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26. 告白

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  ブライアン様のそんな宣言にパーティー会場は一気にざわめいた。

  ────花嫁!
  ────相手は王女では無かったのか?
  ────ノルリティ侯爵令嬢といえば、昔からの最有力候補だったが……
  ────待て待て……候補から外されていたと聞いた事があるが……?

「ブラ、ブライアン様!?」
  
  こんな公表の仕方は聞いていない!
  いえ、流れ的にそうなってもおかしくは無かったけれど、何故抱っこして発表なの!?

  私はそんな気持ちでブライアン様の事を見る。
  すると、ブライアン様は頬を染めて照れながら言った。

「ユリウスが結婚式の時に天使の奥方をこうして抱いて入場していた。だから、私もやってみたかったんだ」
「ブラ……」

  なんて可愛い事を言うのかと思わず胸がキュンとしてしまった。
  だけど、ブライアン様は私を見てちょっと悲しそうな顔になっていく。何で!?

「アンジェリカ……そんな真っ赤になった可愛い顔を皆に見せるとは……」
「ブライアン様!?  今、あなたが懸念する所はそこなんですの!?」

  思わず突っ込んでしまった。
  だって、もっと他にあるわよね?
  特に目の前の王女様とか、王女様とか……!

  そんな王女様は口をあんぐり開けたまま、石像のように固まっている。

「当たり前だろう?  ……私のアンジェリカはただでさえ、誰よりも可愛いと言うのに。更にこんなにも可愛い顔を多くの前で見せる事になるとは……」
「ブライアン様……」
「これでは、ますますアンジェリカに懸想する者が現れるではないか!」

  ブライアン様の私を抱く腕に力がこもる。
  私も私で落ちないように、ブライアン様の首に腕を回してギュッと抱きついた。

「アンジェリカ?」
「ブ、ブライアン様がいったい何の心配をしているのかよく分かりませんが……そ、その……私はいつだってブライアン様一筋ですわ」
「え?」

  よく分からないけれど、今が私の想いを伝えるチャンスだと思った。

「こ、子供の頃から、ずっとずっとずっとずっとあなたの事だけが大好きですわ」
「……子供の頃から?」
「そうですわ。何度も何度もあなたを、ブライアン様と呼べる日を夢見ていましたの」
「アンジェリカが……?」
「?」
 
  どうしたのかしら?
  ブライアン様の瞳が大きく揺れている。
  何にそんなに驚いているの?

「どういう事だ?  アンジェリカは……ずっとユリウスの事を好きだったのではないのか?」
「え?  ユリウス様?」

  私は意味が分からず目をパチパチさせる。

「なんの話でしょう?  私はユリウス様にはそのような気持ちを抱いた事は一度も無いのですが」
「な、何だと!?」

  まさか、ブライアン様はずっと誤解していたというの?  え?  何で?

「わ、私……ブライアン様以外の男性を好きになった事……ありませんわ」
「アンジェリカの好きな男……え?  つまり、わ、私の勘違い……なのか?」
「……」

  そこで、ようやく思い出した。
  あの手紙!

  ───私はどうしたって、ユリウスにはなれない。

  ……あれは、あれはまさか……
  ルチア様の夫であるユリウス様になりたいけど、なれない……という意味ではなく……
  にはなりたくてもなれない、という勘違いだったの───!?

  ……ボンッ

  一気に私の顔が赤くなる。
  今更、ブライアン様の愛を疑ったりはしない。たくさん愛を告げられて、今は大勢の前で唯一の花嫁だと宣言されたから。
  だけど、自分が思っていた以上に愛されている気がする。

「つまり?  ア、アンジェリカの初恋は……」
「ブライアン様……あなたですわ」
「だ、だが……子供の頃は私とは目も合わせずに……」
「あ!  あれは、は、恥ずかしくて!  大好きなブライアン様の目を見て話すのが恥ずかしかっただけです……」

  私が照れながら説明すると、ブライアン様は破顔した。

「つまり、どうでもいい存在のユリウスばかりを見て私への想いを必死に隠そうとしていた……というのか?」
「ど……」

  ブライアン様のユリウス様への扱いが酷い。
「どうでもいいって何ですか!  言い方!」と、向こうの方でユリウス様が叫んでいる。
  でも、ブライアン様はそんなユリウス様の声を完全に無視して私の目を見つめる。

「アンジェリカ……私はなんて馬鹿だったのだろうか」
「ブライアン様……」

  ブライアン様がコツンと額を合わせてくる。
  もう、ドキドキが止まらない。

「私の天使はこんなすぐ近くに居て、ずっと私を想ってくれていたのか。それを私は気付かずに……しかも大きな勘違いまでして……」
「いえ、ブライアン様。私も……もっと早く素直になっていれば……」
「アンジェリカ……」
「ブライアン様、大好きですわ。ずっとずっとずっと……昔も今もこれからも!」
「アンジェリカ!  私もだ!」

  そうしてお互いしか見えなくなった私達は、大勢の注目を浴びてる事もすっかり忘れて、もっと顔を近付け───

「────ふ、ふざけんじゃないわよーーーー!」

  という王女様の声でハッと置かれている状況に気付いた。

「何いきなり私の目の前で小っ恥ずかしいラブシーン繰り広げているのよ!?  離れなさいよ!」

  小っ恥ずかしいラブシーン……
  凄い言われよう。

「王太子様、頭でも打ってしまわれたのですか?  あなたが婚約するのはこの私!  私のはずですわ!」
 
  王女様はそう言ってブライアン様に縋り付くようにして言った。
  そんな王女の様子を見たブライアン様は、はぁ……と大きくため息を吐く。

「ジュリア王女殿下。今回、あなたを出迎えた時にも言ったはずです。そんな話は聞いていないし、私ははっきり断ったと」
「で、ですが……今日のパーティーで婚約発表する……予定だと。それは……」

  ブライアン様はまたまた、ため息を一つ吐き、首を横に降ると言った。

「どこでそれを耳にしたのかは知りませんが、その相手は貴女ではありません。もう、この会場にいる誰もが分かっている事でしょうが、相手はアンジェリカです」
「……ア、アンジェリカぁぁぁ!」
「ひっ!」

  王女様がとても王女とは思えない形相で叫びながら私を睨む。
  あまりの迫力とその怖さに私はブライアン様にギュッと抱きついた。
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