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10. 妹の襲来

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「初めまして!  お姉様がお世話になっています!  ロンディネ子爵家の次女シルヴィと申します!!」
「ようこそ」
「初めまして」

  応接室へと案内するとシルヴィはまず、お義父様とお義母様に挨拶をした。

「まぁ!  ミルフィさんも可愛らしいけれど妹さんも可愛らしい方なのね」
「ありがとうございます!  あ、でも、お姉様と私はよく似ていない姉妹って言われるんですよ~?  外見と中身の両方を指しているみたいなのですけど。ふふふ」 

  シルヴィは無邪気な笑顔でわざわざ言わなくてもいい事まで口にする。

「あら、そうなの?  可愛い姉妹でご両親も喜んでいるでしょうね」
「!  …………そ、そうですね」

  一瞬、口ごもったシルヴィは、おそらくいつものように“確かに似ていない”“シルヴィの方が可愛い”みたいな言葉を期待したのかもしれない。
  仮にお義母様がそう思ったとしても、私は既にロイター侯爵家の嫁。余程の事が無い限り、嫁よりその妹を立てる真似などするはずが無いと何故シルヴィには分からないのか。

  (そんなにも私がこの家に受け入れられていない筈だと思いたいのかしら?)

「妹ですからシルヴィさんはご存知だと思いますけど、ミルフィさんったらすごく可愛いらしいのよ。特に息子と並んでる姿なんて……ふふ、とても可愛くてお似合いなのよ」
「お、お義母様!」

  そんな風に思われていたなんて!
  恥ずかしい……でも、嬉しい。

「へぇー……そうなんですかぁ…………お姉様が可愛い……そして、お似合い……へぇ……」

  シルヴィがチラッと私の方を見る。その顔は何か言いたげな様子。

  (私が可愛いとか、嘘でしょ~とか思っていそうな顔)

「こんな無口で誤解されがちな息子に、こんなにも可愛いお嫁さんが来てくれて私達も喜んでいるのよ!  それで……あぁ、こちらがお姉さんの夫となった息子のアドルフォよ」

  と、お義母様がそのままの流れで旦那様(仮)をシルヴィに紹介する。

「……」

  そして旦那様(仮)は静かにペコッと頭を下げるだけ。
  
  (旦那様(仮)、喋らない……)

「………………え!  こ、こちらの…………方が?  お、お義兄様?」

  旦那様(仮)を紹介されたシルヴィが動揺している。
  それは、旦那様(仮)が喋らなかったから……では無いと思う。
  だって、シルヴィは旦那様(仮)に見惚れていた。

  (嘘でしょう!?  カッコいい!  という心の声が聞こえる……)

「あ!」

  ハッと気付いたシルヴィは極上の笑顔を浮かべながら旦那様(仮)へと挨拶をする。
  頬はほんのり赤く染めて目も上目遣いに。
  どの角度で見てもらえたら自分が一番可愛く見えるのかを知っているシルヴィらしい挨拶。

「は、初めまして!  あの……私、お姉様の妹のシルヴィと申します!」
「……」

  旦那様(仮)は頷くだけで無言だった。
  シルヴィは明らかにガッカリした顔を見せる。

「……う、噂には聞いてましたが、本当に無口なんですね」
「そうなのよ。ごめんなさいね、シルヴィさん」
「い、いえ。でも、私……心配です。そこまで無口なお義兄様と全然明るくも社交的でも無いお姉様が上手くやれているのか……」

  シルヴィはふぅ、と軽くため息を吐いて頬に手を付き、目を伏せて寂しそうな表情を浮かべながらそう口にする。
  傍から見れば姉の心配をする“優しい妹”にしか見えない。

「だって、お姉様は社交界に殆ど出ない、引きこ……大人しい方ですから」

  本音が見え隠れした。やはり、実際はこうして姉である私を貶めておきたいだけ。

  (そう言えば……カイン様元婚約者は、私の事を貶めるシルヴィの話を全て鵜呑みにしていたっけ)

  そうして私がカイン様が帰られた後、シルヴィに、
「何でカイン様の前であんな事を言ったの!?」
  と、叱ると、シルヴィは目に涙を浮かべて、
「悪気があって言ったわけじゃないわ。本当の事を言っただけなのに何で私が怒られるの?  酷いわーー」
  と、結局大泣きされて、その声を聞きつけて来たお母様が飛んで来て最後は私の方が悪者に……

  (嫌な思い出……)

「まぁ、シルヴィさんったらお姉さん思いで優しいのね。でも心配は要らないわよ?  アドルフォとミルフィさんはとても仲良くやっているもの、ねぇ、あなた?」
「あぁ、見ているこっちが恥ずかしくなる。未だに新婚気分が抜けていないしな」
「…………え?」

  お義父様が言っているのは、昨日のナデナデの事かもしれない。
  あれは私まで旦那様(仮)にナデナデしてしまったんだもの。
  ……思い出すだけで顔から火が出そうなほど恥ずかしい。

「仲良く……?  新婚気分……?」
「そうよ、ミルフィさんが来てから屋敷の中は皆がほっこりよ」
「ほ?  ……そう、ですか」

  明らかにシルヴィの声のトーンが落ちた。

  (私への評価が思っていたのと違い過ぎて戸惑っているのかも)

「で、でも、お義兄様!  本当にお姉様で満足ー……」

  シルヴィが旦那様(仮)に向かってそう言いかけた時、旦那様(仮)がグイッと私の腰に手を回しそっと抱き寄せて来た。

「え……旦那様?」
「……」

  ナデナデ……

  そして、旦那様(仮)は、私を抱き寄せたまま、もう片方の手で優しく私の頭をナデナデする。

  ナデナデナデ……

「だ、旦那様!  ……っっ!!」

  しかも旦那様(仮)はこっちが、見蕩れてしまいそうな笑顔で私を見つめてナデナデしていた。

  (眩しい!  ちょ、直視出来ない!  そして頬が熱い!)

  ナデナデナデナデ……

  (あ……もしかして、これは慰めてくれている……?)

  どこか労わるような手付きのナデナデ。
  旦那様(仮)の優しい気持ちが伝わって来る。

  (きっと私がシルヴィに関する複雑な思いを口にしたからだわ……)

「えぇ!?  ちょっと二人共何をやっているの……?」

  シルヴィはそんな旦那様(仮)にナデナデされている私を穴があくほど見つめている。

「これがロイター侯爵家の新婚夫婦の日常よ」
「だな」

  お義父様とお義母様が慣れた口調でシルヴィにそう説明をする。

「日常……?  これがお姉様の?  …………有り得ない」

  私はそう呟いたシルヴィの声がどうしても気になって、チラッとシルヴィの方に視線を向ける。
  
  …………シルヴィの目が怪しく光ったような気がした。



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