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私達の関係は、真実の恋にはならないのだ
しおりを挟む「こんにちは、殿下」
「ようこそ、キャロライン嬢。今日も来てくれてありがとう!」
シュナイダー殿下の元を訪ねると、今日も殿下はとても嬉しそうに私を出迎えてくれた。
今のところ、その顔に俺様とか腹黒の気配は感じられない。
殿下と私の婚約が正式に決まってから、私は王宮に行く事が増えた。
お妃教育と殿下との交流を深める時間が設けられているのだ。
「キャロライン嬢、大丈夫? 無理してない?」
「ふふ。ご心配ありがとうございます。大丈夫です! いつも大変有意義な時間を過ごさせて頂いておりますわ」
お妃教育が始まった私の事を心配そうに様子を伺ってくる殿下に私は笑顔で答える。
教養にマナーにダンス、果ては楽器演奏まで。
シュナイダー殿下は、王太子でもあるので、その妃に求められるものは多いのだそう。
だから、妃教育の為にこんなに早くに婚約者を決めたのだとも聞いている。
(そうよね……たいていどの話の悪役令嬢も婚約者の王子の為に幼少期をお妃教育に捧げていたわ。なのに待ってる未来は婚約破棄って。今、思うとだいぶ理不尽な話ばかりよねー……)
「なら良かった。あ、ねぇ? まだ時間あるかな?」
「はい。迎えの時刻まではまだ少しあります」
「そっか! 良かった。じゃあ、もう少し僕に付き合って?」
そう言って殿下は私を外に連れ出した。
「ーーっ! 殿下、ここは?」
「王宮の裏庭だよ。誰もが入れる中庭と違って、ここは王族の許可が無いと入れない」
「まぁ!」
連れてこられた場所は、王宮の裏庭だった。
色とりどりの花で埋め尽くされていて、とても綺麗な場所だった。
「代々の王妃が管理してるんだよ。もちろん、世話は庭師もするけどね」
「そうなのですね! 殿下連れてきてくださり、ありがとうございます!!」
中庭の花達も綺麗だが、ここは中庭とはまた違って、何と言うか圧巻の一言に尽きる。
王妃の管理と言うのも納得だ。
「……っ! うん、どういたしまして。キャロライン嬢が気に入ってくれたなら僕も嬉しい」
私が笑顔でお礼を伝えれば、殿下も少し照れた顔で微笑んだ。
「嬉しい?」
「そうだよ? だって、この場所は将来の王妃ーーつまり、行く行くはキャロライン嬢が管理する事になる場所だからね。早く知っておいて欲しかったんだ」
「……あ」
そうだったわ。
私は王太子でもあるシュナイダー殿下の婚約者。
このままいけば王太子妃となり、後に王妃となる存在ーー。
そう、このままいけば、ね。
今、目の前で優しく微笑んでいる殿下が、本当に将来、私と婚約破棄をするのかは分からないけれど、可能性はゼロではない。
だって、やっぱり殿下には、心から好きになった人と結婚して欲しいとも思うし。
そして、その相手が私ではしっくり来ないのもまた事実。
そもそも私達は政略結婚の為に結ばれた婚約だからね。
私達の関係は、真実の恋にはならないのだ。
……少し寂しいけれど。
そんな事を考えたからか、私の表情が暗くなった事に気付いた殿下が、少し落ち込んだ様子で口を開いた。
「……ごめん、もしかしてプレッシャー与えちゃった? そんなつもりは無かったんだけど……」
「い、いえ!! そんな事ありません! 私、ここをもっと素敵な場所に出来るように頑張りますね!!」
「キャロライン嬢……」
私の言葉に殿下は安堵した様子を見せた。
そう。今はまだ私が殿下の婚約者なのだから、しっかりしないといけない。
そう考えていると、殿下が徐に私の前に一輪の花を差し出した。
「……殿下?」
「キャロライン嬢に似合いそうだと思って。髪にさしても?」
私が頷くと、殿下が優しい手付きでその花を私の髪にさした。
その仕草に胸がドキドキしてしまう。
全然、心臓の音が治まってくれないわ!!
「うん、やっぱり君には赤い花が似合う」
「そ、そうですか?」
「とっても似合ってる。それに僕は君にその色が似合ってくれる事が何よりも嬉しいんだ」
「ーー? 何故ですか?」
私は意味が分からず首を傾げると、殿下が微笑みながら耳元に口を寄せて小声で囁いた。
「だってねー……」
「!!」
その言葉に、一瞬で顔が真っ赤になったのが自分でも分かった。
殿下はそんな私の様子を見てクスリと笑った。
“赤は、僕の瞳の色だから”
シュナイダー殿下は確かにそう言ったのだけど、
私はドキドキし過ぎていて、その言葉の持つ意味を深く考える事は出来なかった。
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