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29. ドキドキの夜 ~ポンコツカップルver. ~
しおりを挟む「アンジェリカ……本当に今夜は……その王宮に泊まるのか?」
「はい」
波乱のパーティーが終わった後、お父様が渋~い顔をして私の元にやって来た。
「お父様も聞いていたでしょう? ユリウス様凄い気迫でしたわ」
「……あ、ああ。確かに凄かった……」
これで、今夜の私は家に帰ります! なんて言ったらどんな大惨事になるやら。
「そ、それに私だってブライアン様とまだ一緒にいたいですもの」
「アンジェリカ……」
私が頬を染めてそう言うと、お父様の顔がますます渋くなる。
「……その顔を殿下に見せたら、朝までコースだな……なんという事だ……紳士だとばかり思っていた殿下ががっつく未来しか見えん」
「? 何の話をしているんですの、お父様。ブライアン様はいつだって紳士ですわよ?」
「お前……」
「?」
私は首を傾げながらお父様の次の言葉を待つ。
「アンジェリカ……確かに婚約は発表されたが結婚式はまだまだ先だぞ?」
「ええ。当然ですわ」
王族の結婚式は準備に時間がかかるもの。もちろん分かっていますわ!
「いいか? その事を踏まえて殿下を煽るのは程々にするんだぞ?」
「は、はあ……」
結局、最後までお父様が何の心配をしているのかよく分からないまま私は頷いた。
❋❋❋❋❋
いつぞやかにも入った王宮の広ーーーーいお風呂。
本日も私は身体をピッカピカに磨かれている。
「相変わらず、アンジェリカ様のお肌はスベスベのピッカピカですね!」
「大興奮する殿下の姿が目に浮かびます」
「このスベスベの肌に触れただけで鼻血くらい出してしまったりして?」
「殿下が? まさか~! そもそも、そこまで純情な男性なんているのかしら?」
王宮の侍女達が随分と好き放題言っている。
だけど、私は広ーーーーい湯船と至れり尽くせりのマッサージに満足してニコニコしながら大半の話を聞き流していた。
「え! 本当にこの格好をするのですか?」
「はい! 可愛らしく美しいアンジェリカ様にピッタリだと思います!」
「そ、そうなの?」
渡された夜着は可愛いのだけど、あまりにも防御力が低そうでびっくりした。
「お腹、冷えないかしら?」
「大丈夫です」
「そう……なのね?」
まぁ、ガウン着るから言うほど冷えないわよね。と、私は納得した。
───
王女様の強制送還の件もあるからか、ブライアン様は何だかんだで遅くまで仕事に追われているようで忙しそう。
「大変よね……誓約書に抗議文に脅し……ケホッ、お土産の準備……」
きっと、ブライアン様はヘトヘトのお疲れで戻ってくるはず。
「癒してさしあげたいわ……って、それが妃の役目でもあるはずよね!」
これから王太子妃教育と王妃教育を受ける予定の私には、詳しくは分からないけど、夫を癒す事こそ絶対に大事なお役目よ!
そんな事を思いながらブライアン様を待っていた私は疲れもあったのか気付くとウトウトしてしまっていた───
──フワッ
自分の身体が持ち上がった気配がして薄ら目を開ける。
「……あ、すまない。起こしてしまったか?」
「……」
「部屋を訪ねたら、天使がうたた寝をしていた。風邪を引いたら大変だと思って今、ベッドに運ぼうとしていた所だ」
「ブライアンさま……?」
夢か現か……その狭間にいた私はとにかく大好きなブライアン様の顔が近くにあったので嬉しくて微笑んだ。
「私の天使……可愛いアンジェリカ。なんて顔をするのだ……寝惚けているのか?」
「ブライアンさま……」
「……ぐっ! かっ! な、何だこの破壊力は」
「大好きですわ……」
「!!」
私は目の前のブライアン様にギュッと抱きつく。
もう変に隠したりしないで堂々と彼を好きだと言える。とにかくそれが嬉しくて嬉しくて。
気が付いたら「大好き」だと口にしていた。
「……アンジェリカ」
「ん……」
そうこうしているうちに、ブライアン様がそっと私をベッドに下ろした。
何だか前にもこんな体勢になった事があった気がするわ……
そんな事を思いながら、私に被さってくるブライアン様をうっとりとした気持ちで見つめた。
「……愛してるよ、私の天使、私の花嫁」
「私もです……」
ブライアン様は私の頬を撫でながらそっと顔を近づけて来たので、私も目をつむる。
「……」
「……」
程なくして、チュッと優しい温もりが私の唇に降って来た。
初めてのキス……
甘くて優しくて……幸せで頭の中が蕩けそう。
「……アンジェリカ、キスは初めて?」
「と、当然ですわ!」
私は真っ赤になって答える。
すると、ブライアン様が嬉しそうに微笑んだ。
「……私も初めてだ。知らなかった。こんなにも甘くて優しくて……幸せなのだな」
「!」
同じ事を思ってくれた───
それだけでもう幸せ!
「アンジェリカ、もっとしたい……構わないだろうか?」
「ブライアン、様……」
ブライアン様の私を見る目に熱がこもっている。
その目を見ているだけで私のドキドキも止まらない。
「はい、もっと……もっとして下さい……」
「アンジェリカ……!」
そうして再び甘い甘いキスが降って来た。
───
ブライアン様は角度を変えて何度も何度も私にキスをした。
そして、唇だけでなく色々な所にも沢山キスをされて夢見心地になった頃、ブライアン様が熱っぽい目で私を見つめながら言った。
「……アンジェリカ……ガ、ガウンをぬ、脱がしてもいいだろうか?」
「……? は、い」
ガウン? あぁ、私が着ているコレね。
頭の中が蕩けていて思考力が低下していたのか、私は何も考えずに頷いていた。
「……アンジェリカ」
「ん……」
ブライアン様は優しく私にキスをしながら、ガウンの紐に手をかけ解いていく。
「アンジェリカの肌は、スベスベで気持ちがい……」
何故かそこでブライアン様の言葉が止まる。
たくさん磨いてもらってスベスベになった肌を喜んでもらえて嬉しいわ───
そう思ったのに。
「ブライアン様?」
「アアアアンジェリカ……ッッッッ!」
「どうしましたか?」
「スススススス……スケッ!」
「?」
ブライアン様が何を言っているのか分からなくて首を傾げる。
「は、は、は、肌……か、か、か、隠れてない……何だコレ……え、フリ……スケ……」
「ふりすけ?」
そう言われて、ようやく自分のガウンの下の格好を思い出した!
可愛いフリルを用いながらも、お腹が冷えそうなスッケスケの夜着を!
「あ……こ、これは侍女達がですね……」
「わ、わ、わ、分かっている……よ、よくやった……と、ほ、ほ、ほ、褒めるべき、ばばば場面だ」
侍女達が怒られる事はないらしい。ホッとした。
「だが、こ、こ、こ、これは、そ、想像して……なかった!」
「ブライアン様!?」
「て、天使……いや、も、もう、こ、こ、これは、め、女神! ……な、な、何だこれ……」
「え?」
そう言って顔……と言うよりも鼻を押えたブライアン様の手の隙間からは、赤いものがポタポタとこぼれ落ちていた。
「ブライアン様ーーーーー!?」
「うわぁーー!?」
────鼻血まみれになったブライアン様を介抱していたこの時の私は、かつてどこかの側近夫婦が、やはり初めて一緒に夜を過ごす事になった時に、同じ様な事件が起きていた事など知る由もなかった……
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