【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません

Rohdea

文字の大きさ
上 下
21 / 32

21. 妹の再襲来

しおりを挟む

  シルヴィが共に居たのは、カイン様。

「シルヴィ……それに、カイン様まで」
「久しぶりだね、ミルフィ。先月はせっかくの訪問の依頼を断られてとっても悲しかったよ。……」
「……!」

  カイン様のその言葉には嫌味がたっぶり込められているのが分かった。

「まさか、君がそんな冷たい事をするなんて、ね。本当に驚いたよ」
「……」

  どの口がそんな事を言うのか。
  私はキッとカイン様を睨みつける。

「へぇ、そんな顔もするようになったんだ?  誰の影響?  君の夫になったというロイター侯爵子息のおかげなのかな?」
「ほらね、カイン様。私が言った通りでしょう?  お姉様ったらすっかり生意気になってしまって……らしくないと思うの」
「……みたいだね」

  どうしてこの二人が揃ってこんな所にいるのか意味が分からないけれど、私はこの二人とゆったり和んで会話をする気なんて無い。

「……ご用件がそれだけなら、私はこれで失礼します。ルンナ、行きましょう」
  
  私がルンナと共に馬車へと乗り込もうとすると、

「待て!」
「やだ、待って?  もう、お姉様ったら!  話がそれだけなわけないでしょう?」

  当然のように二人は私を引き止める。

「そう言われても、私からは二人に話す事なんて何も無いわ」
「だから!  お姉様には無くても私にはあるの!」
「そういう事だよ、ミルフィ」

  そう言いながら二人は私に向かって手を伸ばして来る。
  私はその手を払い除けながら二人に向かって言い放つ。

「気安く触らないで!  私は今、ロイター侯爵家の人間で次期侯爵夫人よ!」

  (本当は身分を笠に着るのは好きではないけれど、ここは毅然とした態度を取らない駄目だ)

  ロンディネ子爵家のシルヴィとルクデウス子爵家のカイン様。
  シルヴィは身内とはいえ、子爵令嬢。子爵令息のカイン様に至っては身内ですら無い。立場は私の方が上!

「そんなことを言うなんて、お姉様……酷いわ」
「シルヴィ嬢……大丈夫か?」

  シルヴィのパッチリした目に涙が浮かび、やがて泣き出したシルヴィをカイン様が慰める。
  昔はこんな光景に胸を痛めた時期もあったけれど、今は本当にどうでもいいと心から思う。
  あと、シルヴィのこれは絶対に泣き真似だ。

「泣けば何でもどうにかなると思わないで」
「ひ、酷いわ……」
「ミルフィ!  なんて事を言うんだ!  シルヴィ嬢は君のたった一人の妹だろう?  本当に君はどうしてしまったんだ。前はもっと……」

  カイン様は私の変わり様に心底驚いている様子。

「前はもっと大人しくてつまらない女だったのに?  ……ですか?  それこそカイン様には、関係ない事です。あなたは黙っていて下さい」
「なっ……」

  (あぁ、本当に婚約解消あの時、一発だけでもこの人を殴っておけば良かったわ)

  私はギュッと手に持っていたお菓子を抱き込む。
  せっかく旦那様の為を思いながら選んで買って、喜ぶ顔が見たいと思っているのに。

  (きっと今までに無いナデナデをしてくれるって楽しみにしているのに!)
  
「お姉様……私、お姉様に話があって」
「……」
「でも、お父様ったら酷いの。“ロイター侯爵家には二度と行くな”なんて勝手な事を言うんだもの」

  ……お父様は一応、言う事は言ったらしい。

  (だからと言ってそのまま野放しにされても困るわ。ちゃんと監視していてくれなくちゃ!)

「だから、こうしてお姉様の行動を確認し続けてようやく今、やーーっとお姉様と会えたのよ?  話くらい聞いてくれても良いでしょう?」

  シルヴィは先程まで流していた涙などさっぱり消えていて、ニッコリ笑顔でそう言った。
 
「……カイン様が一緒にいるのは何でなの?」
「そんなの決まってるわ!  私のお姉様への大事なお話に欠かせない人だからよ!」
「……」

  (あぁ、そういう事……シルヴィの魂胆が見えて来た)

  だから、カイン様は私に接触をはかってきたのね?
  でも、私が断ったから思う通りに行かなくて痺れを切らして……今のこの状況という事……

「……分かったわ。話を聞くわ」
「奥様!?」
「お姉様!  ありがとう!」

  私の隣でハラハラとこのやり取りを見守っていたルンナが驚きの声を出す。
  一方のシルヴィは嬉しそうな声を上げながらほくそ笑んでいる。

「ただし、話を聞くのはこの場ではなくて……そうね、あそこのお店でしましょう?」

  私はキョロキョロと辺りを見回して近くのカフェを指定する。

「え?」
「嫌ならいいのよ?  私は帰るだけだから。さぁ、ルンナ……」
「っっ!  わ、分かったわ……お姉様の言う通り……あのお店で」

  再び帰ろうとする私をシルヴィが必死に止めた。

「おい、シルヴィ嬢!?  これだとー……」
「しっ!  いいから。とにかく今は従いましょう?」

  シルヴィとカイン様はこそこそ何かを話し合っている。

  (やっぱりよからぬ事を企んでいそうね……)

