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28. 王太子殿下はメロメロです
しおりを挟む「……」
なんという事だろう。
私にしがみついているアンジェリカが可愛い。
何だろうこの可愛さは……
とりあえず、目の前で顔面蒼白となっている王女の事なんかどうでも良くなるくらいの可愛さなんだが。
ユリウスが結婚式で新婦を抱っこして入場していた事から、“天使がお姫様抱っこで運ばれて来た”と世間で大きな話題になったのは記憶に新しい。
だから、私も私の天使を抱っこしたいと思っていた。
そうして実際に天使を抱き上げてみれば、ただただ可愛いしかない。
(アンジェリカ……私の天使)
アンジェリカの好きな男は私だった。
ユリウスでは無かった! もうそれだけで嬉しくて胸がいっぱいだ。
アンジェリカからの熱い告白を受けて過去を思い返してみれば、当時のアンジェリカの挙動不審な態度すらも愛しく思えてくる。
(あぁ、このままアンジェリカを私の私室に連れ込みたいな)
ここまで何度、アンジェリカに触れるのを邪魔された事か……
さすがに二人っきりの私室なら邪魔は入らないと思うのだ!
───やはり、その前に目の前の王女をさっさと排除してからでないとダメだろうか。
そう思って私は王女へ視線を戻す。
ここまでの暴露話は王女にとってかなり屈辱だったと思うのだが……
成績に関してはそこまでの驚きは無かった。むしろ、話を聞いた時はそうだろうなと思った。
しかし、異性問題……男を取っかえ引っ変えというのは冗談では無い。そんな女性を王妃にする事は絶対に出来ない。
この王女はどの面下げて王妃になるわ、と口にしていたのか。
「ひ、酷いですわ……どうして……何で私にこんな仕打ちを……するのですか? ……くすん」
そんな王女は泣き落とし作戦に出たらしい。あの迷惑だった伯爵令嬢を思いだす……
それにしても、分かっていない王女だ。
もしも、アンジェリカが泣いていたら私は彼女の為にどんな事でもするだろうが、どうでもいい女が泣いた所で心が動く事など無いというのに。
「私の可愛いアンジェリカにあれだけの嫌がらせをしておいて何を言っている?」
「ち、違っ……あ、あれは……そう! そうです。手が……手が勝手に滑って!」
「ふざけるな! そんな馬鹿な話があるか!」
「ひっ……!」
さて、この王女には当然このまま国へとお帰りいただくが、その際に色々とお土産を持って帰ってもらおうと思っている。
この王女のした事は間違いなく国際問題だ。
これまでのディティール国と我が国は対等な関係だったが、これを機会にバワーバランスは崩れる事になるだろう。
「王女殿下。アンジェリカに謝罪してもらおうか」
「しゃ、謝罪ですって!?」
「当然だろう? アンジェリカは王女殿下の気まぐれに散々振り回され、挙句の果てには怪我までしかけたのだからな」
「……っ」
王女はよほどアンジェリカの事が憎いのか。
謝罪なんて絶対にしたくない。全身がそう言っている。
「ブライアン様……」
アンジェリカが心配そうに私の事を見つめているが、私はこれだけは絶対に譲らない。
「今、この場で謝罪をしないのであれば、国を通して謝罪要求をするだけだ」
「え……?」
「そうなれば、王女殿下がした事はディティール国民に広く知れ渡る事になるだろう。揉み消すような真似はさせない」
「……!」
悪評が広がった様子を想像したのか王女の顔色がもっと悪くなった。
「さあ、アンジェリカに謝罪を。ジュリア王女殿下?」
王女殿下が、その場にガクッと膝から崩れ落ちた。
❋❋❋❋❋
「ブライアン様? そろそろ降ろしてくださいませ?」
「嫌だ」
「え?」
ブライアン様の強い要求の結果、膝から崩れ落ちた王女様は、すごくすごくすごーーーく小さな声で私に謝った。
それでも、私への謝罪は王女様にとってはかなりの屈辱だったようで、王女様はそのままその場に卒倒してしまった。そうしてそのまま医務室に運ばれて行ったのだけど、ブライアン様曰く、このまま二度とこの国に立ち入らないという誓約書を書かせて即強制送還になるという。
つまり、これで王女様に関連するドタバタが終わったわけで、そろそろ私もブライアン様の抱っこから降ろさせてもらっても……と思ってお願いしたのに!
何故かブライアン様は嫌だと言った。
「可愛いアンジェリカはずっと私の腕の中に閉じ込めておきたい」
「……お、重いでしょう? さ、さすがに腕が疲れたのではありませんか!?」
いくら、ブライアン様がユリウス様とルチア様の抱っこに憧れていたとしても、ユリウス様はこんなに長く抱っこしていなかったと思うの!
「ははは! まさか! アンジェリカは天使だから重くなんてない」
「ブライアン様……」
何その理屈!
ど、ど、ど、どうしたらいいの?
絶対、ブライアン様がおかしい。
「そうだ、アンジェリカ……今夜はこのまま王宮に泊まってくれないか?」
「!?」
「朝まで私と一緒に……」
あ、朝まで!? なんか凄い事を言い出したわ!?
「ブ、ブ、ブライアン様!? な、何を言っているのですか!」
「アンジェリカは私の唯一の妃……婚約者だと皆の前で発表された。だから問題はないはずだ!」
ええ!?
むしろ問題しかないと思うわ!
「アンジェリカ……」
「うっ!」
ず、ずるいわ! そんな訴えかけるような目をするなんて!
「アンジェリカ……」
「~~~!」
私は小さく頷く。
それを見たブライアン様は嬉しそうに笑うと、そのまま勢いよく振り返って大声でユリウス様を呼んだ。
「そういうわけだ。ユリウス! あとは頼んだぞ!」
「───は、い? で、殿下! ちょっとお待ちください!」
ユリウス様が慌てて飛んで来た。
「待たん! アンジェリカはこのまま連れていく」
「馬鹿な事を言わないでください! パーティーはまだ終わっていません!」
「王女は退場したぞ?」
「それはそれ、これはこれですから!」
ユリウス様は断固として譲らない。
「だがアンジェリカが……」
「アンジェリカ嬢は逃げませんよ! もう大丈夫です────で・す・よ・ね? アンジェリカ嬢!」
あまりのユリウス様の迫力に私はコクコクと頷く事しか出来なかった。
「ほら! 頷いてますよ! ですから、イチャイチャはどうぞ夜に思う存分好きなだけどうぞ……ですが、ですが今は! とにかく後始末を……!」
「…………わ、分かった……仕方がない……」
そうしてユリウス様の気迫に負けたブライアン様は、渋々私を降ろして、もはや何の為に開かれているのかよく分からなくなってしまったパーティーを仕切り始めた。
────
こうして、色んな意味で大騒ぎとなったこの日のパーティーは後に“王太子殿下がようやく出来た天使の婚約者にメロメロだった!”と言って大きな話題になったという。
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