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23. パーティー開始

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「ようやく……会える……!」

  王女様が再びやって来たせいで、私とブライアン様は全く会えなくなってしまった。
  だけどこの度開かれる事になった王女様の歓迎パーティー。
  ここでなら堂々とお会いする事が出来る。王女様と顔を合わせるのは少し心配だけど、いくら何でもパーティーでおバカな事はしないでしょう。

「さすがにそれくらいの教養は持ち合わせていると信じたいわ」
 
  そんな事を言いながら、パーティーに着ていくドレスを選んでいたらお父様が部屋にやって来た。



「どうされましたの?」
「……アンジェリカ。今日殿下に話があると呼ばれたのだが」
「まあ、殿下に?」

  お父様が困った顔を浮かべている。
  ブライアン様ったら、何かお父様に無理難題でも押し付けたのかしら?

「その、殿下にだな……パーティーが終わったら、ただちにアンジェリカの住まいを王宮に移すと言われたのだが」
「え?」

  早くない?  これから婚約よね?
  お妃教育とかは家から通うと思っていたわ?

「アンジェリカ……まさか、前にお前が愛人など……と言っていたのは……」

  あら?  お父様がプルプル震えているわ。
  そして、何だか変な解釈と誤解をしている気がする……

「待って!  お父様……愛人の話はご、誤解なの! いえ、私も勘違いしていたからお父様の事は言えないけれど!」
「誤解?  勘違い?」
  
  私はコホッと軽く咳払いをしてから、説明する。
  何だかとても、て、照れるわ。

「わ、私は……その殿下の……な、名前を呼ぶ許可を頂いた……わ」
「殿下の名前……」
「そうよ。呼べるのはわ、私だけって言われたわ」
「そ……それはつまり、アンジェリカが……殿下の……」

  私はコクリと頷く。
 
「……?  では、ディティール国の王女は何なのだ?  殿下との婚約の締結だと聞いたぞ!」
「あれは王女様の妄言ですわ!  殿下にその気はありません!」
「なに?」
「で、で、殿下は……わ、私を……愛してる……そうですわ」

  ダメ……自分で口にすると何だかとても恥ずかしい。

「殿下が……アンジェリカを愛している!?」
「え、ええ!  な、何度も言われた……わ!」

  と、言うか住まいを~の話で妃の話にはならなかったの?
  そう思ったけれど、お父様も私と似て……いえ、私がお父様に似たのか、一旦思い込むと他の話が入って来なくなる所があるから……聞き流しちゃったのかしら?

「アンジェリカ……その、お前も……」
「……」

  私はにっこりと笑った。


❋❋❋❋❋


「───アンジェリカ様!」

  パーティー会場に入ると、後ろから覚えのある声が聞こえた。
  振り返ると……

「ルチア様!」
「お久しぶりです」

  天使が笑顔で駆け寄って来た!  これだけで幸せになれそう。
  キラキラしたルチア様は本当に今日も綺麗。

「ルチア!  走ると危ない。転んだらどうする?」
「旦那様?」

  そこへ現れたのが過保護な夫……ユリウス様。
  ルチア様の腰に手を回して抱き寄せながら、さり気なく密着している!
  これは周囲への牽制も含めてるわね……

「ルチアは可愛いから一人になると危険なんだ、俺から離れないでくれ」
「……!  旦那様は相変わらず大袈裟です」
「大袈裟なものか!  アンジェリカ嬢だってそう思うだろ?」
「……」

  私にふらないでーー!

「旦那様……」
「ルチア……」

  それにしても、本当にこの二人は醸し出す空気からして甘い!  甘すぎて口の中がジャリジャリして来たわ……
 
  なんて思っていたら───

  王女殿下の入場の時間になった。
  全員の視線が一斉に会場の入口に注がれる。

「あれ?  ブラ……殿下がエスコートするわけじゃないの?」

  私は仕方なく形だけでも殿下がエスコートするのかと思っていた。 
  すると、ユリウス様が当然のように首を横に振った。

「いや、殿下が“アンジェリカ以外をエスコートなんて絶対にするもんか”と言い張った」
「……!」

  その言葉が嬉しくて胸が温かくなる。

「素敵!  アンジェリカ様、愛されてますね!」

  ルチア様が小さな声でこっそり私に向かってそう言ってくれた。

「そういうわけなので、王女殿下にはきっちりお帰り頂いて、堂々とアンジェリカ嬢が殿下の最愛だと早く皆に周知しましょう」
「ユリウス様……」
「そうでないと、俺と殿下の胃が荒れそうなので」
「「?」」

  私とルチア様はその言葉の意味がよく分からず目を合わせて首を傾げた。

  
  その後、殿下達、王族の入場があり、パーティーは開始した。
  でも、私はなかなか殿下の元へと行けずにいた。

  ───ただの“幼なじみ”の距離だとこんなにも遠いもなのね……
  何度も何度も彼の隣に立つ事を諦めようと思ったのが嘘みたいに今はとてもさみしい。

「殿下の所に向かわないのですか?」
「ルチア様……」
    
  ルチア様が不思議そうに訊ねてくる。

「行きたいけれど今は、殿下への挨拶の列が……」
「あぁ、確かに……あれでは難しそうですね」
「でしょう?」

  私が苦笑いしているとルチア様は言った。

「私、殿下がご自分の“天使”を見つけられた事が本当に嬉しいのです」
「自分の天使?」
「殿下は旦那様……えっと、ユリウス様が私の事を天使と呼ぶので一緒になってそう呼ぱれる事もありましたけど、内心はずっと“天使”と呼べる存在を見つけたユリウス様の事が羨ましかったようなので」
「……」

  それって、殿下がルチア様を“天使”と呼んでいたのは……

「ユリウス様が言ってました。今になって振り返れば殿下は、アンジェリカ様が留学から戻って来た後はずっとずっとアンジェリカ、アンジェリカと口にしていたって。近すぎて見えなかったのが、留学で離れてようやく気付けたみたいですね」

  そう言われると、留学も無駄では無かったのかも……そう思えた。

「……私、殿下の所に行ってきます」
「はい、行ってらっしゃいませ!」

  ルチア様に見送られてホワホワした温かい気持ちで殿下の所に向かおうとした時だった。

「お待ちなさい。どこへ行こうとしているのかしら?  アンジェリカ・ノルリティ」
「……!」

  笑顔なのに目の奥が全然笑っていない王女様が目の前を塞いで来た。
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