【完結】どうやら転生先は、いずれ離縁される“予定”のお飾り妻のようです

Rohdea

文字の大きさ
上 下
21 / 24

20. 本当の夫婦に……

しおりを挟む

「ご、ご主人様、奥様……その大丈夫……ですか?」

 ノックと共に顔を出したのは使用人。何かあったのかと心配そうな表情で現れた。

 どうしたの?  と思ったけれど、時計を見て気付いた。
 ずっとこの場で話し込んでいたせいでお父様が部屋を出て行ってから、それなりに時間が経っていた。
 更に言うなら、カイザルは病み上がり……というよりも目が覚めて即この部屋に駆け込んで来たらしいから、医者にも診てもらっていない……のでは?

(それは心配になって無礼でもなんでも覗きに来るわーーーー)

「え?  あ……イチャ……」

 そうして現れた使用人は、私とカイザルの姿を見てハッと声を失う。
 さらに頬を赤く染めて「し、失礼しましたーーー!」と言って回れ右をした。

(……え?  なぜ?)

 どうしてそんな急に顔を赤くして慌てて──?  それに、イチャって何?  と思った所でハッと気付いた。

(わ、私……今、カイザルの腕の中に抱き込まれている、わ!)

 カイザルからの熱い告白を受けてから、チューだのギューだのずっと自分たちが密着状態だったことに今更ながら気付く。

「~~~!!」
「え?  コレット?  急にどうしたの?  また真っ赤……」
「み、密着……見られ、た」
「ん?  どういうこと?」

 カイザルには私の恥ずかしい気持ちが伝わっていないようで、不思議そうに首を傾げている。
 そうして、使用人の後ろ姿と私の顔を交互に見てからようやく「ああ!」と言った。
 そして、何故かさらにギュッと抱き込む。

「ははは、そんなの照れずにたっぷり見せつけておけばいいじゃないか」
「なんで!?」

 見せつける───!?
 そんなとんでも発言に私が聞き返すとカイザルはにっこりと笑った。
 そして、私の顎に手をかける。
  
「───だって俺たちはもう、夫婦なんだよ?  コレット」
「え?  で、でも……まだ……」

 一度も閨を共にしていないわよね!?  真っ白~な結婚よね!?

 と言おうとした私の言葉はカイザルの唇によって塞がれた。


───


「……んっ」
「……」

 カイザルのキスはとても長かった。
 苦しい!  と思えば少し離してくれて、でもまたすぐ塞がれて。
 角度を変えて何度も何度もチュッチュと……

「カイザ……ん、そろそろ、困っ」
「───俺たちが仲睦まじい夫婦だと伝わっていいだろう?」

 使用人がそろそろ困っているのでは?
 そう言いたかったのに、カイザルはなかなかキスを止めない。
 唇だけじゃなく、額、頬、目元……と、たくさんのキスの雨を降らせてくる。

(そんなにキスが好きなのかしら?)

 私もカイザルからのキスは甘くてフワフワで幸せでもっと……なんて思ってしまうけど、さすがにそろそろ……と思って離れようとする。
 それを察したカイザルが、キスを一旦止めると私の耳元で囁いた。

「仕方がないな────コレット。今夜からは一緒に寝よう」
「ぅ……へ!?」

 その言葉の衝撃に大きなダメージを受けていたらカイザルはとどめを刺すかのように言った。

「───あの日に出来なかった初夜のやり直しを……今夜こそ」
「!!」

 ボンッと私の顔が真っ赤になる。

「……コレット」
「……」
「俺の愛しい、コレット……」

 カイザルの甘くて蕩けそうな声が私の耳元で何度も囁いてくる。

(もう!  これは誰なの!?  本当にカイザルなの!?)

 こんなにも甘く迫ってくるカイザルなんて知らない!
 甦った記憶の中のカイザルとも、覚えている範囲の小説の中のカイザルとも違う。

「君が頷いてくれるまで……離さない」
「──!」
  
 ───それは困ります!  
 だって私も使用人も、もう限界よ!! 
 そう思った私は“初夜のやり直し”の提案に頷くことしか出来なかった。

(……今夜)

 トクントクンと胸が高鳴る。
 今夜……本当に私はカイザルの妻になるんだわ……!
 そう思ったら私のこの胸の高鳴りはなかなか治まってくれなかった。



 ───なのに。

 その夜、ドキドキして夫の訪れを待っていた私。
 そうしてようやく私の部屋を訪ねてきたカイザルが……

「コレット、すまない!」
「ど!?」

 ものすごい勢いで私に頭を下げる。
 それは、前世でもなかなかお目にかかれなかった、とても綺麗な見事な土下座だった。

(ど、土下座……この世界にあるのね……)

