【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません

Rohdea

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21. 妹の再襲来

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  シルヴィが共に居たのは、カイン様。

「シルヴィ……それに、カイン様まで」
「久しぶりだね、ミルフィ。先月はせっかくの訪問の依頼を断られてとっても悲しかったよ。……」
「……!」

  カイン様のその言葉には嫌味がたっぶり込められているのが分かった。

「まさか、君がそんな冷たい事をするなんて、ね。本当に驚いたよ」
「……」

  どの口がそんな事を言うのか。
  私はキッとカイン様を睨みつける。

「へぇ、そんな顔もするようになったんだ?  誰の影響?  君の夫になったというロイター侯爵子息のおかげなのかな?」
「ほらね、カイン様。私が言った通りでしょう?  お姉様ったらすっかり生意気になってしまって……らしくないと思うの」
「……みたいだね」

  どうしてこの二人が揃ってこんな所にいるのか意味が分からないけれど、私はこの二人とゆったり和んで会話をする気なんて無い。

「……ご用件がそれだけなら、私はこれで失礼します。ルンナ、行きましょう」
  
  私がルンナと共に馬車へと乗り込もうとすると、

「待て!」
「やだ、待って?  もう、お姉様ったら!  話がそれだけなわけないでしょう?」

  当然のように二人は私を引き止める。

「そう言われても、私からは二人に話す事なんて何も無いわ」
「だから!  お姉様には無くても私にはあるの!」
「そういう事だよ、ミルフィ」

  そう言いながら二人は私に向かって手を伸ばして来る。
  私はその手を払い除けながら二人に向かって言い放つ。

「気安く触らないで!  私は今、ロイター侯爵家の人間で次期侯爵夫人よ!」

  (本当は身分を笠に着るのは好きではないけれど、ここは毅然とした態度を取らない駄目だ)

  ロンディネ子爵家のシルヴィとルクデウス子爵家のカイン様。
  シルヴィは身内とはいえ、子爵令嬢。子爵令息のカイン様に至っては身内ですら無い。立場は私の方が上!

「そんなことを言うなんて、お姉様……酷いわ」
「シルヴィ嬢……大丈夫か?」

  シルヴィのパッチリした目に涙が浮かび、やがて泣き出したシルヴィをカイン様が慰める。
  昔はこんな光景に胸を痛めた時期もあったけれど、今は本当にどうでもいいと心から思う。
  あと、シルヴィのこれは絶対に泣き真似だ。

「泣けば何でもどうにかなると思わないで」
「ひ、酷いわ……」
「ミルフィ!  なんて事を言うんだ!  シルヴィ嬢は君のたった一人の妹だろう?  本当に君はどうしてしまったんだ。前はもっと……」

  カイン様は私の変わり様に心底驚いている様子。

「前はもっと大人しくてつまらない女だったのに?  ……ですか?  それこそカイン様には、関係ない事です。あなたは黙っていて下さい」
「なっ……」

  (あぁ、本当に婚約解消あの時、一発だけでもこの人を殴っておけば良かったわ)

  私はギュッと手に持っていたお菓子を抱き込む。
  せっかく旦那様の為を思いながら選んで買って、喜ぶ顔が見たいと思っているのに。

  (きっと今までに無いナデナデをしてくれるって楽しみにしているのに!)
  
「お姉様……私、お姉様に話があって」
「……」
「でも、お父様ったら酷いの。“ロイター侯爵家には二度と行くな”なんて勝手な事を言うんだもの」

  ……お父様は一応、言う事は言ったらしい。

  (だからと言ってそのまま野放しにされても困るわ。ちゃんと監視していてくれなくちゃ!)

