上 下
28 / 36

28. 王太子殿下はメロメロです

しおりを挟む

「……」

  なんという事だろう。
  私にしがみついているアンジェリカが可愛い。
  何だろうこの可愛さは……
  とりあえず、目の前で顔面蒼白となっている王女の事なんかどうでも良くなるくらいの可愛さなんだが。

  ユリウスが結婚式で新婦を抱っこして入場していた事から、“天使がお姫様抱っこで運ばれて来た”と世間で大きな話題になったのは記憶に新しい。
  だから、私も私の天使を抱っこしたいと思っていた。
  そうして実際に天使を抱き上げてみれば、ただただ可愛いしかない。

  (アンジェリカ……私の天使)

  アンジェリカの好きな男は私だった。
  ユリウスでは無かった!  もうそれだけで嬉しくて胸がいっぱいだ。
  アンジェリカからの熱い告白を受けて過去を思い返してみれば、当時のアンジェリカの挙動不審な態度すらも愛しく思えてくる。
  
  (あぁ、このままアンジェリカを私の私室に連れ込みたいな)

  ここまで何度、アンジェリカに触れるのを邪魔された事か……
  さすがに二人っきりの私室なら邪魔は入らないと思うのだ!

  ───やはり、その前に目の前の王女をさっさと排除してからでないとダメだろうか。
  
  そう思って私は王女へ視線を戻す。
  ここまでの暴露話は王女にとってかなり屈辱だったと思うのだが……

  成績に関してはそこまでの驚きは無かった。むしろ、話を聞いた時はそうだろうなと思った。
  しかし、異性問題……男を取っかえ引っ変えというのは冗談では無い。そんな女性を王妃にする事は絶対に出来ない。
  この王女はどの面下げて王妃になるわ、と口にしていたのか。

「ひ、酷いですわ……どうして……何で私にこんな仕打ちを……するのですか?  ……くすん」

  そんな王女は泣き落とし作戦に出たらしい。あの迷惑だった伯爵令嬢を思いだす……
  それにしても、分かっていない王女だ。
  もしも、アンジェリカが泣いていたら私は彼女の為にどんな事でもするだろうが、どうでもいい女が泣いた所で心が動く事など無いというのに。

「私の可愛いアンジェリカにあれだけの嫌がらせをしておいて何を言っている?」
「ち、違っ……あ、あれは……そう!  そうです。手が……手が勝手に滑って!」
「ふざけるな!  そんな馬鹿な話があるか!」
「ひっ……!」

  さて、この王女には当然このまま国へとお帰りいただくが、その際に色々とお土産を持って帰ってもらおうと思っている。
  この王女のした事は間違いなく国際問題だ。
  これまでのディティール国と我が国は対等な関係だったが、これを機会にバワーバランスは崩れる事になるだろう。
  
「王女殿下。アンジェリカに謝罪してもらおうか」
「しゃ、謝罪ですって!?」
「当然だろう?  アンジェリカは王女殿下の気まぐれに散々振り回され、挙句の果てには怪我までしかけたのだからな」
「……っ」

  王女はよほどアンジェリカの事が憎いのか。
  謝罪なんて絶対にしたくない。全身がそう言っている。

「ブライアン様……」

  アンジェリカが心配そうに私の事を見つめているが、私はこれだけは絶対に譲らない。
  
「今、この場で謝罪をしないのであれば、国を通して謝罪要求をするだけだ」
「え……?」
「そうなれば、王女殿下がした事はディティール国民に広く知れ渡る事になるだろう。揉み消すような真似はさせない」
「……!」

  悪評が広がった様子を想像したのか王女の顔色がもっと悪くなった。

「さあ、アンジェリカに謝罪を。ジュリア王女殿下?」

  王女殿下が、その場にガクッと膝から崩れ落ちた。



❋❋❋❋❋



「ブライアン様?  そろそろ降ろしてくださいませ?」
「嫌だ」
「え?」

  ブライアン様の強い要求の結果、膝から崩れ落ちた王女様は、すごくすごくすごーーーく小さな声で私に謝った。
  それでも、私への謝罪は王女様にとってはかなりの屈辱だったようで、王女様はそのままその場に卒倒してしまった。そうしてそのまま医務室に運ばれて行ったのだけど、ブライアン様曰く、このまま二度とこの国に立ち入らないという誓約書を書かせて即強制送還になるという。
  
  つまり、これで王女様に関連するドタバタが終わったわけで、そろそろ私もブライアン様の抱っこから降ろさせてもらっても……と思ってお願いしたのに!
  