 なにごと!?  という思いと同時に小説での初夜の「君を愛せない」を思い出してしまって私の頭の中が一瞬クラっとする。
 そういえば、あれもカイザルは土下座していたかもしれない。

「───コレット、すまない……俺は……今夜、君を抱けない!  だが、君のことを愛している!」
「は?」

 もう一度、私の頭の中がクラっとした。


──────……


「……」
「す、すまない……コレット」
「……」
「頼むから、そ、そんな可愛い顔でむくれないでくれ……いや、めちゃくちゃ可愛いんだが!」
「……」

 私はプイッとカイザルから顔を逸らす。
 可愛いなどと言われて絆される私ではないのよ!

「お、俺だって!  俺だって今夜こそ……コレットとやり直すつもりだった!  だ、だが!」
「……」
「おじ……医者のストップがかかったら何も出来ん……!」

 カイザルはそう言って頭を抱えた。
 さすがにこれ以上興奮させてはいけないと思い、私はカイザルに顔を向けた。

「……ごめんなさい。ちゃんと分かっています」
「コレット……」
「ただ、今夜……カイザルの本当の妻になれる……そう思っていたからちょっと……残念で」
「ぐうっ……せっかくコレットからそんな言葉が聞けているのにーー……」

 カイザルは悔しそうに唸った。


 ──そう。
 カイザルは先程までおじいちゃん先生の診察を受けていた。
 先生は頭と全身を強く打って意識不明だったのに、目覚めるなり飛び出して行ったことをそれはそれはお怒りだったらしい。
 しばらく安静にしとらんとどうなっても知らんぞ!  と脅されてしまい、当然……
「子作りなど以ての外じゃあ!」
 とそれはそれは強く怒られたという。

 そういうわけで、私たちの初夜のやり直しは延期となってしまった。

(分かっているのよ……ただ、期待した分のショックが大きかっただけ)

「困らせてごめんなさい、カイザル」
「コレット?」
「寂しいけれど……でもあなたを無理させるわけにはいかないもの、ね」
「……」
「さ、カイザルは部屋に戻って?  もうお互い休みましょう!」

 ちゃんとカイザルの気持ちは分かっている。
 私ももう変な誤解はしたりしない。だから大丈夫、本当の夫婦になれる日まで待てるわ。

 そんな気持ちで微笑みを向けたら───

 ポスンッ

「……え?」
「……」

 何故か腕を取られて、私はそのままベッドに押し倒された。
 そして、カイザルは私の上にのしかかる。

「カ、カイザル……さん?」
「……」
「え?  あっ…………ん!」

 カイザルの顔が近づいて来たと思ったら、そのままキスをされた。

(どうして!?   話は終わったはず───今夜は解散……では!?)

「コレット……」
「!」

 ビクッと身体が震えた。
 また、耳元で甘く囁かれる。どうやら私はカイザルのこの甘い声に弱いらしい。
 そして、カイザルは私の手を握ると指を絡めながら言った。

「───確かに今夜の俺たちのやり直しの初夜はお預けだが……」
「?」
「一緒に眠ることまでは禁止されていない」
「え?  ちょっ……ちょっと、待っ……」

(一緒?  眠る……!?)

 そう言って熱っぽい目で私を見つめるカイザルの顔が再び近づいて来た───

しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

伯爵令嬢の婚約解消理由

七宮 ゆえ
恋愛
私には、小さい頃から親に決められていた婚約者がいます。 婚約者は容姿端麗、文武両道、金枝玉葉という世のご令嬢方が黄色い悲鳴をあげること間違い無しなお方です。 そんな彼と私の関係は、婚約者としても友人としても比較的良好でありました。 しかしある日、彼から婚約を解消しようという提案を受けました。勿論私達の仲が不仲になったとか、そういう話ではありません。それにはやむを得ない事情があったのです。主に、国とか国とか国とか。 一体何があったのかというと、それは…… これは、そんな私たちの少しだけ複雑な婚約についてのお話。 *本編は8話+番外編を載せる予定です。 *小説家になろうに同時掲載しております。 *なろうの方でも、アルファポリスの方でも色んな方に続編を読みたいとのお言葉を貰ったので、続きを只今執筆しております。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...