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1. 目が覚めたら
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──────────
その日、結婚式を無事に終えて初夜の準備も整え、伯爵夫人となったコレットはドキドキしながら夫の訪れを待っていた。
(慌ただしい結婚だったけれど、私は今日からカイザル様の妻……)
初夜は緊張する。
けれど、旦那様に全て任せておけばいいと皆は言っていた。
(カイザル様、早く来ないかしら……?)
色々と未熟な私だけれど旦那様を支えて一緒に伯爵家をしっかり支えられるように頑張らなくては!
そう気合いを入れたコレットの耳に部屋の扉がノックされた音が聞こえた。
(───カイザル……旦那様だわ!)
コレットは、パッと顔を上げて立ち上がると扉に向かって駆け寄る。
そして、扉を開けると思った通り、本日、夫となったばかりのカイザル様が立っていた。
『お、お待ちしておりました』
『……』
(あら?)
そう言って出迎えたのに何故かカイザル様は無言だった。
その様子を、もしかしてカイザル様も緊張しているのかしら? と、コレットは非常に前向きに捉えた。
『不束者ですが、これからどうぞよろしくお願いします』
『……』
(あら? 挨拶も返してくれないの?)
これはさすがに何だか不安になってしまう。
自分は何も粗相はしていないはず。では何故、先程からずっと無言なの?
コレットには口を聞いてもらえない理由がさっぱり分からなかった。
そうして暫く無言が続いた後、ようやく口を開いたカイザル様から飛び出したその言葉にコレットは自分の耳を疑った。
『すまない。俺にはずっと他に好きな女性がいるんだ』
カイザル様は頭を下げながらそう言った。
────はい?
ホカニスキナジョセイ?
『だから、君を愛することは……出来ない』
────は?
キミヲアイスルコトハデキナイ?
え?
嫌だわ。耳がおかしくなってしまった?
妻となったはずの私以外に好きな女性がいて、だから私を愛せないと聞こえたわ。
カイザル様ったら何を言っているの? 私たちは今日結婚式を挙げて夫婦になったのよ?
そんなのおかしいわよね?
『すまない……君は……俺にとって丁度良かったんだ!』
『なっ……!』
丁度良かった……その酷い言葉にコレットはクラリと目眩がして倒れそうになった。
──────────
───……
「…………なんて最っ低な男なのーーーーー!」
“私”はそう叫びながら目を覚ました。
先日から読み始めたとある小説。
定番の内容だし、あらすじでこうなることはもちろん知ってはいたけれど。
初夜に夫が「他に好きな女性がいる」「君を愛することは出来ない」とか言い出した。
もちろん、言われた新妻は初耳だ。
「なんで、初夜で言うかな? しかもその事実を隠して結婚するとか! ちゃっかり逃げられない状況にしちゃって、夫、最低ーーーー!」
結局、この二人の初夜は行われることなく、このまま二人は白い結婚へと突入する。
そんな男性との結婚生活なんて幸せどころかお先、真っ暗じゃないの───
と、思ったところでふと目に入った天井にあれ? と思う。
(私の部屋ってこんな天井だった?)
そういえば、ソファに寝っ転がって小説を読んでいたはずなのに、どうして“私”はベッドに寝ているのだろう?
不思議に思ってベッドから身体を起こしてみようとした。
だけど……
ズキ……ン
「……いっ! 痛いっっ!」
何故かは分からないけれど、身体が痛い。
あとすごく頭がズキズキする。
何で? と思って頭を触ってみたらなんと包帯が巻かれている感触があった。
ズキ……ズキズキ……
「くっ……! 無理!」
あまりの痛みに起きあがっていられずそのままベッドに戻った。
「えぇぇえ? 何これ……どういうこと……? どうして私、頭に怪我をしているの? 誰が手当てしてくれたの? そして……」
───ここはどこ!
「まるでお金持ちのお嬢様の家みたい……」
こんなキラキラで豪華な装飾の部屋なんて“私”は知らない。こんなの“私”の部屋じゃない。
夢? にしてはリアル過ぎる。
そう思った時だった。
コンコンと部屋の扉がノックされて人が入って来た。
動くと痛いので視線だけをそちらに向ける。
(えーーーメイドさん!?)
某カフェとかにいそうなメイドの格好をした女性が部屋に入って来る。
そして、ベッドで目を覚ましている私の姿を見てハッとした。
「───奥様! 目が覚めたのですね!?」
(オクサマ?)
独身で結婚したこともないはずの“私”に言われるはずのない言葉が飛び込んで来た。
「本当に良かったです……昨夜のことは覚えていらっしゃいますか?」
「さ、くや?」
「───ああ! 頭を打っていますからね。無理もありません。お医者様も記憶の混乱が起こる可能性があると仰っておりました……」
(えっと……これ記憶の混乱ってレベル……なのかな?)
絶対に違うと思うのだけど?
「実は、奥様が頭を打たれてから一晩たっています」
よく分からないけど、このメイドが言うところにはどうやら頭を打ったらしい。
「お医者様呼んできますね、それとご主人様にも奥様が目が覚めたことを伝えないといけません。このまま待っていてください」
「……」
お医者様……は分かる。
ご主人様? 行ったことないけれど、ここはやっぱり某カフェ……?
え? それならどうして私は奥様と呼ばれているの?
全く何が何だか分からず、考えても答えは出なかったので、私は大人しくベッドに横になったまま待つことにした。
そうしてしばらくしてからメイドが医者らしきおじいちゃんを連れて戻って来た。
「奥様! お医者様を連れて参りました!」
「あ、ありがとう?」
よく分からないけれど、とりあえず医者を連れて来てくれたのだから、とお礼を言ってみる。
「ふむ……顔色は悪くなさそうな」
医者は“私”の顔を見てそう言った。
「それでは、奥様。昨夜のことを覚えておいでですかな?」
「……」
全く心当たりのない私は首を横に振る。
「そうですか。話によると、奥様は新婚で、昨日行われた結婚式のあと、夜に階段から足を滑らせて頭を打ったとのことじゃったが……」
「!?」
思わず悲鳴を上げそうになった口を慌てて抑えた。
───新婚!? 昨日が結婚式!?
待って待って! これ、本当に“私”の話なの!?
「ううむ。どうもピンと来ていない様子だのう」
「……」
「では、一つ一つ確認していくとしよう」
「……」
(はい! おじいちゃん先生! 私もそれがいいと思います! むしろ、お願いしたいです!)
心の中で元気いっぱいに挙手をした。
「それでは、よろしいかな────コレット・ディバイン伯爵夫人」
(─────うん?)
話を聞く気満々だった“私”の動きが止まる。
ちょっと今、おじいちゃん先生、“私”に向かってなんて言った?
コレット……ディバイン伯爵夫人。
そう言ったわよね?
え? 誰のこと?
そう言いたいけれど、“私”はこの名前を知っている。
今感じている疑問は、どうして“私”がそう呼ばれたのか、ということだ。
「コレット・ディバイン伯爵夫人、あなたは昨日、ディバイン伯爵と結婚をし───」
(だから、コレットは…………あ! あぁぁ!?)
おじいちゃん先生のその言葉を聞いた瞬間、“私”の頭の中に膨大な記憶が流れ込んで来た。
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