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おまけの番外編 ~その後の食堂にて~
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カランコロン
「いらっしゃいませー」
私が笑顔で入口に向かって挨拶すると、見慣れた顔のお客様達が入って来た。
「あ、セラちゃんだ!」
「おぉ、久しぶりだな!」
「相変わらず可愛いな~」
私の顔を見て嬉しそうにしてくれる常連さん達。
その顔を見ていると、私の方も自然と顔が綻んでしまう。
「皆さん、お久しぶりです!」
私は満面の笑みで彼らに微笑んだ。
あの日、元……いや偽聖女だった彼女のあの発言のせいで、マルク様から連れ出されて慌ただしく店を後にしてからの私は、その後の騒動のゴタゴタと、すぐ結婚式を控えていた事などもあってお店に顔を出す事が出来ずにいた。
そして、無事に結婚式を終え、ようやく新しい生活も落ち着いてきたので少しだけまた働きに出させてもらえる事になり、今日は久しぶりにお店にやって来た。
常連さん達にニコニコと笑みを向けながら、私は昨晩のレグラス様との攻防を思い出していた。
「……本当にいいの?」
「うん。構わないよ。将来、僕が跡を継いでセラも侯爵夫人の立場になったら、さすがに厳しくなるとは思うけど……今はまだ、セラには好きな事をしていて欲しいからね」
「……レグ!」
本当の本当にまた働きに出てもいいの?
そう尋ねる私にレグラス様はそう言いながら微笑んだ。
嬉しくて私から思わず抱き着いてしまったわ。
「と言っても、まぁ、単に僕が食堂で働いてるセラに会いたいだけなんだけどね」
「!」
レグラス様は、ギューッと私を抱き締め返しながらそんな事を言った。
「リシャール王太子殿下は……」
「うん。変わらず、毎日元気に脱走してるよ」
「……ソウデスカ」
相変わらず未来の王様は元気いっぱいだ。
「あ、レグ……あの、それで。そうなると一つお願いが……」
「お願い? 何かな? セラのからの願い事なら何でも叶えたいな」
レグラス様は嬉しそうに甘く微笑んで言った。
──ふっふっふ! 言ったわね? 言質はとったわよ!?
「では、耳をお貸しください……」
「うん?」
こちらに向けるレグラス様の耳にそっと内緒話をする様に囁いた。
「…………え!」
「だって! 働きに出るなら……その、そうしてもらわないと……困るんです」
「……うっ」
レグラス様は何だか渋い顔をした。
そうでしょうね、あなたならそんな顔をするわよね!
だって、私がしたお願いは…………
夜……これでもかと抱き潰すのと、見える所へのキスマークを控えてね?
というお願いだったから!
(だって、毎晩……幸せだけど、朝、起きるのが大変なんだもの……!)
「…………………………分かった。少し控えるよ……」
「レグ! ありがー……!?」
長い熟考の末、レグラス様はしぶしぶそう言ったと同時に何故かそのまま私をベッドに押し倒した。
そのままニコニコ笑いながら覆い被さってくる。
「えーと……レグ?」
「とりあえず、見えない所なら良いんだよね?」
「へ?」
ちょっと、レグラス様!!
何でそんな獲物を見つけた時のハンターみたいな目をしてるのよ!?
おかしいわ、私、何か間違えたかしら??
「見える所さえ控えれば、見えない所ならたくさん付けてもいいって事だもんね?」
「!?」
レグラス様は妖しく笑いながらそんな事を言って、そのまま額に頬に唇に……と、たくさんのキスが降ってくる。
「愛してるよ、セラ」
「~~~!!」
レグラス様はちゃんと“控えてね”ってお願いは聞いてくれたわ。一応ね。
だけど、本当の本当にそれが少し……だったのは言うまでもない……
「セラちゃん、今日はあの色男の旦那もここに来るの?」
その言葉でハッと意識を今に戻す。
昨晩の事は一旦、置いておくわ……今後も話し合いは必要そうだけども。
「セラちゃんがいるなら来るよな? 来ないはずが無い」
「え、えぇ、多分。予定が変わらなければですけど」
まさかの王太子殿下が執務室で大人しくしていない限りはね来るわよ!
まぁ、私の知る限りそんな日は無かったけど!
