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27. 追い詰められる王女様

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「アンジェリカ……男好きの尻軽女のくせに……よくも!」
「!?」

  男好きの尻軽女ですって!?
  それって、まさか私の事を言っているの?

「ふざけんじゃないわよ!  この私を差し置いて……何であんたが!  有り得ない!  有り得ない!  有り得ない!!」

  王女様は半狂乱になって叫ぶ。
  その姿が本当に怖くて身体を震わせたら、ブライアン様の腕にグッと力が込められた。
  ブライアン様に守られている……その事に私の胸がキュンとする。

「……どうせ、王太子様の事もお得意の色仕掛けで誑かしたのでしょう?  あなた得意ですものねっ!」
「色仕掛け?  誑かすのが得意……?」

  そんな事した事ないのに?
  王女様はさっきから誰の話をしているのかしら?  本当に私の話?

「……王太子様!  騙されないでくださいませ!  そこの女、アンジェリカは私の国でも多くの男達に色目を使って誑かして弄んでばかりのとんでもない悪女でしてよ!」
「……」
「そんな悪女に王妃が務まるはずがありません!  その点、私なら」
「ジュリア王女殿下、あなたなら王妃に相応しいとご自分で言うのですか?」
「そうですわ!」

  ブライアン様の質問に王女様は得意そうな顔で頷く。
  その自信はどこから来るのかしら……

「だって私はディティール国の王女ですもの!  国同士の深い結びつきが出来て将来的にもいい事尽くしですわよ!」
「王女殿下……あなたはご自分で言っていて悲しくなりませんか?」
「は?」  

  呆れた声を出したブライアン様に対して、王女様は意味が分からないという顔になった。

「その言い方では、“王女”では無いあなたには全く価値が無いように聞こえますよ?」
「なっ!」
「アンジェリカはあなたとは違います。こんなにも可愛いのに昔から明るくて素直で真っ直ぐで、一途な頑張り屋で……何よりあなたと違って、身分を笠に着せるような真似は決してしません!」
「嘘よ!  ふ、ふざけ……」
「アンジェリカが誑かしたのではありませんよ。魅力溢れるアンジェリカの可愛さに勝手に惹かれた者が多かっただけの事です。王女殿下、全てあなたの勝手な思い込みと逆恨みだ」
「……っ!」
  
  ブライアン様の追求に王女殿下は何も言えなくなって唇を噛んで悔しそうにしている。
  ところで……

「ブライアン様……先程からよく分からないのですが」
「うん?  どうかしたかい?  アンジェリカ」
「えっと……私、留学中も結局、あなたの事が忘れられなくて誰とも交際した覚えは無いのです。なので、王女殿下は先程から何の話をしているのでしょうか?」
「アンジェリカ……」
「皆さん、留学生の私を気遣ってくれてたくさん話しかけてはくれましたけど……それだけですよ?」

  私がブライアン様の腕の中で首を傾げていると、ブライアン様は苦笑した。
  そして、愛しそうな目で私を見つめる。
  そんな目で見つめられると胸がドキドキするわ。

「アンジェリカは本当に可愛いなぁ」
「え!?  今って、そういう話でしたか?」

  私が聞き返すと、ブライアン様はますます笑った。

「ああ。そういう話なんだよ、私の可愛いアンジェリカ」
「ブラ…………あっ」

  笑顔のブライアン様の顔が近づいて来て、そっと私の額にキスを落とす。
  会場のどこかで「きゃー!」と黄色い声が聞こえた気がする。
  皆の前で!  そう思うけど嬉しい……

「私の可愛いアンジェリカには、ずっとそのままでいて欲しいが……自分が可愛いという事は、もう少し自覚していて欲しいものだな……」
「ブライアン様?」
「可愛い可愛い私のアンジェリカ……」

  私達は再び見つめ合うけど、やっぱりここでも王女様が割り込んで来ようとする。

「この女は何を言っているんですのよ!  あんなにも多くの男達を手玉にとっていたじゃないの!」

  ブライアン様は軽くため息を吐くと王女様に鋭く冷たい目を向ける。
  その目はいい所で邪魔しやがって……そう言っている気がした。

「王女殿下……あなたがあまりにも煩いので、アンジェリカがディティール国に留学していた最中の事を少し調べました」
「何ですって!?」

  私はいつの間に?  と思った。
  ブライアン様ったらどこまで調べたのかしら?
  留学してすぐに、意気揚々と街にくり出して盛大に迷子になった事まで知られちゃっているのかしら?
  それは、恥ずかしいわ……

「王女殿下。残念ながら、あなたの言うようにアンジェリカが男性を手玉にとっていたなんて発言をした者は誰もいません」
「う……嘘よ!  そんな事、有り得ないわ!」
「教師も生徒も、常に真面目に勉強に励むアンジェリカを評価する話ばかりでしたよ?」
「そんな……はず……」
「一方の王女殿下。あなたの話は、なかなか愉快で楽しい話が多かったです」
「なっ!?」

  ブライアン様がちょっと黒い笑みを浮かべながらそんな事を言う。

「愉快で楽しい話?」
「そうなんだよ、アンジェリカ。まず、そこにいる王女殿下の成績は1番なんだそうだよ」
「え?  1番!?」

  あれで!? 
  いつも、中庭でオーホッホッホと高笑いしていただけの王女様が?

「そう。1番最下位」
「……え」
「本当は進級すらも危うい状態なんだって」

  その言葉を受けてチラッと王女様の顔を見ると、真っ赤な顔でプルプルと身体を震わせていた。
  暴露された怒りなのかもしれない。

「それもそうだよね、だって、王女殿下は殆ど授業に出席することはなく、いつも空き教室にお気に入りの男子生徒を連れ込んでは、入れ代わり立ち代わりよろしくやっていたそうだよ?」
「……っっ!」
「学園側には必死に口止めしていたようだけどね」

  怒りで赤かった王女様の顔が今度は青くなっていく。

「ディティール国側もそれは頭を悩ますよね。王女殿下の国内での評判は最悪。それはさっさと他国に押し付けたくもなる。いらないけど」
「……」
「王女殿下、君がさっき、散々私の可愛い可愛いアンジェリカを罵っていた言葉。そっくりそのまま君にお返しするよ。男好きで尻軽で色仕掛けで、いつも男性を誑かしていたのは君の方だ」
「!!」

  王女様は、真っ青な顔で「あ……」とか「違っ……」とか口にしながら狼狽えてオロオロしている。

「どうしますか?  ジュリア王女殿下。これ以上、もっと恥晒しとも言える話を公のこの場で暴露されたいですか?  私は痛くも痒くもないので別に構いませんが」

  会場は圧倒的にブライアン様の独壇場となっていた。
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