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21. 嵐の予感(再)

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  殿下からの熱い告白を受けた翌日。
  私は殿下からの“今日も愛しのアンジェリカに会いたい”そんな手紙を貰って照れながら王宮にやって来た。

  ちなみに昨夜。お父様に、
「やっぱり領地行きはやめました」と、告げたら「それは構わないが、愛人とはなんだ?」と詰め寄られてしまい、説明が面倒で逃げて来てしまったわ。
  でも、自分の誤解が招いた種ですもの。ちゃんと説明しなくては……



「え?  ユリウス様までブラックコーヒーを飲むようになったんですの?」
「……まぁ」

  殿下の執務室にお邪魔した私は、まずその光景に驚いた。
  
  ユリウス様は「苦っ」と一言だけ呟いて苦そうなコーヒーを口に運ぶ。
  私はその横に座っている殿下にも視線を向ける。彼は慣れた顔でいつものようにコーヒーを口に運んでいた。

「殿下も相変わらずですし……」

  主従の胃が心配だわ。
  そんな事を考えていたら、殿下がじっと私を見つめてくる。
  その目は何かを訴えているようだった。

「……どうしましたの?」
「アンジェリカ……なぜ、“殿下”に戻っているんだ」
「……え?  あ!」

  私は慌てて口を抑える。
  せっかく、名前を呼べる許可を貰えたのに……つい。長年の癖とは恐ろしいわ。
  それと、その……やっぱり、は、は、恥ずかしい……のよね!

「……アンジェリカ」
「!」

  で、で、殿下の目が!  
  そんな期待するような目で見つめるなんて!  反則よ!
  で、でも、これは恥ずかしがっている場合ではなくってよ、アンジェリカ!
  大好きな人がこんなにも求めてくれているのだから応えなくては!

「……ブ、ブライアン様!」
「アンジェリカ!!」

  私が顔を真っ赤にして叫ぶように名前を呼ぶと、椅子から立ち上がった殿下……ブライアン様が、ギューッときつく私を抱きしめる。

「ああ、アンジェリカ……私は幸せだ」
「……ブライアン様」
「アンジェリカ……私の天使……」

  そう口にしたブライアン様は更にきつくきつく私を抱きしめる。
  全身で私の事を“大好き”と言ってくれているみたいで胸が盛大にキュンとした。

  ───夢ではないんだわ。
  本当に本当に子供の頃から願っては何度も諦めた彼の隣に……私がいていいのよね?
  私もそっと腕を背中に回して抱き締め返した。

「────……苦かったはずのコーヒーが……美味しく感じる」

 ユリウス様のそんな声が微かに聞こえた気がしたけれど、私は目の前にいる愛しのブライアン様にうっとりと夢中だった。


────


「アンジェリカ……今日呼んだのは、君の最終的な意志を確認する為だ」
「最終的な意志?」

  ブライアン様はうんと頷くと、私の手をそっと取り握った。
  指を絡めながら手を握られたので何だか恋人みたい!  と、ドキドキしてしまった。

「──アンジェリカが私の妃となってくれるかどうか、の意志だよ」
「……!」
「私はアンジェリカ……君しかいない!  そう思っている。だが、振り返ると、そのやや強引に名前を呼ばせてしまったかもという思いもあってだな……その……」

  その言葉を聞いて、あ!  と思った。
  私は確かに殿下の名前……家族だけが呼べる名前を口にしたけれど、ブライアン様に好きですとは、はっきり告げていない!
  とんでもないうっかりだわ!  私のバカ!
  これは何としても早く私の想いを伝えなくちゃ!

「……ブライアン様!  聞いて下さい!  あのですね、私……」
「そ、それに、だ。アンジェリカには……ずっと好きな男がいたわけだろう?」

  ────ん?

「こういった事は年月の勝ち負けではないと分かっていても、私は一日も早く、ユ……そいつ以上の男となってアンジェリカに夢中になってもらいたい……」

  ────んんん?

  ブライアン様の話が見えないわ?  いったい何の話をしているの?
  ずっと好きな男?  そいつ以上?
  ……私はずっとずっとずっとブライアン様……あなたの事が好きなのに?

「あ、あの!  ……どういう意味ですか?  それはさすがにどうかと……」
「え?」

  つまり、ブライアン様は更に自分磨きをすると仰っているのかしら?
  もうこんなにも素敵なのに?  私にはあなた以上の人などいないのに。

「アンジェリカ……まさか、君は私には(ユリウス以上の男に)なれないと?」
「……だって」
「そんなに(ユリウスが)好きだったのか……」

  ブライアン様は手を離して私を抱きしめる。

「妬けるな……」
「え?  (ご自分に?)」
「何でもっと早くこの気持ちに気付かなかったのか……きっと私はずっとずっとアンジェリカの事が好きだったのだろうに」

  ブライアン様の手がそっと私の頬に触れる。

「ブライアン……様」
「アンジェリカ───好きだ」
「ブライアン様、わた……」

  私達が見つめ合い、絶好の告白の機会!  と思ったのだけど、

「────殿下、大変です!」

  そこに、バーンと勢いよく扉が開いてユリウス様が飛び込んで来た。

「「!」」
「大変なんです。イ、イチャイチャなんてしている場合では無いですよ!」
「……っ!」
「べ、別にイチャイチャなど……!」
  
  私達は大事な話をしていたのであって、イチャイチャしていたのでは無いわ!
  と、ユリウス様の言葉を否定しようとしたけれど、ユリウス様はそれどころでは無いのかサラッと流してしまう。

「コーヒーをブラックで飲みたくなる甘さが部屋に漂っているので、多分イチャイチャしていたのだと思いますが、今はそれはいいです。後でどうぞ。それよりも……」
「……ゴホッ……それよりも、何だ?」
  
  ブライアン様がどこか気まずそうにユリウス様に続きを促す。

「───再来です」
「は?」

  再来?
  何の話かしら?

「ディティール国のジュリア王女が再びやって来ます!」
「は?」
「え!?」

  私達、三人は顔を見合わせる。

「それも、殿下との婚約の締結という名目で」

  ───こ、婚約!?  何で!?
  と、私は叫びそうになった。
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