「そっか。セラちゃん、幸せか?」
「セラちゃん、旦那に何かされたら俺たちに言えよ?」
何故か常連さん達ってば、お父様みたいな事を言ってるわ。
「ふふ、ありがとうございます。レグ様は私をとても大切にして下さってるので大丈夫ですよ、私、とっても幸せです!」
私が微笑んでそう答えると皆さんも安心したように笑った。
「まーな、もし、俺達のセラちゃんを泣かすようなことがあれば……」
「そうだな! 例え次期侯爵様だと言っても容赦はしねぇ!」
「……っ! あ、おい、バカ……!」
────え? 今なんて……?
「あの、今……」
レグラス様の事を“次期侯爵様”って……言った、よね?
「まさか、皆さん……知って……?」
その事に驚いた。
皆、気まずそうな顔をして頷きあっている。
まさか、レグラス様だけじゃなく、私の事も知ってたんじゃ……
「……」
「……知ってたよ、セラちゃんがどこの誰なのか。ついでにあの色男の旦那が誰なのかも」
「!」
なんて事なの!!
「まぁ、最初はセラちゃんってもしかしたら、貴族のお嬢様なんじゃねーかな? そう思ったのが始まりだったな」
「セラちゃん、可愛いかったしな」
「まぁ、なんか事情があるのだろう、と皆で見守る事にしたんだよ」
「したらなぁ、そのうち娘みたいに思えちゃってなぁ……」
気付かなかった……
皆さん、そんな温かい目で私の事を見守ってくれていたの??
「そして、ある日、現れたあの旦那。めっちゃセラちゃんに惚れてるしさ」
「口説いてるのに流されてて面白かったな! ありゃ笑えたわ」
ねぇ、レグラス様。あなた笑われてたみたいよ……
「そうそう。旦那も旦那で貴族のオーラがな、ありゃ全然隠せてねーよ。何よりカッコよすぎる」
「まぁ、旦那の正体を知ったのは元聖女様の騒動の後だけどな~」
「聖女だったあの女が、望んだのがセラちゃんの旦那だと知った時はマジで驚いたよ」
「無事にセラちゃんと結婚してくれて良かった~って皆で安心してた」
ねぇねぇ、レグラス様。あなたも貴族だってバレバレだったみたいよー
でも、そうなのよ、私の旦那…………様はカッコイイの!
(旦那様って響き、照れるわね)
「ありがとうございます……」
私は皆さんに頭を下げた。見守ってくれてありがとう。
そんな思いを込めて。
「気にすんな、ここでは“セラちゃん”だからな!」
「そーだよ、セラちゃん」
「これからも、ここに来れる時はその笑顔を見せてくれよ!」
「皆さん……」
常連さん達のその笑顔がとても嬉しかった。
婚約破棄された後の自由の為だけに始めたこのお仕事だったけど、いつの間にか私にとってここは大事なかけがえの無い場所になっていたみたいだ。
(レグラス様は、私のそんな気持ちに気付いてたのかな?)
だから、婚約を迫られてた時も、結婚した今もこうしてここで働く事をいいよ、って言ってくれてるのかな?
「……」
あぁ、どうしよう。
無性に会いたいな。
レグラス様、早く来ないかな?
なんて考えた時、ちょうどカランコロンと扉が鳴った。
「……!」
「お、セラちゃん! 噂をすれば、だな」
「相変わらず色男だな~」
振り返れば、そこには一番大好きな人が立っていた。
「セラ!」
「いらっしゃいませ、レグ様!」
私は、思いっ切り抱き着きたい衝動を何とか堪えながら満面の笑みを向けた。
さーて、今日の“セラさんのオススメ”の紹介といきましょうか!
だから、今日も美味しい! って微笑んでね?
食堂で見せてくれるあなたの笑顔も私は大好きだから。
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
ありがとうございました!
ちょっと当初の予定より色々書き足してたら遅くなってしまいました……
更新まだかよ!
っと、待っててくださった方、大変お待たせしました(⋆ᵕᴗᵕ⋆)
食堂の常連のおっちゃん達は、実は知ってたんだよ!
って話をラストに入れたかったのに流れ的に入れられず、結局こんな形になりました。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
ただし、唯一の心残りはやっぱりマルクですかね……
やっぱり書こうかなぁ……マルクのその後。
なんて今、ちょっと思ってます。
うまくまとまったら、また更新するかもしれません。
その時はまた、読んでいただけたら嬉しいです!
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