬢時代に未練があるようには見受けられないが、家族思いのマリエールの事だ。
  両親の為にそう願うんじゃないか?

  ……もし、もしも、だ。

  マリエールの望みがルドゥーブル男爵家の再興で、その願いが叶ってマリエールが再び貴族令嬢となったのなら、俺は……今度こそ彼女を望めるんじゃないか?

  そんな馬鹿みたいな淡い期待を少しほんの少しだけ抱いてしまう。

「……」

  マリエールの幸せを願って、今度こそ彼女を諦めなくちゃと思ってるのに、諦めきれていない自分。本当に情けないな。

「一緒に居すぎたな……でも、3年間本当に楽しかったんだ……幸せだったんだ」

  俺は誰に聞かせるでもなく、静かに涙を堪えて独りそう呟いていた。

 








「ルカス。おはよう」
「あぁ、おはよう!」

  マリエールはどこか緊張した面持ちだった。
  まぁ、それもそうだろう。
  大勢の前で“願い事”を言うんだ。毎年、シュテルン王立学校首席卒業者の願いは注目の的だからな。

「いよいよ、卒業なんだね」
「そうだな」

  ──寂しい。

  思わずそんな女々しい言葉が口から出そうになった。

  卒業後の俺たちの進路はバラバラだ。
  俺は、公爵家の所領の一つである伯爵家を賜り当主となって城務めが決まっている。
  これは、ユーフェミアとの婚約が解消になってすぐ決まった事なので既に諸々の準備は終えている。後は卒業するだけ。

  一方のマリエールは、どうするのかと思っていたら、王立の研究機関に務めるという。
  どこまでも勉強が好きなんだな、マリエールらしいなと思った。

  ……同じ城務めだったら、まだ会う機会があったかもしれない。
  だけど、研究機関に務めるマリエールと俺が会う事は、ほぼ皆無だ。

「ルカス」
「うん?」
「3年間、ありがとう!  私、ルカスと競い合えて楽しかったよ!」
「……俺もだよ」

  マリエールが可愛い笑顔でそんな事を言うもんだから泣きそうになった。
  泣きそうになる自分を堪える事に必死だった俺は、マリエールが小さく、本当に小さな声で、「……だから、ユーフェミア様と幸せになってね」と呟いてた事には気付きもしなかった。


  ──そして。


「今回のテストで2番目の成績を修めました、ルカス・スチュアート公爵令息の望みを叶えてもらう事です」

「えっ!?」

  俺は自分の耳を疑った。そして思わず声を上げていた。

  ──今、マリエールは何て言った?

  驚きの表情でマリエールを見ると、彼女は俺を見てそっと微笑んだ。

  何でだ?
  どうしてだ?
  何で俺の望みを叶える事が、マリエールの願いなんだ!?

「ほぅ?  それがそなたの願いか?」
「はい。私の望みはルカス・スチュアート様の望みが叶う事でございます、陛下」

  陛下からの確認にも、マリエールはもう一度ハッキリとした口調で答えた。
  もちろん、マリエールの願いは変わってない。

  そして、俺はわけが分からないまま、自分の願いを口にする……いや叶えてもらう機会を得た。

  そして、チラリとマリエールを盗み見る。

  ……なぁ、マリエール。
  何でお前が俺の願いを叶える事を望んだのか……俺には分からない。

  分からないけど、俺は……このチャンスを無駄にしたくない。

  最初で最後のマリエール……お前を手に入れるチャンスだから。

  ──頼むから、逃げないでくれよ?

  俺は深呼吸してから、ずっとずっと願って来た“たった一つの願い”を口にした。

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