  何故かブライアン様は嫌だと言った。

「可愛いアンジェリカはずっと私の腕の中に閉じ込めておきたい」
「……お、重いでしょう?  さ、さすがに腕が疲れたのではありませんか!?」

  いくら、ブライアン様がユリウス様とルチア様の抱っこに憧れていたとしても、ユリウス様はこんなに長く抱っこしていなかったと思うの!

「ははは!  まさか!  アンジェリカは天使だから重くなんてない」
「ブライアン様……」

  何その理屈!
  ど、ど、ど、どうしたらいいの?
  絶対、ブライアン様がおかしい。

「そうだ、アンジェリカ……今夜はこのまま王宮に泊まってくれないか?」
「!?」
「朝まで私と一緒に……」

  あ、朝まで!?  なんか凄い事を言い出したわ!?

「ブ、ブ、ブライアン様!?  な、何を言っているのですか!」
「アンジェリカは私の唯一の妃……婚約者だと皆の前で発表された。だから問題はないはずだ!」

  ええ!?   
  むしろ問題しかないと思うわ!

「アンジェリカ……」
「うっ!」

  ず、ずるいわ!  そんな訴えかけるような目をするなんて!

「アンジェリカ……」
「~~~!」

  私は小さく頷く。
  それを見たブライアン様は嬉しそうに笑うと、そのまま勢いよく振り返って大声でユリウス様を呼んだ。

「そういうわけだ。ユリウス!  あとは頼んだぞ!」
「───は、い?  で、殿下!  ちょっとお待ちください!」

  ユリウス様が慌てて飛んで来た。

「待たん!  アンジェリカはこのまま連れていく」
「馬鹿な事を言わないでください!  パーティーはまだ終わっていません!」
「王女は退場したぞ?」
「それはそれ、これはこれですから!」

  ユリウス様は断固として譲らない。

「だがアンジェリカが……」
「アンジェリカ嬢は逃げませんよ!  もう大丈夫です────で・す・よ・ね?  アンジェリカ嬢!」

  あまりのユリウス様の迫力に私はコクコクと頷く事しか出来なかった。
  
「ほら!  頷いてますよ!  ですから、イチャイチャはどうぞ夜に思う存分好きなだけどうぞ……ですが、ですが今は!  とにかく後始末を……!」
「…………わ、分かった……仕方がない……」

  そうしてユリウス様の気迫に負けたブライアン様は、渋々私を降ろして、もはや何の為に開かれているのかよく分からなくなってしまったパーティーを仕切り始めた。


────


  こうして、色んな意味で大騒ぎとなったこの日のパーティーは後に“王太子殿下がようやく出来た天使の婚約者にメロメロだった!”と言って大きな話題になったという。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました

鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と 王女殿下の騎士  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、3話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

【完結】見ず知らずの騎士様と結婚したけど、多分人違い。愛する令嬢とやっと結婚できたのに信じてもらえなくて距離感微妙

buchi
恋愛
男性恐怖症をこじらせ、社交界とも無縁のシャーロットは、そろそろ行き遅れのお年頃。そこへ、あの時の天使と結婚したいと現れた騎士様。あの時って、いつ? お心当たりがないまま、娘を片付けたい家族の大賛成で、無理矢理、めでたく結婚成立。毎晩口説かれ心の底から恐怖する日々。旦那様の騎士様は、それとなくドレスを贈り、観劇に誘い、ふんわりシャーロットをとろかそうと努力中。なのに旦那様が親戚から伯爵位を相続することになった途端に、自称旦那様の元恋人やら自称シャーロットの愛人やらが出現。頑張れシャーロット! 全体的に、ふんわりのほほん主義。

【完結】今更、好きだと言われても困ります……不仲な幼馴染が夫になりまして!

