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15. 嫌ってたわけじゃない
しおりを挟む──レグラス様が私の事を……
なんて、そんな自意識過剰な考えに思い至ってしまった自分の思考に、そんなはずはないと慌てて打ち消す。
「セラフィーネ?」
顔を真っ赤にして黙り込む私を不思議そうな顔で見つめてくるレグラス様。
ち、近いわ! それにその顔……その顔はダメよ!
うぅ、イケメン過ぎるのよ、レグラス様は!
そんなイケメンのアップに耐えられなくなった私は思わず叫んでいた。
「そ、そもそも! レグラス様は、私の事を嫌いなんじゃないんですかっ!?」
「…………は?」
私の叫びにレグラス様がポカンとした表情になった。
なに、その顔……
「嫌い……? 僕がセラフィーネを?」
「そ、そうですよ! もしかしたら、い、今はそこまででは無いかもしれませんが、レグラス様は私の事を嫌いだったはずです!!」
えぇい! もうこうなったら勢いよ!
もう口にしてしまったんだもの。何を言われても今更傷ついたりしないもん!
「待った! 違う! 僕は、セラフィーネを嫌ってなどいない!!」
「へ?」
──そうだよ、僕は君の事が嫌いだった。
そう言われるのを覚悟していたのに予想とは違う言葉が返って来て、今度は私がポカンとするはめになった。
「あ、いや。分かってるんだ……セラフィーネがそんな風に思ったのは、そもそも僕のせいで……」
「嫌ってない……? レグラス様は私の事を嫌っていたのではないのですか? この婚約だってマルク様の婚約破棄とか遺言とか事情が事情で仕方なく……」
「違うよ! 言ったよね? 僕が大事なのは遺言じゃないって!」
確かに聞いた。聞いたけど。
「むしろ、仕方なく僕と婚約したのはセラフィーネの方だろ?」
「はい?」
私はよく分からず首を傾げる。
レグラス様はちょっと暗い顔をしながら言った。
「君こそ、僕に無理やり婚約を迫られたじゃないか」
「!」
レグラス様、あの迫り方が無理やりだったと自覚あったのね。
あまりにも強引に話を持っていったから、そんな気持ち欠片も無いのかと思ってた。
「それを言うなら僕の事を嫌いなのはセラフィーネの方だ」
「…………え?」
「セラフィーネは婚約を受け入れてはくれたけど、そもそもの初対面での僕のセラフィーネへの態度は酷かった……その後の僕の態度も。だから君はあんな態度を取り続けていた僕の事を嫌ってるはずだ」
「あの、レグラス様? ちょっと待ってください……」
「現に、これまで君はずっと僕を避けていた……」
「!!」
ど、どうしよう。レグラス様がどんどん項垂れていく。
そして、私が避けてたってバレてたの!?
いや、それはそうよね……我ながら分かりやすく避けていた自覚はあるもの。
「私、私はレグラス様を嫌っていたわけではありません……」
「え?」
私のその言葉にレグラス様は勢いよく顔を上げた。
その目は驚きで大きく見開かれている。
「レグラス様が私の事を嫌いなのだと思っていたので、なるべく近寄らないようにしていました……」
「……」
まぁ、レグラス様の私への態度で苦手意識は芽生えてしまっていたけれど、それは黙っておこう。
苦手ではあったけど嫌ってたわけじゃ……
……うん。そうよ、嫌ってたわけじゃない。
だって、この数ヶ月あなたと過ごして気付いてしまった。
私は、ずっとレグラス様が他の人には見せてる笑顔を私にも向けてくれないのが寂しかったのよ……
私にもあんな風に笑って欲しかったの……
「……セラフィーネは、僕の事を嫌ってたわけじゃない?」
小さく呟くその声に私も頷く。
「…………それは、今も?」
「婚約の話は正直、戸惑いましたけど嫌ってなどいません」
「……っ!」
私のその言葉を聞いたレグラス様が、自分の口を慌てて覆った。
その顔がほんのり赤く見えるのは……気のせいかしら?
「ごめん。僕はずっと君に嫌われてると誤解してた」
「……いえ。それは私もです。私もレグラス様に嫌われているのだと思っていました」
「違う!! それは本当に……本当に違うんだ!」
レグラス様は勢いよく首を横に振る。
「昔も今も君を嫌っていた事など1度も無い。ただ全部僕が……悪い」
「レグラス様……」
「その、昔の僕が言った言葉や取ってた態度は……ごめん。謝ってすむ単純な話ではでは無いけど……本当にすまない!」
「いえ、それは……! 私だって」
頭を下げるレグラス様に戸惑ってしまう。
誤解されるような態度を取ってたレグラス様もレグラス様だけど、私も私で勘違いしていて嫌な態度を取っていたのだから、この場合はお互い様だと思った。
そりゃ、どう考えてもレグラス様の暴言は初対面でする事では無かったとは思うけど!
「セラフィーネ……」
「え?」
名前を呼ばれたと思った瞬間、腕を取られて引き寄せられ、気付いたらレグラス様に抱き締められていた。
ドキンッ!
と大きく私の心臓が跳ねた。
本当に本当にこの人は、私の心臓に悪い事ばかりする。
「あ、のレグラス様?」
「……もう少しだけ。もう少しだけこのままでいさせてくれないか」
「?」
「……セラフィーネが僕の事を嫌っていたわけではないんだって事をしっかり感じておきたい」
「へっ!?」
よく分からない理屈でしばらくの間、抱き締められた。
だけどそれは、まるで宝物を扱うかのように優しくて、私の心臓の音はいつまでたっても落ち着いてはくれなかった。
「……君を嫌うわけないじゃないか………………こんなに好きなのに」
「……!?」
しばらくそのままの体勢でいたら、耳元でとても小さくだけど囁かれた気がした。
(え? 今……)
「……セラフィーネ」
そして、ようやくレグラス様の優しく私を抱き締めていた腕が緩んだ。
ふと、寂しさを感じてしまった事に戸惑いを覚えてしまう。
「来月の結婚式が楽しみだね」
「……!」
レグラス様が嬉しそうに、本当に心から嬉しそうな顔でそんな事を言うものだから。
私はさらに真っ赤になってしまい、そのせいで、さっき聞こえた気がした言葉を追求し損ねてしまった。
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