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18. 勘違い令嬢
しおりを挟む──今、私に妃になって欲しいと言った?
さすがに聞き流せないとんでもない言葉が飛び出した。なので、“軽々しく妃なんて口にしてはダメです”と注意しなくては……
と思って殿下の顔を見つめ返そうとした。
「……え?」
「……っ」
だけど、私は殿下の顔を見て固まってしまう。
なぜなら……
「で、殿下? あのお顔が……」
「…………言、言うな」
ブワァァァという音が聞こえそうな程の勢いで殿下の顔が一気に赤くなっていく。
「ですが、お、お顔が尋常ではないくらいの勢いで……」
「だ、だから!」
「……ま、真っ赤になっていくのですが?」
「く……くっ───ア、アンジェリカ!」
名前を呼ばれてギューーーーッと抱きしめられた。
そのせいで、赤くなった殿下の顔が見えなくなってしまう。
はっ!
さっき、痛そうに頭も抱えていたわ!! つまり殿下は……
「ああ! 分かりましたわ! そ、そんなにも熱があったから私を妃にしたいだなんておかしな事を口ば……」
「違う!」
殿下が強い口調で否定する。
「違う、全然違うぞ! これは全部、私がアンジェリカの事を好きで好きで大好きすぎて照れてるだけだ!」
「殿下が、て、照れ? わ……私を……好……き」
どうしたらいいの?
混乱のせいで上手く頭の中が整理出来ないわ。
───私の天使は君だったらしい
───アンジェリカ……君を誰よりも心から愛しているのはこの私だ!
殿下から貰った言葉が私の頭の中を駆け巡る。
「で、殿下は、ま、まさか……本当にわ、私を好きで、わた、しに求婚しに来た……んですの?」
「そうだと言っている!」
───そうだ?
即答されたわ……
で、では、本当に? これは夢でもなんでもなく正式なプロ…………はっ!
「アンジェリカ。私はアンジェリカを」
「で、で、殿下! 待って下さい」
「何だ?」
何か言いかけている最中の所を遮ってしまったせいか、殿下が少し不満そうな表情を見せる。
でも、大事な事なの!
「妃……つまり、殿下は私には愛人ではなく、側妃になる事を望んでいるのですね?」
「────は?」
天使発言の時と同様に、部屋の空気がピシッと固まった音がした気がした。
部屋の隅でユリウス様がずっこける姿が見えたけれど、大丈夫かしら?
でも、私はそんな事はお構いなく話を進める。
「私、てっきり殿下にからかわれていて、愛人を望まれてるのだとばかり思っていましたわ」
「あいじん……」
「でも、妃という事は……側妃待遇のおつもりだったんですね……」
「そくひ……」
きっと殿下なりに私の事を最大限に思って下さっている事は理解したわ。
「ですが、私……正妃となられる王女様とはうまくやれる気がしませんわ」
「せいひ……おうじょ……」
「だって私、すでに王女様にものすごく嫌われているんですもの……」
立場も何もかもが向こうの方が上……
殿下の愛だけであの王女と戦うなんて、そんなの不安しかない……
だから、そんな簡単に頷けないわ。
「……」
あら? 遂には殿下が黙ってしまった。
ユリウス様~何か助言を……と思って彼の方を見たけれど、転んだ時のまま、床と仲良くしていて全然起き上がる気配がないわ。
身体はピクピク動いているけれど、冷たくないのかしら?
「……ア、ア、アンジェリカさん」
「はい」
アンジェリカさん?
殿下ったら変な呼び方をするのねぇ……?
私は首を傾げながら殿下のその声に応える。
「……あ、愛人とか側妃とかどこから出て来たのか聞いてもいいだろうか?」
「え? 当然、それは殿下がディティール国のジュリア王女殿下を正妃としてお迎えするからですわ。そうしましたら、私は愛人か側妃という事でしょう?」
「…………」
またしても、部屋の空気がピシッと固まった音がした気がした。
「……殿下?」
大変! 殿下がにっこり笑顔のまま微動だにしなくなった!
「……」
「……」
「……」
「……あ、あの? で────きゃぁ!?」
固まっていた殿下がようやく動いた? と思ったら、何故か私を横抱きにしながら持ち上げた。
───えぇぇぇえぇ!?
そして、そのまま私を抱っこしたまま隣の部屋の寝室を開け、遠慮することなく中に入って行く。
「で、殿下? 何して……あと、ここは寝室ですわよ!?」
「……知っている」
「わ、分かっているのなら、早くお、降ろしてくださいませ!」
「……降ろしていいのか?」
「は、はい! だ……抱っこ、だなんて、は、恥ずかしいですもの!」
「……分かった」
そう言って殿下は私をベッドの真ん中へそっと降ろしてくれた。
ああ、良かったと安心したのも束の間……
「───アンジェリカ」
「?」
と、名前を呼ばれたと思ったと同時にベッドに押し倒された。
「───!?」
「アンジェリカが降ろせと言った」
「!? い、い、言いましたけど! こ、これはっ! ちょっと違……う?」
───よ、よく分からないけど!
色々間違っている事だけは分かるわ!
殿下は焦る私を見下ろしながら言う。
「……このまま既成事実を作ったら、さすがのアンジェリカも自分が正妃……いや、私の唯一の妃だと分かってくれるのだろうか……ははは」
「で……殿下?」
「アンジェリカ……」
殿下の片方の手が私の頬に触れ、そっと撫でる。
て、貞操の危機? かもしれないのに、何だかその撫で方が色っぽくてドキドキしてしまう。
「どうしたら伝わる? 私がこんな風に触れたいと思うのも……そして触れるのもアンジェリカだけだ」
「……っ!」
「なのに、いったい何がどうしてどうなってあんな王女が私の妃に……なんて話がアンジェリカの脳内に飛び出て来たのか……」
「えっと……?」
あれ?
あれれ?
何かが、何かがおかしいわ??
だって───
「で、殿下! は、話をしましょう! 私たちの間には、と、とんでもないご、誤解? がある気がしますわ!」
「……」
「で、殿下?」
「……アンジェリカ」
「……え! あっ」
殿下の麗しのお顔が!
ち、近付いて……く、来る!?
もしかして、こ、これはキ……
と、心臓バクバクの私が覚悟を決めた瞬間、
「───はぁ、身体が痛い……殿下? アンジェリカ嬢? 二人共こっちの部屋ですかー……?」
「「……っ!!」」
「…………あ!」
と、ノックの音と共に何とも言えないタイミングでユリウス様が寝室にやって来た。
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