【完結】私の好きな人には、忘れられない人がいる。

Rohdea

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第5話

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「えっと……本当にマリエールか?」

  着替えが終わった私を見て、ルカスが目を丸くして驚いている。

「驚きました?  大変身ですよ~」

  私の支度を整えてくれた侍女さんが「私、とってもいい仕事したわ」と言わんばかりの笑顔でぐいぐいと私をルカスの前に押し出す。

「…………」

  ルカスは言葉を失っているようで、何も言ってくれない。
  ……別にいいけどね!
  そんなルカスも私に上着を貸してダメにしてしまっていたからか、制服から正装に着替えていた。

  ……カッコイイ!  思わず見惚れそうになる。

「坊っちゃま!  お嬢様に見惚れるのは構いませんがこういう時は気の利いた一言が必要ですよ!」
「……なっ!?」

  侍女さんの指摘にルカスが苦い表情を浮かべた。
  そんな事言われても困るよねぇ。

  ん?  それよりも、坊っちゃま?  そう聞こえた気がしたけど……

「……坊っちゃま?」
「あぁ、申し訳ございません、私、名乗っておりませんでした!  私はスチュアート公爵家の侍女のメリッサと申します!」
「へ?」

  ルカスの家の侍女さんだったの!?
  私は心の底から驚いた。
  てっきりパーティー主催者の用意した侍女さんだとばかり思ってた。

「……なら、ちょっと待って?  このドレスは?」
「坊っちゃまが万が一の時の為に……と申しまして持参しておりました」
「は?」
「メリッサ!!」

  ルカスが慌てたように大声でメリッサさんの言葉を遮った。
  万が一って何だろ?  いや、それよりもそうなるとコレ誰の為のドレスだったの?
  私が着てしまって良かったの?

  そんな疑問ばかりが頭の中にぐるぐると駆け巡る。

「あー……マリエール。その、似合ってる……」
「あ、ありがとう?」

  ルカスがどこか気まずそうに、でも、ちょっと照れた様子を見せながらそう口にした。

「でも、ルカス。このドレス、本当は別の誰かの為のー……」
「いいんだ!  マリエールが着ててくれて構わない」
「そ、そう?」

  ルカスは被せ気味に私の言葉を遮った。
  全く持っていいとは思えなかったけれど、ルカスがそう言うのだから仕方ない。私もこれ以上は追求しないでおこうと決めた。

「……せっかくだ、マリエール。このまま広間に戻って俺と1曲踊らないか?」
「え?」

  私は驚き、目を丸くしてルカスを見つめる。

「踊れるだろ?」
「踊れる……けど……」
「なら、決まりだ。行くぞ!」
「え?  え!?」

  ルカスはそう言ってやや強引に私を連れ出す。

「……」

  さっき、ロクサーヌ達に絡まれた時も思ったのだけど、もしかしてルカスはかつての私……ルドゥーブル男爵令嬢だった頃の私を知っているのだろうか?

  学校に入学した時の私は、すでに平民になった後だったから、令嬢時代の事をルカスに話した覚えは一切無い。
  令嬢だった頃も、没落寸前の弱小貴族だった私は社交界に顔を出したのは片手で数えられるくらいしかなく、ルカスと接点を持った記憶も無い。
  あのルカスの婚約破棄騒動だって、私が一方的に見ていただけ。
  なのに、どうして……?
  





「さぁ、お手をどうぞ、マリエール嬢」

  広間に戻った私にルカスがそっと手を差し出す。

「……はい」

  私は、おそるおそるその手に自分の手を重ねた。





  ルカスと踊り始めると、会場中の視線を自分達が集めているのが分かった。

「スチュアート公爵家のルカス様が……!」
「相手は……誰だ?」
「見た事ないぞ!?」
「あの日以来踊る姿を初めて見た……」

  どうやら、ルカスはあの日以来誰かと踊る事をしていなかったらしい。

  (それだけ、ユーフェミア侯爵令嬢の事を……想ってるのね)

  そう思うと胸が痛んだ。
  きっと私と踊ってるのはほんの気まぐれ。友人だから。
  それだけだ。
  そう自分に言い聞かす。

  さっき、ロクサーヌ達から庇ってくれた時に“大事な友人”って言って貰えた。
  ……それだけでもう、充分だ。


「何を考えてる?」
「え?」
「何か他の事を考えてないか?」
「……」

  言えるはずが無い。だから、私は無理やり笑顔を作って言った。

「気のせいよ」
「そうか……?  しかし、大したもんだな」
「何が?」

  ルカスの言葉の意味が分からなくて首を傾げる。

「マリエールは久しぶりのダンスだろう?  難なく踊れてる」
「!」

  その言葉にやっぱりルカスは知っているのだと確信する。

「……ルカスは、“私”を知ってたの?」

  私の質問にルカスは驚いたのかちょっと目を大きく見開いた。

「知ってたよ。──ルドゥーブル男爵令嬢、マリエール」

  告げられたその言葉にひゅっと私は息を呑んだ。

「そう……知ってたのね」
「あのな、マリエール。俺は……」

  顔を俯けて目を伏せる私にルカスが何かを言いかける。

  だけどちょうどその時、会場内が大きく騒めいた。
  何事かと思って顔を上げると同時にルカスの動きが止まった。

「……ルカス?」
「……」

  どうしたんだろう?  そう思って固まってしまったルカスの視線を辿る。

「…………っ!?」

  私は驚いて声も出せなかった。
  その視線の先にいたのは──……

「ルカス!  会いたかったわ」

  私と同じ、ストロベリーブロンドの髪色で可愛らしく微笑む女性。

「ユーフェミア……」

  ルカスが小さな声で呟いた。



  ──そう。ルカスの元婚約者。
  そして今でも、彼が忘れられないでいる、あのユーフェミア侯爵令嬢がそこにいた。

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