「時間が惜しいわ。早くお店に行きましょう?」

  私はそう言ってシルヴィとカイン様を促す。

「あぁ、その前に……ルンナ。これを」
「お、奥様?」

  私はそう言って手に持っていたお菓子をルンナに渡す。

「これは無くしたら大変だもの。だからルンナ、わ」
「あ…………は、はい!」
「お願いね、ルンナ?」
  
  ルンナがしっかり頷くのを確認して私はお店に向かった。





「それで話って何?  シルヴィ」

  お店に入り席に着くなり私はシルヴィに問いかける。

  (上手く誘導出来た……かしら?  あとは話を聞くふりをして時間を稼ぐしか無い)

  幸い、シルヴィの性格なら放っておいてもたくさん喋るはず。
  無駄に時間を稼ごうと話を引き伸ばさなくてもきっと大丈夫……
  とはいえ、見た目は早く帰りたい姉を演じなくては!
 
「お姉様ったらせっかちね?」
のだから当然でしょう?」
「それでもよ!  もう!  お姉様ったら。そんなんじゃ、お義兄様に嫌われてしまうわよ?」
「……」
「って、そうだったぁ!  ごめんなさーい。お義兄様に嫌われたとしてもそんな事は別に関係無かったわよね~」

  (やっぱりシルヴィは何も変わっていない)

  お父様にロイター侯爵家に行く事を止められても「何で駄目なの?」と思うだけで理由なんて考えてもいないのよ。

「それでね、お姉様。私、あれから考えたの!」
「……何を?」

  ──絶対にろくな事じゃない。
  そう思いながら聞き返すとシルヴィはニッコリと笑顔を浮かべて言った。

「もちろん!  お姉様がお義兄様を私に譲ってくれない理由よ!」
「……」
「ごめんなさいね、お姉様。私、考え無しだったわ」
「考え無し?」
「えぇ、そうよ!  だって、このままお義兄様に離縁されてしまうとお姉様ったら可哀想な可哀想な独り者になっちゃうわ!」

  可哀想を念押しして来るシルヴィ。

「だからお姉様は寂しかったんだと思って!  ほら、お姉様なんかじゃ次のお相手見つけるの大変でしょ?」

  この子はなぜ笑顔でそんな事を言うのだろう。

「だからね?  私、一生懸命考えたのよ!  離縁する時にお姉様にも新しい相手がいればいいんだわって!  そうすれば寂しくなんかないわ!」
「……それが。その相手がカイン様なの?」
「そうよ!  だってもともと婚約していたんだから丁度いいと思うの。それに……」
「それに?」
「だって、お姉様はカイン様の事をお好きだったでしょう?」
「え?」

  シルヴィのその言葉に私が驚きの声を上げると、シルヴィは無邪気な振りをした顔でニコニコ笑い、カイン様はその隣でニヤニヤした笑いを浮かべていた。

しおりを挟む
感想 382

あなたにおすすめの小説

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。

ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」 書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。 今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、 5年経っても帰ってくることはなかった。 そして、10年後… 「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

【完結】美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~

Rohdea
恋愛
───私は美しい姉と間違って求婚されて花嫁となりました。 美しく華やかな姉の影となり、誰からも愛されずに生きて来た伯爵令嬢のルチア。 そんなルチアの元に、社交界でも話題の次期公爵、ユリウスから求婚の手紙が届く。 それは、これまで用意された縁談が全て流れてしまっていた“ルチア”に届いた初めての求婚の手紙だった! 更に相手は超大物! この機会を逃してなるものかと父親は結婚を即快諾し、あれよあれよとルチアは彼の元に嫁ぐ事に。 しかし…… 「……君は誰だ?」 嫁ぎ先で初めて顔を合わせたユリウスに開口一番にそう言われてしまったルチア。 旦那様となったユリウスが結婚相手に望んでいたのは、 実はルチアではなく美しくも華やかな姉……リデルだった───

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

【完結】姉は全てを持っていくから、私は生贄を選びます

かずきりり
恋愛
もう、うんざりだ。 そこに私の意思なんてなくて。 発狂して叫ぶ姉に見向きもしないで、私は家を出る。 貴女に悪意がないのは十分理解しているが、受け取る私は不愉快で仕方なかった。 善意で施していると思っているから、いくら止めて欲しいと言っても聞き入れてもらえない。 聞き入れてもらえないなら、私の存在なんて無いも同然のようにしか思えなかった。 ————貴方たちに私の声は聞こえていますか? ------------------------------  ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

処理中です...