【完結】どうやら転生先は、いずれ離縁される“予定”のお飾り妻のようです

Rohdea

文字の大きさ
上 下
22 / 24

21. 愛しい人を (カイザル視点)

しおりを挟む


「……」
「コレット?  ……え?  もしかして、この状況で寝ちゃったのか?」
「……」

 残念ながら、初夜のやり直しはお預けとなってしまったが、半ば強引に一緒に寝ようと言ってコレットをベッドに引き込んだ。

(目を丸くしているコレットも可愛かったな)

 そのままコレットのすべすべの肌とか柔らかくて甘い唇とか、たくさん堪能していたけど、やり過ぎたかもしれない。
 コレットが力尽きて、すーすーと寝息を立てて眠ってしまった。
 自重しないとと思いつつも……

「……寝顔も可愛い」

 コレットが目覚めなかった時は寝顔どころではなかったからな……

「───コレット。ようやく君をここに迎えられた」

 シェイラを好きだと気付いてから、君がこうして俺の隣に居てくれたら……といつしか願うようになっていた。
 貴族の落胤なのは分かっていたが、平民のシェイラにそれを望むのはとても難しいことだと分かってはいたけれど。

「…………君は知らないんだろうな」
「……」

 俺が求婚する前、コレットには三十歳ほど年上でかなり女好きの全くいい噂を聞かない侯爵が、やはり借金の肩代わりを条件に求婚しようとしていた。
 それを知った俺は慌ててもっといい条件を伯爵に提示して無理やり割り込んで君を手に入れた。

(──誰が譲るものか!  君のことを誰よりも好きなのは俺だ!)

 そっとコレットの頬に触れる。
 柔らかくてモチモチしたコレットの頬。これは癖になる。ずっと触れていたい。

「……ずっとずっと君に会いたかった。こうして触れたかったんだ……」

────────
────……



 ───嘘だ!  シェイラが死んだなんて俺は絶対に信じない!

 シェイラがもうこの世に居ないと聞かされ、更には馬車で轢かれたらしい“平民の女の子”の話を聞いても俺は彼女がもういないという事実をなかなか受け入れられずにいた。

『───いい加減に婚約者を決めろ!  カイザル!』
『そうよ!  いつまでそのままでいる気なの?  我が家の跡継ぎはお前しかいないのよ!』
『……』

 自分の目の前に並べられたたくさんの釣書。
 どれもこれも俺の婚約者候補として見繕われたお見合い相手らしい。
 中には社交界で人気と謳われる令嬢もいたらしいが、どの令嬢のどんな姿絵を見ても俺の心は全く動かない。

『……』
『おい、カイザル!  何か言ったらどうなんだ!』
『本当に……ますます無口になっちゃって、どうしてしまったのよ?』
『……』

(だってどの人もシェイラじゃない……)

 自分だって分かっている。
 もうこの世には居ないらしい初恋の彼女を追い続けるのがどれだけ惨めで阿呆なことか。

『──跡継ぎは養子でも取ればいいじゃないか』
『なんだと!?  ふざけるな!』
『っ!』

 その時は、怒鳴り声と共に父親の拳が飛んできた。


◆◆


『痛てて……』

 鏡を見てみると頬は中々の腫れっぷりだった。これまた随分と力いっぱい俺を殴ったようだ。
 喋ろと言われたから、言われた通り思ったことを口にしただけなのに。

(久しぶりに殴られたな……)

 シェイラとの逢瀬を繰り返している時は毎日のように両親と揉めていた。
 そして、殴られたこともある。

(あの時はシェイラ、心配そうにしていた……転んだというのも嘘だとバレていたんだろうな)

『───本当は分かっている。シェイラ、君のことは思い出にして前に進むべきだと』

 だけど、きちんと別れが言えなかったことや、俺のせいで彼女があんな目にあったのだと思うと……

『シェイラが今の俺を見たら、プンプンした可愛い顔で怒るんだろうなぁ……でも』

 怒っていてもいいから会いたい。君に……もう一度会いたい────……
 俺はずっとそんなことばかり思っていた。


◆◆


 そして、両親との関係も冷戦状態に入った頃、とあるパーティーで俺は“彼女”を見かけた。
 ───コレット・ラフズラリ伯爵令嬢
 そう呼ばれた彼女を見た時、俺の全身には電流が走った。

(───シェイラ!?)

