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たいていヒロインは、爵位が低くピンク色の頭をしていることが多いのよっ!
しおりを挟むそれから時が経つのは早いもので、あれから7年の月日が経ち、私は15歳になった。
今日から私は、貴族の子女が通う王立学園に入学する。
「……学園入学とか、めちゃくちゃ王道な展開だわ」
私はそう呟く。
小説にしても乙女ゲームにしても、学園生活を送るというのはよくある設定。
そして、この世界が本当にいずれかの物語なら、きっと今日、私と同じ日に“ヒロイン”は入学してくるはずだ。
そうそう。たいていヒロインは、爵位が低くピンク色の頭をしていることが多いのよっ!
(キャロライン調べ)
私はそんな考えを胸にキョロキョロと辺りを見渡す。
入学式の会場はすでに人でいっぱいとなっており、この中から、それらしき人物を探すのは相当骨が折れる作業となる。
そもそも本当に“ヒロイン”が存在するのかだって分からないのだから、当然と言えば当然なのだけど。
そんなことに気を取られていた為に、私は入学式の話を全く聞いておらず、周りのザワザワした声で私はハッと意識を戻した。
慌てて顔を上げると、壇上には一人の男性が立っていた。
──あぁ、だから、騒がしくなったのね。
私は瞬時に納得する。
何故なら、その場に立っていたのは……
「新入生の皆さん、入学おめでとう! 僕は生徒会長を務めるシュナイダー・コルフォートです」
シュナイダー殿下、その人だった。
7年の月日を経て、彼はとても凛々しくなった。
私と変わらなかった身長もグンと伸び、今となっては私は頑張って見上げないと彼と目線も合わない。
そして、私との婚約は目下継続中である。
「……」
壇上で、堂々と挨拶する姿は、惚れ惚れするほどカッコいい。
控えめに言ってもカッコいい……
シュナイダー殿下は私が危惧したような、俺様王子にはならなかった。
あの優しい性格は昔から変わっていない。
……腹黒かはちょっと私には分からないけれども。
将来、国を背負っていく立場である人ならば多少の腹黒さも必要だろうから、殿下もいつまでもピュアなままではいられないはず。
…………そんなシュナイダー殿下と私は7年も一緒に過ごして来たのだ。
恋に落ちないわけがない。
──そう。私は気付いたら彼に恋をしていた。
私と殿下は“婚約者同士”だ。つまり私は好きになった相手と結婚出来る立場にある。
本来なら、こんなに嬉しい事は無い──はずなのに、素直に喜べない自分がとにかく悲しい。
私は悪役令嬢だから、シュナイダー殿下にとっての“ヒロイン”は別にいて、私との婚約はいつか破棄される。
ずっとそう思って来たし、もちろん今でもそうなると思っている。
だから、いつか殿下がヒロインと出会って恋に落ちた時は、すんなり身を引こう。
そう思って来たのに。
今更ながら、“殿下の婚約者”という立場を降りたくない。このままでいたいと願ってしまう自分がいる。
「はぁ……」
私がそんな人知れず小さなため息を吐いた時、会場の後ろの方でガタンッと大きな物音と、何人かの小さな叫び声や慌てている声が聞こえてきた。
先生を呼んでいる声も聞こえる。
どうやら、誰か倒れた人がいるようだった。
貧血か何かだろうか?
心配ね。大丈夫かしら? ……そう思いながら壇上にいるシュナイダー殿下の方を見ると、彼も心配そうに倒れた人のいるであろう後方を見ていた。
そして、倒れた(と思われる)人が救護室に運ばれていく様子を見てホッとした顔をしていた。
そんな殿下をずっと見ていたせいで、壇上の殿下とバチッと目が合ってしまった。
殿下は、ニコリと微笑んだ。
「……っ!」
破壊力満点の笑みを見せられて、私の顔が真っ赤になったのは言うまでもない。
まぁ、あちこちから息を呑む音や、小さな悲鳴が聞こえてきたので、その微笑みにやられたのは私だけでは無かったみたいだ。
そんな殿下の微笑みに心臓を撃ち抜かれていた私は、もちろん知らない。
あの倒れて運ばれていた人は女生徒で、髪の色はピンク色だったって事を。
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