【完結】私の好きな人には、忘れられない人がいる。

Rohdea

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第4話

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  ───殴られる!

  そんな覚悟をして目をつぶって衝撃に耐えようと思ったのに、何故か一向にその衝撃がやって来ない。

「……?」

  おそるおそる目を開けると、私の目の前に人が立ち塞がっているのが分かった。
  その人物はー……

「えっ!  ルカス……?」
「大丈夫か?  マリエール」

  私の前に立ち塞がってロクサーヌから庇ってくれているのは、間違いなくルカスだった。

「な、な、何で……ルカス・スチュアート様が……」

  かつての友人、ロクサーヌは手を振りあげたものの、ルカスの登場にその手を降ろすことが出来ずそのまま硬直していた。

「……君は確か、モンテーニュ子爵家の令嬢だったかな?」
「う……」
「何故、その手を振り上げていたのかな?  いったい何をするつもりだった?」
「そ、れは……」

  ロクサーヌはそっと手を降ろし、オロオロと目が泳いだものの覚悟を決めたように叫んだ。

「そ、そこの平民女が私に無礼を働いたから、ちょっとお仕置をしようとしただけですわ!」
「へぇ……」

  その言葉を聞いたルカスの纏う空気の温度が一気に下がった……気がする。

「マリエールが君に何をしたのかな?  マリエールの制服はずぶ濡れだけど、一方の君には何かあったようには見えないけれど?」
「……っ!  ぼ、暴言を吐いたのです!  この私に、平民如きが!」

  ロクサーヌは負けじと言い張る。
  もうやめればいいのに、嘘に嘘を重ねている。
  そんなロクサーヌの様子に他の令嬢達は顔が真っ青だ。
  不味い事態だと分かっているんだろう。

「おかしくないかい?  さっきマリエールに向かって“口が聞けなくなったのか”って言ってたのが聞こえてた。それなのに君が暴言履かれたと言うのは矛盾してると思うんだけど、そこの所を詳しく説明してくれないかな?」
「……っっ!!」

  そう言いながら、冷たい目と冷気でロクサーヌを追い詰めるルカスは、今まで見た事がないほど怒っているのが私にも分かった。

「私の大事な友人を傷付けようとした……いや、既に傷付けた君達をどうしてくれようか?」
「「!!」」

  ルカスは私を罵っていた全員を見回しながら言った。
  その言葉にロクサーヌだけでなく、その場の全員が凍り付いた。

「……ゆ、友人ですって?  そこの落ちぶれた平民女と……ルカス・スチュアート様が……?」
「そうだよ。マリエールは私とシュテルン王立学校での首位争いをする大事な友人だ」
「首位争い……ですって!?  マリエールが?」

  ロクサーヌは呆然としていた。
  私がシュテルン王立学校に入学した事は知っていても、成績の事まではさすがに知らないだろうから驚くのは当然かもしれない。

「そう。私の唯一のライバルで、首席卒業するかもしれない女性だよ。将来、国にとって間違いなく大事な要人になるであろう女性を君達は身勝手にも傷付けたわけだ。それをどう責任取るつもりだい?  それ相応の覚悟があるのかな?」
「……ひっ!」

  もうロクサーヌも誰も反論しなかった。
  そして、「知らないわよ、そんな事!!  私は何もしてないわ!!」と捨て台詞を吐きながら他の令嬢と共に一目散に逃げ出した。

「……」

  私は突然の展開についていけず、ただただ呆然としていた。

「マリエール、大丈夫?」
「ルカス……」
「もっと早く助けに来れなくて悪かった。それに逃がしちゃって謝罪させられなかった。ごめん」

  何故かルカスが私に謝罪する。
  ルカスは何も悪くないのに。むしろ助けてくれた。
  私は無言で首を横に振る。

「失敗したな。マリエールが、令嬢時代の知り合いに絡まれるかもしれないってもっと早く気付くべきだったよ。後で彼女らにはそれ相応のお咎めがいくようにしておくから、そこは安心して欲しい」
「え?」

  そう言いながらルカスは着ていた制服の上着を私に羽織らせる。

「ルカス!  ダメ。濡れちゃう!」
「構わない。むしろ、濡れたままの方が良くない。着替えた方がいい」
「え?  着替えなんてないよ?」
「心配しないでも大丈夫だ」

  ルカスはそう言って強引に私の手を引いて広間の外に連れ出した。
  その際に使用人の1人に何かを言付けていた。
  そして、空いてる部屋に私を入らせると「今、着替えを持って来させてるからゆっくり着替えて」と言って部屋を出ていく。

「えぇー……?」

  何が何だか分からないまま私はその場にポツンと取り残されてしまった。









「ほ、本当に、私がこれを着るのでしょうか?」
「はい。お着替えはこれしかありません」
「ですが……」
「大丈夫ですよ!  さぁ、さっさと着替えてしまいましょう!」

  着替えを持ってきてくれた侍女さんはとてもいい笑顔でそう言い切った。

  そして今、私の目の前に渡された着替えは……何故かドレスだった。
  平民になってから1度も着ていないドレス。

  懐かしさより、どうしようという気持ちの方が強かった。
  だけど、いつまでも濡れた制服のままではダメなのは確かだ。風邪をひいてしまう。
  ここはもう観念するしか無かった。


「せっかくなので、お化粧もしましょうね!」


  ドレスを着せられた後、侍女さんはルンルンした顔で私の髪も結い上げ、しまいにはお化粧まで施し始めた。

「え?  いや、あの……」
「大丈夫ですよ。ドレスもお似合いですし、素材が良いのでお化粧も映えますわ」


  結局、私はあれよあれよと数年ぶりにドレスアップする事になった。
  なんでこんな事になったんだっけ……?  
  そんな疑問を抱きながら。



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