「だから、こうしてお姉様の行動を確認し続けてようやく今、やーーっとお姉様と会えたのよ?  話くらい聞いてくれても良いでしょう?」

  シルヴィは先程まで流していた涙などさっぱり消えていて、ニッコリ笑顔でそう言った。
 
「……カイン様が一緒にいるのは何でなの?」
「そんなの決まってるわ!  私のお姉様への大事なお話に欠かせない人だからよ!」
「……」

  (あぁ、そういう事……シルヴィの魂胆が見えて来た)

  だから、カイン様は私に接触をはかってきたのね?
  でも、私が断ったから思う通りに行かなくて痺れを切らして……今のこの状況という事……

「……分かったわ。話を聞くわ」
「奥様!?」
「お姉様!  ありがとう!」

  私の隣でハラハラとこのやり取りを見守っていたルンナが驚きの声を出す。
  一方のシルヴィは嬉しそうな声を上げながらほくそ笑んでいる。

「ただし、話を聞くのはこの場ではなくて……そうね、あそこのお店でしましょう?」

  私はキョロキョロと辺りを見回して近くのカフェを指定する。

「え?」
「嫌ならいいのよ?  私は帰るだけだから。さぁ、ルンナ……」
「っっ!  わ、分かったわ……お姉様の言う通り……あのお店で」

  再び帰ろうとする私をシルヴィが必死に止めた。

「おい、シルヴィ嬢!?  これだとー……」
「しっ!  いいから。とにかく今は従いましょう?」

  シルヴィとカイン様はこそこそ何かを話し合っている。

  (やっぱりよからぬ事を企んでいそうね……)

「時間が惜しいわ。早くお店に行きましょう?」

  私はそう言ってシルヴィとカイン様を促す。

「あぁ、その前に……ルンナ。これを」
「お、奥様?」

  私はそう言って手に持っていたお菓子をルンナに渡す。

「これは無くしたら大変だもの。だからルンナ、わ」
「あ…………は、はい!」
「お願いね、ルンナ?」
  
  ルンナがしっかり頷くのを確認して私はお店に向かった。





「それで話って何?  シルヴィ」

  お店に入り席に着くなり私はシルヴィに問いかける。

  (上手く誘導出来た……かしら?  あとは話を聞くふりをして時間を稼ぐしか無い)

  幸い、シルヴィの性格なら放っておいてもたくさん喋るはず。
  無駄に時間を稼ごうと話を引き伸ばさなくてもきっと大丈夫……
  とはいえ、見た目は早く帰りたい姉を演じなくては!
 
「お姉様ったらせっかちね?」
のだから当然でしょう?」
「それでもよ!  もう!  お姉様ったら。そんなんじゃ、お義兄様に嫌われてしまうわよ?」
「……」
「って、そうだったぁ!  ごめんなさーい。お義兄様に嫌われたとしてもそんな事は別に関係無かったわよね~」

  (やっぱりシルヴィは何も変わっていない)

  お父様にロイター侯爵家に行く事を止められても「何で駄目なの?」と思うだけで理由なんて考えてもいないのよ。

「それでね、お姉様。私、あれから考えたの!」
「……何を?」

  ──絶対にろくな事じゃない。
  そう思いながら聞き返すとシルヴィはニッコリと笑顔を浮かべて言った。

「もちろん!  お姉様がお義兄様を私に譲ってくれない理由よ!」
「……」
「ごめんなさいね、お姉様。私、考え無しだったわ」
「考え無し?」
「えぇ、そうよ!  だって、このままお義兄様に離縁されてしまうとお姉様ったら可哀想な可哀想な独り者になっちゃうわ!」

  可哀想を念押しして来るシルヴィ。

「だからお姉様は寂しかったんだと思って!  ほら、お姉様なんかじゃ次のお相手見つけるの大変でしょ?」

  この子はなぜ笑顔でそんな事を言うのだろう。

「だからね?  私、一生懸命考えたのよ!  離縁する時にお姉様にも新しい相手がいればいいんだわって!  そうすれば寂しくなんかないわ!」
「……それが。その相手がカイン様なの?」
「そうよ!  だってもともと婚約していたんだから丁度いいと思うの。それに……」
「それに?」
「だって、お姉様はカイン様の事をお好きだったでしょう?」
「え?」

  シルヴィのその言葉に私が驚きの声を上げると、シルヴィは無邪気な振りをした顔でニコニコ笑い、カイン様はその隣でニヤニヤした笑いを浮かべていた。

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