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3. パーティーは終わりまして
しおりを挟む私が色々な事をグルグル考えているうちにも、殿下はリデル様をどんどん追い詰めていた。
「ところでさっき、君には“王太子妃”になる資格はないと言ったのを覚えているかな?」
「そ、そうですわ! ど、どういう事なのですか! 私はあなたの花嫁になる事だけを考えてずっとずっと殿下一筋で……」
「みたいだけどね……だが、それなら何をしてもいいと言うのかい?」
「……え?」
あ、リデル様の表情が固まったわ。
「それなら、天…………妹を陥れて孤立させても構わないと?」
「……なっ!」
ん? 今、天……天使って言いかけた?
ちょっとだけ胸の奥がモヤッとする。
「私の婚約者候補の令嬢達を汚い手を使って蹴落としても構わないと?」
「……っっ!」
あぁ、やっぱりそうなのね?
そして、彼女の嘘に騙されてしまったのはどうやら私だけではなかった……
それは確かにこうして大きな問題にもなるわね、と私は思った。
「スティスラド伯爵令嬢、君はこんなに派手な仕打ちを他人にしておいて、何も調べられないとでも思っていたのかい?」
「───そんなの! この“美しい私”なら……」
「君は醜い。外見じゃない。容姿だけなら君は綺麗なのだろう…………もっと綺麗な人が世の中にはいるけどね」
「……もっと? 誰の事です!?」
───殿下はそれが具体的に誰の事なのかは答えなかったけれど、きっと“天使”……ルチア様の事を指しているのだと思った。
だって、本当に可愛くて綺麗だもの。
でも、その反面。私はリデル様を追い詰めていく殿下を見ながら、内心でホッとしてもいた。
この方はちゃんと外見じゃなく中身を見てくれる人。
決して変わってなんかいなかったのだと。
そして、やっぱりそんな彼の事を好きだなと思ってしまう自分が悔しかった。
その後はスティスラド伯爵家の面々が出張ってきて騒いだり、ユリウス様と奥方のルチア様の愛の深さを知る事になったりと、とにかくパーティーは波乱しかなかった。
そうこうしているうちに、パーティーが終わってしまい、あれ? と思った。
殿下の婚約者云々の話はどこへ行ったの? と。
「お父様……結局、殿下の婚約の話はどうなったのでしょう?」
「…………分からぬ」
お父様とも帰りの馬車の中でそんな会話をしたけど、答えは出なかった。
❋❋❋❋
そんな波乱しか無かなかったパーティーの数日後。
「目指す、諦める、目指す、諦める……」
「ア……アンジェリカ。お、お前はいったい何をやっているんだ……?」
「あら、お父様」
その日の朝食を終えた後、私が花占いをしていたら、部屋を訪ねてきたお父様が残念な子を見るような目で私を見ていた。
なんて失礼なの!
「ご存知ありません? 花占いですわ」
「花占い? 何かをブツブツ呟いて花びらをちぎる行為がか? う、占いではなく呪いではないのか?」
「まあ! 呪いだなんて人聞きの悪い……」
ただ、私は殿下の妃をこの先も目指すか諦めるかを花びらに託していただけなのに!
「それより、何の用です?」
「あー……一応報告をだな。やはりあのパーティーはスティスラド伯爵令嬢を追い詰める事を目的としていたようだが、殿下としては花嫁も本気で探していたようだ」
「……ユリウス様とルチア様の愛の劇場みたいになっていたわよ?」
「そ、そうだったがな……だから、殿下も少し……いや、かなり? 落ち込んでいたようだ」
お父様の言葉を聞いて思った。
その落ち込みは花嫁探しが不発に終わったから?
それとも、天使……ルチア様がユリウス様と仲睦まじい様子だったから?
どちらなのかしら。
「……」
「どうした? アンジェリカ」
「……ねぇ、お父様、これからお仕事ですの?」
「あ、ああ……」
お父様が何を当たり前の事を聞いてくるんだって顔をしている。
当然よ! 分かってて聞いたんだもの!
「それなら、お願いがありますの!」
「お、お願い?」
私が花占いを中断して勢いよく立ち上がった。そのせいかお父様が驚いている。
「ええ! 私を王宮に連れて行って下さいませ!」
「──は?」
───と、いうわけで、私は仕事で登城するお父様にくっついて王宮へと足を踏み入れた。
別れ際、お父様は口を酸っぱくして私に向かって言ったわ。
「アンジェリカ! 王宮に連れて来たはいいが、殿下の仕事の邪魔だけは絶対にしてはならんぞ!」
「もちろん、分かっていますわよ!」
もう! お父様ったら。子供じゃないんだから!
約束もせずに殿下の元に突撃したりなんてしないわ。
ええ、ですが、ただこう……ほんの少し? チラッとでも姿が見られたら嬉しいなぁって思っているくらいよ?
そんな事を思いながら私は王宮内を歩く。
「あら?」
中庭に辿り着いた時、私は懐かしい気持ちでいっぱいになった。
昔、殿下とユリウス様と三人でよくここで遊んだわ。
「……あの頃に戻れたらいいのに」
そんな言葉が私の口から溢れたその時だった。
「アンジェリカ嬢?」
「!」
聞き覚えのある声につられて振り返る。
そこに立っていたのは……
「ユリウス様!」
「久しぶり。留学していたらしいけど変わらず元気そうだ」
両手いっぱいに物を抱えたユリウス様だった。
パーティーでは話せなかったので、本当に久しぶりだった。
「ご無沙汰しております……ってそれより、その荷物……」
「ああ、これ? 仕事と……こっちは殿下のお見合い写真の山だ」
「!」
お見合い写真という言葉に私の耳が反応してしまった。
「お、お見合い写真?」
「そうなんだよ。殿下が花嫁探しをしている事は知れ渡っているから、皆、俺に写真を預けていくんだ」
「な、なるほど……それにしても多いですわね」
見ていてあまりにも可哀想なので、手伝いがてら半分持つ事にした。
「すまない。まぁ、先日のパーティーであの女が虚偽の発言をしていたと分かったから、ここぞとばかりに令嬢達のアピール合戦の始まりさ」
「……そ、そう、なのね」
分かっているけどモヤモヤする。
「最初に候補に挙がっていた令嬢達は、あの女の虚偽の発言を真に受けて辞退を申し入れた後、殆どが嫁いでしまっていたから、ほぼ最初から仕切り直しなんだ」
「……」
ああ、本当に婚約者候補は真っさらなんだわ。
もしかして、私……本当に希望を持ってしまってもいいのかも……
私の胸が高鳴った。
「で、殿下は……なんと言っているんですの?」
「うーん、それが、今はまだいい、の一点張りなんだ」
「!」
───それって、やっぱり“天使”がいるから?
また、私の胸がモヤッとした。
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