Rohdea
恋愛
──私の事を嫌いだと最初に言ったのはあなたなのに! 婚約者の王子からある日突然、婚約破棄をされてしまった、 侯爵令嬢のオリヴィア。 次の嫁ぎ先なんて絶対に見つからないと思っていたのに、何故かすぐに婚約の話が舞い込んで来て、 あれよあれよとそのまま結婚する事に…… しかし、なんとその結婚相手は、ある日を境に突然冷たくされ、そのまま疎遠になっていた不仲な幼馴染の侯爵令息ヒューズだった。 「俺はお前を愛してなどいない!」 「そんな事は昔から知っているわ!」 しかし、初夜でそう宣言したはずのヒューズの様子は何故かどんどんおかしくなっていく…… そして、婚約者だった王子の様子も……?

お金のために氷の貴公子と婚約したけど、彼の幼なじみがマウントとってきます

恋愛
キャロライナはウシュハル伯爵家の長女。 お人好しな両親は領地管理を任せていた家令にお金を持ち逃げされ、うまい投資話に乗って伯爵家は莫大な損失を出した。 お金に困っているときにその縁談は舞い込んできた。 ローザンナ侯爵家の長男と結婚すれば損失の補填をしてくれるの言うのだ。もちろん、一も二もなくその縁談に飛び付いた。 相手は夜会で見かけたこともある、女性のように線が細いけれど、年頃の貴族令息の中では断トツで見目麗しいアルフォンソ様。 けれど、アルフォンソ様は社交界では氷の貴公子と呼ばれているぐらい無愛想で有名。 おまけに、私とアルフォンソ様の婚約が気に入らないのか、幼馴染のマウントトール伯爵令嬢が何だか上から目線で私に話し掛けてくる。 この婚約どうなる? ※ゆるゆる設定 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでご注意ください

愛する義兄に憎まれています

ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。 義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。 許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。 2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。 ふわっと設定でサクっと終わります。 他サイトにも投稿。

あなたに忘れられない人がいても――公爵家のご令息と契約結婚する運びとなりました!――

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※1/1アメリアとシャーロックの長女ルイーズの恋物語「【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者」が完結しましたので、ルイーズ誕生のエピソードを追加しています。 ※R18版はムーンライトノベルス様にございます。本作品は、同名作品からR18箇所をR15表現に抑え、加筆修正したものになります。R15に※、ムーンライト様にはR18後日談2話あり。  元は令嬢だったが、現在はお針子として働くアメリア。彼女はある日突然、公爵家の三男シャーロックに求婚される。ナイトの称号を持つ元軍人の彼は、社交界で浮名を流す有名な人物だ。  破産寸前だった父は、彼の申し出を二つ返事で受け入れてしまい、アメリアはシャーロックと婚約することに。  だが、シャーロック本人からは、愛があって求婚したわけではないと言われてしまう。とは言え、なんだかんだで優しくて溺愛してくる彼に、だんだんと心惹かれていくアメリア。  初夜以外では手をつけられずに悩んでいたある時、自分とよく似た女性マーガレットとシャーロックが仲睦まじく映る写真を見つけてしまい――? 「私は彼女の代わりなの――? それとも――」  昔失くした恋人を忘れられない青年と、元気と健康が取り柄の元令嬢が、契約結婚を通して愛を育んでいく物語。 ※全13話(1話を2〜4分割して投稿)

婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った

葵 すみれ
恋愛
ポリーヌはある日、婚約者が見知らぬ令嬢と二人きりでいるところを見てしまう。 しかも、彼は見たことがないような微笑みを令嬢に向けていた。 いつも自分には冷たい彼の柔らかい態度に、ポリーヌは愕然とする。 そして、親が決めた婚約ではあったが、いつの間にか彼に恋心を抱いていたことに気づく。 落ち込むポリーヌに、妹がこれを使えと惚れ薬を渡してきた。 迷ったあげく、婚約者に惚れ薬を使うと、彼の態度は一転して溺愛してくるように。 偽りの愛とは知りながらも、ポリーヌは幸福に酔う。 しかし幸せの狭間で、惚れ薬で彼の心を縛っているのだと罪悪感を抱くポリーヌ。 悩んだ末に、惚れ薬の効果を打ち消す薬をもらうことを決意するが……。 ※小説家になろうにも掲載しています

処理中です...