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やっぱり、これが私に与えられたお役目だったのね
しおりを挟むえっと……
ちょっと私の思考がメリダ様の言葉遣いに関する方へ向いてしまったけど、今、重要なのはそこじゃないわよね。
あの日の階段落ちの件だったわ。
しかし、さすがにこの件に関しては皆も口を挟む事が難しそうだ。
あの時の目撃者は、落下する際のメリダ様の叫び声を聞いて駆け付けて来た人ばかりで、私達が落下する瞬間を見ていた人はいなかったらしい。
そのせいで、しーんと静まり返ってしまった会場内の空気を断ち切るかのように殿下が口を開いた。
「…………チッ、キャロラインの方が酷い怪我をしたってのに何言ってんだこの女は………………そうか。なら、もうキャロラインに単刀直入に聞こうか? キャロライン、本当に君がヒーロバル男爵令嬢を階段から突き落としたの?」
殿下がとうとう直球で私に問いかけて来た。
……ただ、その前が小声でよく聞こえなかったけれど、いったい何を呟いてたのかしら?
とにかく……よーし! ここは悪役令嬢らしく1度くらいは反論するところよね!
あ、ここはちょっとニヤリって笑って悪役令嬢っぽい笑みとか浮かべるべき??
そう思った私は、殿下のその言葉に息を大きく吸い込んで答える。
あ、顔はとりあえず笑う方向でいきましょう! だってニヤリ笑いって難しいんだもの……
「ーーいいえ。あの時はメリダ様が階段を昇っていた私に後ろから声をかけ、振り向きざまの私の腕を引っ張った為に、私達は共に落下したのです」
私のその発言に会場中が騒然となった。
それもそうでしょう。メリダ様とは真逆の発言なのだから。
「嘘よ! 嘘よ、嘘! 真っ赤な嘘よ!! キャロライン様、貴女が私を突き落としたのよ!」
「……」
「キャロライン様は、シュナイダー様と仲良くなった私の事が邪魔だったのでしょう? 殿下に愛されてる私に嫉妬したのよ! それで私の事を突き落としたのよっっっ!」
ザワッ
メリダ様のその発言によって、さらに会場内のあちこちで騒めきが広がる。
それもそのはず。殿下の婚約者でもある私の前で“自分は殿下に愛されてる”なんて口にしたのだもの。
あぁ、やっぱり愛されるヒロインは強いのね……
殿下も周囲の皆様もメリダ様の発言を信じたに違いないわ。
「やっぱり2人は……」
「噂どおり?」
「これはやっぱり婚約破棄……」
そんなヒソヒソ話もあちこちから聞こえてくる。
一応、セオリー通りに反論もしてみたけど、結局こうなるみたい。
さすが悪役令嬢。
やっぱり、これが私に与えられたお役目だったのね。
罪が本当か嘘かなどは二の次で、“嫉妬に狂って、殿下の想い人を傷つけて断罪されて婚約破棄される悪役令嬢”というのが私に課せられたお役目。
ならば、そろそろ私はその役目を全うする為に、身を引かなくちゃいけないわ!
そもそも殿下だって、すでにメリダ様と愛を育んでいたわけだし、もういいでしょ?
……ズキンッ
まだ、胸は痛むけど。
大丈夫……大丈夫……最後までやれるわ。
私はどうにかそう自分に言い聞かせる。
「……シュナイダー殿下」
私は、ふと気付けば先程から全く言葉を発していない殿下の元へと近付き、静かに腰を落として再び頭を下げる。
怖くて殿下の表情は見れない。
「今までありがとうございました。たった今周知された様に、私はこのような事をする女です。殿下の仰るように貴方には相応しくありませんので、婚約破棄は承ります。私は殿下とメリダ様の幸せを心からーー」
「……キャロライン。やっぱり君は昔からそれを望んでいたんだね」
──お祈り申し上げます
そう言おうとしたのに、何故か遮られた。
それ? やっぱり? 殿下は何を……?
私が恐る恐る顔を上げると、シュナイダー殿下は、どうしてなのか分からなかったけれど、とても辛そうな顔をしていた。
!? ……何故、殿下はそんな顔を……?
「……で、殿下?」
「キャロラインはずっとそうだった。君は僕の婚約者として7年間傍にいながらも心の中ではずっと僕から離れる事ばかり考えていたんだよね……?」
「……え」
そう口にする殿下の声はとても弱々しい。
「だから今、君はこうして身を引こうとしているんだろう? ……何一つやってもいない嘘の罪をそこの女に着せられてるのに。……ねぇ、キャロライン。君は、嘘の罪を被ってでも、僕と離れて婚約破棄したかった……?」
「……殿、下……?」
そう口にする殿下の表情も声もとても暗く、そして悲しそうだった。
よく見れば、涙を堪えているようだった。
殿下と私の気持ちがどこかすれ違いを起こしている事は分かるのに、私は初めて見るそんな殿下の表情に驚きを隠せず、それ以上、言葉を発する事が出来なかった。
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