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第1話
しおりを挟む「やったわ! どう、ルカス? 今回は私の勝ちよ!」
「……チッ」
学校の廊下に貼られたテストの結果表の前で私は隣にいる男に声をかけた。
「ふふん! ここの所、あんたに勝ちを譲って来たけど私が本気を出せばこんなものよ!」
「次は負けねぇ……」
「私も負けないわ! だから首席卒業は私のモノよ!」
私は高らかにそう宣言した。
──ここは、シュテルン王国唯一の王立学校。
15歳以上であれば男女身分を問わず、入学試験さえ突破出来れば誰でも通える。
この学校はとにかく未来の優秀な人員育成を目的としていて、その為、入学試験はとても厳しく、試験を突破し学校に入学出来た者はそれだけで将来のエリートコースが約束されていると言ってもいい。
そんなシュテルン王立学校に入学した者達は、将来のエリートコース特典だけでなく、
もう1つ誰もが目指すものがある。
それは、首席で卒業すること。
シュテルン王立学校は3年間の教育機関だ。
ただでさえ、優秀な人材ばかりが集まるこの学校を首席卒業する。
すなわちそれは最も優秀な人物だと認められたようなもの。
そんな首席卒業者には、卒業時に国王陛下から何でも1つ願いを叶えて貰える、というご褒美がある。
まぁ、何でもと言っても限度はあるけれど、それでもかなりのご褒美だ。
過去の首席卒業生の願いを例にとると、
ある平民の首席卒業者は爵位を望み、ある貴族の首席卒業者は自身が運営する為の商会設立の資金援助を望んだ。
どこまで本当から知らないけれど、過去には王女様との婚姻を望んで却下された人もいるらしい。
……まぁ、多少例外はあれど、とにかく過去の卒業生の望みは大抵は叶えられている。
そのたった一つの席を目指して私達は日々、切磋琢磨している。
そして、そんな私……マリエールは、首席卒業の座にかなり近いところにいる人間の1人だ。
入学時、首位の成績で入学した私は、それからも度々行われる実力テストをこの最終学年に至るまでの間に首位もしくは2位を取り続けている。
──そう。2位の時もある。悔しい事に!
私が唯一、敗北してしまい、時には首位を譲る事がある人間こそ、今、この隣にいる男……ルカス・スチュアートだ。
「いーや、首席卒業は俺のモノだ」
「私よ!」
「俺だ!」
私達がテストの結果表を見ながら言い争いをするのはいつもの事なので、周りは「またか」って目で見てくる。
今もまさにそんな感じだった。
「……まさか、3年間ずっとルカスと首位争いをする事になるなんて思わなかったわ」
私が過去を思い出しながらそう口にすると、ルカスもどこか懐かしそうな目をして言った。
「そうだな、俺もだよ」
もうすぐ私達は卒業する。
最後のテストの日はもうすぐだ。
ルカスとこんな風に言い合えるのもあと少し。
このまま卒業してしまったら、私とルカスには何の接点も無くなってしまう。
だって、本来の私とルカスには大きな壁があるんだもの。
私、マリエールは元・男爵令嬢。
没落したルドゥーブル男爵家の令嬢だった。
私が学校の試験を受ける1年前。
その年の悪天候で賄えなかった税収の損失分をどうにかしようとして、父は多額の借金を抱えてしまった。
どうにか借金返済を目指すも、資金繰りに失敗し状況はどうにもならない所までいってしまった。
結果、全ての責任を取って爵位を返上したので、今の私は単なる平民だ。
かたや、ルカスは。
ルカス・スチュアート。
彼はスチュアート公爵家の次男。
嫡男ではないから公爵家の跡継ぎでは無いけれど、元男爵令嬢で現在、平民の私からすれば本来は口を聞くのも憚らねばならない人。
そんな身分差も甚だしい私達が、こんな軽口を叩けているのは学校だから。
身分差より実力が物を言う学校だから。
つまり、卒業してしまえば私達は──……
「…………」
「マリエール?」
急に私が黙り込んでしまったからか、ルカスが心配そうに私の顔を覗き込んで来る。
「っ!!」
「どうした? 顔が赤いぞ?」
「な、何でもないわよ……次のテストに備えてどう勉強するか考えてただけよ!」
「……お前なぁ……」
我ながら何て可愛くない返事の返しだろう。
自分で自分に呆れてしまう。
だけど、ダメなの。
私はルカスを前にするといつもこうなってしまう。
それは……ルカスの事が好きだから。
素直になれなくて、こんな口しか聞けないけど私は気付いたら彼に恋をしていた。
テストの結果表を見ながらやり取りするこの時間が私の一番の幸せ。
──だけど、この恋は絶対に叶わない。
私が平民で彼が貴族だからでは無い。
もちろん、それも私の恋が叶わない理由の一つではあるけれど、一番の理由は……
彼に……ルカスには忘れられない女性がいるから。
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