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32. 無口な旦那様とその花嫁
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「……うーん……眩し、い」
朝の眩しい光で目が覚める。
(何だかいつもより日が高いような……今、何時なの?)
ルンナったら起こしてくれなかったのかしら?
だけど、不思議と身体が温かいわ。そうね、まるで何かに包まれているような……
上手く動けないのは何でかしら───……
「!!!!」
そこまで考えてパチッと思いっ切り目が覚めた。
(そうだったわ、私! 昨夜、あれから旦那様と!!)
私は慌てて後ろを振り向く。
そこには、すやすやと気持ち良さそうに眠る美貌の旦那様が!!
そしてきっちりと私の身体を抱え込んでいる。
(う、美しい……眠っていてもその美しさはどういう事なの……本当に罪な人だわ)
昨夜の旦那様では無いけれど、今度は私の方が鼻血が出てしまいそう。
それくらい寝ている旦那様の姿に私は興奮した。
「旦那様……かっこいい」
こんなに素敵な人が私の旦那様……本当に今でも夢を見ているみたい。
「……ミル…………フィ」
「!」
旦那様が寝言で私の名前を呼んだ。
そんな声ですらうっとりしてしまう。
素敵な声、幸せだわ~なんて思いながら旦那様の美しい寝顔をうっとり眺めていたら……
パッと旦那様の目が開いた。
「……」
「……」
無言で見つめ合う私達。
「だ、旦那様?」
「……」
「お、おはようございます?」
「……」
寝起きの旦那様、寝ぼけているのかまだ焦点があっていない気がする。
(旦那様ったら寝起き悪い人なのかも!)
こんな事を知る事が出来るのも妻の特権! 最高! 幸せだわ。
「……」
「…………ミルフィ」
「!!」
ズッキューンと私の胸が撃たれた。
旦那様がフワッとした笑顔で私の名前を呼んだわ!
「ミルフィがいる……俺の夢の中にミルフィがいる……朝、目が覚めたら愛しい愛しいミルフィがいるとかこれは何のご褒美なんだろう……? 幸せだ」
「だ、旦那様?」
「ミルフィ……大好きだ、俺の可愛い可愛い可愛い可愛いお嫁さん……」
「!」
(何これ、寝言!?)
多分、饒舌に喋っているので寝言なのだろうとは思う。
「……旦那様ってもしかしていつも私の事ばかり考えてる? なーんてね」
ついつい図々しい考えが浮かんでしまった。さすがにそれは無いはず。
「旦那様、私も大好きですよー……」
「……」
旦那様の耳元で囁いてみたら、パッチリ目が開いた旦那様と目が合った。
「……ミ、ミルフィ」
「はい。ミルフィです」
「俺の、か……奥さん」
「はい。あなたの奥さんです」
「……」
「……?」
旦那様の視線が私の身体に向かう…………はっ!!
(私……!! さ、昨夜の格好のまま……)
私は慌てて前を隠そうとするけれど、旦那様の手に止められてしまう。
「…………」
「だ、だんな……さま?」
「ミルフィの、温もり。夢……じゃない」
旦那様は自分に言い聞かすように口にしていく。
「この柔らかさ……本物…………本物? …………っ!!」
そして、ようやく今、目の前にいる私が本物だと分かった旦那様はボンッと茹でダコになった。
ようやく覚醒した旦那様と向き合う。
「あ、改めまして、おはようございます」
「……」
ナデナデ。
(おはよう)
「さ、昨夜はその……最初に鼻血……なんて騒ぎもありましたが……」
「……」
ナデナデ……
(落ち込んだ!)
「こ、今夜こそ私を……旦那様の妻にして下さい!!」
「……!!」
ナデナデナデナデ!!
(分かった! と言っているわ!)
昨夜は思うようにいかなかったけれど、初めて一緒に眠って二人で迎えた朝は何だかんだでいつもの私達だった。
*****
「夜会……ですか?」
「そう! 結婚してから実は二人でまだ、公の場に行っていないでしょう? そろそろいい頃合だと思うわ」
朝食の席でお義母様が今度開催される夜会の招待状を私に見せた。
「ミルフィさんとアドルフォの二人で私達の代理でロイター侯爵家の代表として参加して来てちょうだい?」
「!」
「……」
(旦那様と夜会……)
私は結婚してから社交界には出ていなかった。だってお飾りの妻だと思っていたから!
でも、違う。私はアドルフォ様のロイター侯爵家の本当の花嫁! ならば、そろそろ私もしっかりしないといけない。
(旦那様……アドルフォ様の妻として認めてもらわなくちゃ!)