 ずっとずっと頭の中だけで想像していた大人になった姿の“シェイラ”がそこにいた。


────


(あ、また外を見ている……)

 コレット・ラフズラリ伯爵令嬢。
 初めて見かけた日が社交界デビューだったという彼女は、それから社交界にも顔を出すようになっていた。
 そんな彼女は、必ずと言っていいほどパーティーでは庭ばかり見ている。
 他の令嬢たちが将来有望な独身男性に色目を使いながらうっとりしている中、彼女だけは庭を見てうっとりしている。

(あの顔!  もう、シェイラにしか見えないぞ!)

 見た目に趣味嗜好、そして幼少期時代については不明なことばかり。調べれば調べるほどコレット嬢は怪しかった。
 それに、だ。ラフズラリ伯爵はあの街の領主。

 ───ママには内緒よって言われたんだけど、私のパパ?  は、この街で一番偉い人なんだって。

 あれは、ラフズラリ伯爵のことだと思われる。
 つまり……コレット嬢は……
 俺の中で疑惑が確信に変わった瞬間だった。


◆◆


『───カイザル!  いい加減に婚約者を決め──』
『ああ、父上。俺が結婚したらすぐに爵位を譲ってくれますか?』
『は?  お前、何を言って……』

 驚き顔の父上に俺はにっこり微笑む。

『───実は、結婚したいと思える令嬢を見つけました』
『な!』
『本当なの!?』

 俺のその言葉に両親は色めき立った。

『やっとその気になったのか。で?  どこの令嬢だ?』
『ようやく、結婚する気になってくれたのね!』

 嬉しそうな両親にオレは冷たく言い放った。

『……その気にはなりましたから、さっさと退いてください』
『は?  本気、か?』
『もちろんです』

(シェイラ……コレット嬢を迎えるのに両親は邪魔だ)

 今は俺が結婚する気になったことで喜んでるが、俺の望む相手が“コレット・ラフズラリ伯爵令嬢”だと知ったらこいつらは絶対に彼女を傷つける存在となるだろう。
 そんなことは絶対にさせない。

『お二人は残りの余生を仲良く領地でのんびり過ごされたらどうですか?』
『カ、カイザル……?』
『俺に結婚して欲しいのでしょう?』
『ぐぬぬ……』

 そうして俺は邪魔な両親を領地へと追い払うことに成功。

 それから色々あったが、無事にコレット嬢の婚約者の座を手に入れて迎えた初顔合わせの日。
 俺は盛大に緊張していた。
 俺のことを覚えているだろうか?
 あの頃、俺は自分を貴族だとは名乗らなかった。それでも“カイザル”という本名は伝えていた。
 きっと、きっと、シェイラなら俺だと分かってくれるはずだ────

 だが……

『初めまして、ディバイン伯爵様。コレット・ラフズラリと申します』
『……!』

 少々、ぎこちなさの残るお辞儀とともに挨拶に現れたコレット嬢。
 彼女は俺の顔を見ても顔色一つ変えなかった。
 俺の心が一気に不安になる。

(……シェイラ、ではない、のか?  それとも、俺のことが分からない?)

 ラフズラリ伯爵父親がこの場にいるからか?  だから、初対面の振りをしている?
 そんな淡い期待を抱くも、コレットの態度はその後に二人っきりで話す機会を貰っても全く変わることはなかった。

(───どういうことだ?)

 そして、コレット嬢と話をしていて気付く。
 コレット嬢はとある年齢より前のことをまったく語らないし、話題にすらしない。

(まさか……覚えていない、のか?)

 そんな疑問を抱いた俺は、初顔合わせの帰りにコレット嬢のいない所で伯爵を問いつめた。

『八歳の時に引き取った……一応、私の子です』
『母親は……へ、平民で……もうコレットとは暮らせない……』
『コレットには平民で暮らしていた頃の記憶が……ありません』

 ようやく見つけた大好きだった彼女は俺のことだけでなく、全てを忘れていた────


──────
───……


「驚いたよ……でも記憶がなくても俺はやっぱり君が欲しかった、コレット」
「……」

 忘れてしまったなら、また一から始めればいい!
 だってやっぱり君は君だったから。

「なのに、コレット。君は……」

 なぜか自分のことを“ちょうど良いなんて理由で選ばれたお飾りの妻”などと言い出した。

「全く君は……どうしてそんな勘違いをしたんだい?」

 俺はスヤスヤと眠るコレットの髪を手ですくって、そこにキスを落としながら訊ねた。

(───そうだな。ぜひ目覚めたら教えてもらおうかな?)

しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

処理中です...