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シュナイダー殿下視点

何でこの女が僕の名前を平気な顔して呼んでるんだ?

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  バカなのかな?

  ……王族として、紳士として、いや、人としてこんな言葉は口にしてはいけないと分かっている。
  だけど、そう思わずにはいられないんだ。だから、心の中で思う事くらいは許して欲しい。

  誰の事を指しているかって?

  あの女だ。
  入学式で倒れたピンク色の頭の女ーーメリダ・ヒーロバル男爵令嬢。
  目立つピンク色の髪と入学式で倒れた事、そして小動物系の可愛い容姿で注目の的となっている令嬢だ。
  ……可愛いか?  僕には疑問しかわかないけど、好きな人は好きなんだろう。

  そのピンクが入学してから、頻繁にキャロラインに付き纏っている。
  それも、学園では身分差関係無く過ごす事を求められているからと言って。

  キャロラインの周囲に、僕に取り入りたい人間が近付く事は予想出来た事だった。
  だけど、少なくとも僕が警戒していたのはこんなタイプのヤツじゃなかった!



「せっかくこの学園では身分差とか関係なく過ごせるじゃないですかぁ!  私のような下位貴族……しかも養子の令嬢では本来ならお目通りも叶わないお方なんですよぉ。ですから、お話する機会を少しだけでも頂きたくてぇ……駄目ですかぁ?」

  今日も今日とて、キャロラインに強引に迫っている。
  僕はその様子を見つけ、慌てて2人の元へと向かう。

  ……そもそもなんだが。
  言葉遣いが、どこかアホっぽくないか?
  あれ、元平民だったとか絶対関係ないよな?  僕にだって平民の知り合いはいるけど、皆あんな喋りじゃなかったぞ?

「……えっと」
「キャロライン様ぁ?」
「……」

  ようやく2人の元へと近付けた。
  そして、キャロライン!!  どうして躊躇っているんだ!?

「君の話は別の機会に聞くとするから、キャロラインとの時間を邪魔しないでくれないかな?」
「……ひぅっ!?」

  急に後ろから声をかけたせいかキャロラインが、超絶可愛い声を挙げた。
  くっ! こんな時じゃなきゃ、その声を頭の中に何度も反芻して愛でていたいのに!

  とりあえず今は邪魔なあのピンクを追い払おう。

「僕に近づく為に、キャロラインを利用するのは止めてくれないかな?」
「えぇっ!  違いますよぉ!  私はそんなつもりではなかったんですぅ。 ただ、シュナイダー様とお話をしたかっただけなんですよぉ!」

  本当にいちいち腹の立つ物言いだな。特にその伸びた語尾!!
  そして、何でこのピンクが僕の名前を平気な顔して呼んでるんだ?
  キャロラインは、なかなか呼んでくれないんだぞ!?

  そんな腹立たしさと共にどうにか追い払ったけど、問題はキャロラインだ。

  何故かは分からないがキャロラインはこのピンクの時だけ強く出れない。
  僕は知っている。
  キャロラインに僕との繋がりを求めて近付いてくるのは何もあのピンクだけじゃない。
  他の令嬢達にはきっぱり、はっきり断っているんだ。

  本当にどうしてなんだ?
  ピンクか?  ピンクがキャロラインを惑わすのか?  それともあの喋りか?

  そうして見るからに落ち込むキャロラインを僕は黙って見守る事しか出来なかった。




  そんなある日、学園内にキャロラインに関する悪意のある噂が少しずつだったけど広がり始めていた。
  キャロラインの評判を落とす事を目的としたような悪評で、当然事実無根。
  男を取っかえ引っ変えだって?  そんな事するわけないだろ!
  そんな内容の噂だったからか信じている人はあまりいない。ってか殆どいない。
  当たり前だ。キャロラインだからな。

  だが、このまま放置も出来ない。だから、僕は噂の出所を調べた。

  調べた結果、噂の出所はあのピンクだった。

  またか!  またコイツか!?  いったい何なんだ!?
  僕とキャロラインが一緒の学園で過ごせるのはこの1年だけなんだぞ!
  邪魔するな!!

  ……友人達がキャロラインの耳には噂を入れぬよう守っていたからか、はたまたキャロライン自身が鈍いからなのか、当のキャロラインはこの噂に気付いていなさそうなのがとにかく今は救いだった。
  しかし、それも時間の問題だ。これは早急に対処しないといけない。
  単なる噂だからだと放っておけば、そのうち大事になる可能性だって秘めているんだ。
  そうなってからでは遅いのだから。

  単なる噂の否定だけではダメだ。
  もっと上書きされて、キャロラインの噂が消し去る程の出来事が必要だ。
  そして、僕はそれを念頭に置いて策を練り、それを実行する事にした。

  ……キャロラインは、僕の行動に心を痛めるかもしれない。
  軽蔑するかもしれない。
  いや、確実にするだろう。
  それに何より、しばらくキャロラインの傍にいられなくなる……

  苦痛以外の何物でもなかった。
  それでも、その時の僕は、嘘の笑みを張り付けてでも、あのピンクに近付く方法しか思い浮かばなかった。

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