私が気合を入れている横でお義母様は小さな声で含み笑いと共に呟いていた。
「皆、アドルフォのデレデレ顔を見せられて驚くでしょうね~」
そうして、旦那様と初めての夜会。
(き、緊張する……!)
それに忘れかけていたけれど、ロンディネ子爵家の事もあったわ。
ロンディネ子爵夫人とその娘が揃ってそれぞれ修道院に入ったという事実はやはりちょっとした騒ぎになっていたらしい。
そして、カフェでの騒ぎの話も社交界まで届いているようだった。
あの時、お父様とお母様に連絡をしたのもカフェの店員だと聞いている。
貴族世界と繋がっている店員がいるのかもしれない。
(カイン様も廃嫡して今は謹慎中だと聞いているし……)
かつてのロンディネ子爵家長女との婚約を知っている人は、そこも結び付けて考えてくる人もいるかもしれないわね。
(……シルヴィは社交界にとんでもない噂だけを残して行ったわ……全く……)
でも、私はロイター侯爵家の嫁! アドルフォ様の妻として堂々と振る舞うだけよ!
と、気合を入れていたら旦那様が心配そうな顔で私を見ている。
「! 大丈夫ですよ、旦那様!」
「……」
ナデナデ……
旦那様は髪型が崩れない程度にソフトなナデナデをしてくれた。
「ふふ、行きましょう!! 愛しの旦那様!」
「……」
私は旦那様の手を取って夜会会場へと足を踏み入れた。
────その日、夜会の会場にいた人達は驚愕する。
“噂のロイター侯爵家の若夫婦が本日の夜会に出席するらしい”
そう耳にしていた人達は、あの無口な侯爵令息は妻とどんな顔して会場に現れるのかと興味津々だった。
どこからかラブラブらしいなんて噂も流れて来たが、あの無口で冷酷無慈悲な男だ。それは無いだろう。
“夜会会場でも夫に冷たくされ過ぎて、そろそろ妻は泣いて逃げ出すのでは?”
それが夜会参加者達の総意だった。
しかし……彼らの見た光景は……
ロイター侯爵家令息アドルフォの妻、ミルフィは泣いて逃げ出すどころか、むしろ、夫であるアドルフォの方ががっちり妻の腰を掴んで離さないという束縛っぷり。(逃さない!)
また、妻のミルフィが夫に話しかければ見た事の無い甘い笑顔を浮かべて何故か妻の頭を撫でる。(ラブラブ!)
そして、夫のアドルフォは無言のままで一言も発していないのに何故か成立していく夫婦の会話……(ナデナデ会話!)
“あれは何だ! 我らは何を見せられているんだ! そして、あの頭を撫でる行為は何だ!?”
それから暫くの間、社交界ではロイター侯爵家の若夫婦の話題で持ち切りだったと言う。
しかし、そんな当の二人……無口な旦那様とその花嫁は……
「旦那様!」
「……ミ、ミルフィ……!」
今日も仲良く頭ポンポンから始まり、ナデナデしたり、ギューッとしたり、スリスリしたり、チューをしたりして過ごしていた。
───契約の花嫁だと思って嫁いで来た? 何それ嘘でしょう? 何の冗談ですか?
と、誰に言っても信じて貰えないくらいの仲睦まじさで!
~完~
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
これで完結です。
ここまでお読み下さりありがとうございました!
ヒーローは無口な旦那様にしようと思って始めたこの話。
溺愛しているのを分かりやすくする為にナデナデで表現する人にしてみたら、
まさか、こんなに反響があるとは……
フニフニも凄かったですが、皆さんこういうの好きなんですね。
(苦手な人は申し訳ございません)
しかし、旦那様が喋った時のたくさんのクララコメント(笑)とランキングが再び上がったのには本当に驚きました。
(私もクララみたいだなと思いながら書いていたので笑ってしまいました!)
ランキングも……こんなに長い間HOTのTOP10内にランクインさせて貰えるなんて!
皆様のおかげです。ありがとうございました。
毎回、皆様から貰えた楽しいコメントは私の励みであり、毎日の楽しみでもありました。ありがとうございます!
(返信は力尽きてます……すみません)
……最後まで二人を応援して下さり本当にありがとうございました!
次の話ですが、今回は2作品公開しています!
一つは新作、
『どう考えても黒歴史なんですけど!? ~自分で書いた小説(未完)のヒロインに転生した私~』
タイトルまんまなお話です。
もう一つは、私の他の話を読んでくれていた人に向けた不定期更新です。
そんなに~シリーズの番外編です。
番外編集として別に立ち上げました。
ツルツルチリチリ(ひっそりと~)とのコラボもこちらにあげます。
もし、宜しければですが、これからも私の作品にお付き合い頂けたら嬉しいです。
最後までお読み下さり本当にありがとうございました!!
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