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第7話
しおりを挟む──とうとう最後のテストの日がやって来た。
この結果で全てが決まる。
首席卒業の座をかけてルカスと競い争うのもこれでおしまい。
長かったようであっという間だった3年間。
全てはこの日の為。
ねぇ、ルカス。
私が望み、願ってる事はね?
あの日からずっとずっとたった一つだったんだよ。
だから、私は……あなたの為に───……
「終わったな」
「終わったね……」
全ての科目の試験を終えて今、私達は互いにぼんやりしていた。
なんて言うのかな……ほら、あれ! 全て出し尽くして燃え尽きちゃった感じ!
「全力は出した! 後悔はしてない!」
ルカスのその言葉にドキッと私の心臓が大きく跳ねた。
「そ、そうね! 私もよ」
「マリエール? お前どこか変じゃないか?」
ルカスが心配そうな顔を私に向ける。
そんな優しさなんていらない。
だって、私は……
「そんな事ないわよ! 全て終わったんだなぁって放心状態なだけ!」
「そうか?」
「そうよ!」
私は無理やり笑顔を作って言い切った。
──ルカス、ごめんね……だけど、あなたの望みはきっと叶うから──
どんな結果を迎えても私を許して……
心の中でそう謝りながら。
そして、運命の結果発表の日がやって来た。
朝からソワソワして落ち着かない。
靴は左右逆にして履いちゃうし、朝から何度もすっ転んだ。
ルカスはそんな私を見て「緊張しすぎだろ」って、笑ってた。
「…………」
貼り出せれる結果を私はドキドキしながら目を瞑って待った。
そして、暫くして聞こえる皆の騒めきとどよめく声。
──結果が貼り出されたんだ……!
目を開けてしっかり見なくちゃ。そう思うのに怖くて目が開けられない。
「マリエール」
「……」
私の名前を呼びながら肩を揺さぶるのは、ルカス。
「しっかり、目を開けて結果を見ろ。マリエール」
「……!」
その言葉を受けて私は目を開けて顔を上げた。
───── 1位 A組 マリエール
そんな文字が私の目に飛び込んで来た。
「…………っ!!」
私が声を出せずにいると、横からルカスが声をかけてきた。
「おめでとう、マリエール。やっぱりお前は凄いな」
「ルカス……」
結果は嬉しいけど、私はルカスにどんな顔を向ければいいのか分からない。
「悔しいけど、お前が誰よりも努力して来た事は俺が1番知ってるからな」
「…………」
「そんな情けない顔をしてないでちゃんと胸を張れ、マリエール」
そう言ったルカスの顔は、どこか晴れ晴れとしたものだった。
****
そして、卒業式の日。
今日、私はこの場で“首席卒業の褒美”である願いを伝える事になっている。
学校関係者だけでなく、保護者、多くの貴族が見守る中での願い事。
今年の首席卒業者が何を望むのか。
皆の関心はそれだけだった。
そんな来賓の中に、ユーフェミア侯爵令嬢の姿があった。
目が合ってしまい私の胸がドクリと嫌な音をたてる。
──ユーフェミア侯爵令嬢は私を睨んでいた。
当たり前だ。
だって私は、彼女のお願いを聞かなかったから。
ルカスに勝ちを譲って欲しいという彼女のお願いを聞くという選択は、最初から私には無かった。
それは、ルカスにも失礼に当たるし、何よりずっとこれまで努力して来た私の全てを無にする行為だったから。
そんな事は絶対に出来ないし、もちろんする気も無い。
そうして私は全力でテストに臨んだ。
その結果がコレだ。
だから私は胸を張って陛下の前に進み出る。
「首席卒業、マリエール」
「はい」
私はしっかり陛下の目を見つめながら返事をした。
「そなたの事は入学時から話を聞いていた。入学試験も首位の成績だったと。その後の試験やテストも常に優秀な成績を修めていたようだな。文句無しの首席卒業だ!」
「ありがとうございます」
令嬢時代に培った淑女の礼をとりながらお礼を伝える。
「ルドゥーブル元男爵もこの結果にさぞかし、喜んでいるであろうな」
「……!」
そこまで調べられていたのね、と苦笑する。
「して、そなたの願う首席卒業者の望みは何だ? 父親の爵位の復活か?」
陛下は含みを持たせた顔でそう言った。
おそらく、私のこれまでの背景から願い事をそう予想して口にされたのだろう。
「いいえ、違います。私の、私の望みは……」
会場中がしーんと静まり返っている。
誰もが私が次に発する言葉を待っている。
私はひと呼吸おいて、しっかり顔を上げて口を開いた。
「今回のテストで2番目の成績を修めました、ルカス・スチュアート公爵令息の望みを叶えてもらう事です」
「えっ!?」
しーんと静まり返ったままの会場内で、驚きの声を上げたルカスの声はよく響いた。
驚愕の表情を浮かべて私を見ている。
そんなルカスに、私はそっと微笑んだ。
「ほぅ? それがそなたの願いか?」
「はい。私の望みはルカス・スチュアート様の望みが叶う事でございます、陛下」
陛下は私の望みに「これは面白い事になった」という表情を浮かべた。
「そうか。ではその望みを叶えよう。ルカス・スチュアートここへ」
「は、はい……」
ルカスが困惑した様子のまま進み出た。
私は驚かせてしまった事に心の中で謝りながらも、これで彼の望みが叶えられる……と安堵していた。
ルカスの望み……ユーフェミア侯爵令嬢との関係を取り戻す事。
それが叶うのだから。
ユーフェミア侯爵令嬢からのお願いは聞けなかったけど、結果的にこれで丸く収まるはずだからどうか許して欲しい。
正直、あんな性格の令嬢だとは知らなかったけれど……
ルカスにとっては大事でずっと忘れられなかった人なんだから。
そう自分に言い聞かせる。
「ルカス・スチュアート。そなたの願いは何だ?」
「……私の願いは…………」
ルカスが何て答えるのか。会場中が静かに注目していた。
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