【完結】運命の恋に落ちたんだと婚約破棄されたら、元婚約者の兄に捕まりました ~転生先は乙女ゲームの世界でした~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
15 / 27

12. ヒロインの行動とゲームの強制力

しおりを挟む

  ゲームのレグラス様ルートは、マルク様を攻略すれば開放される。
  そして、マルク様の好感度も上げつつ、レグラス様とのイベントをこなす事で隠しルートに入る事が出来る。
  そんなレグラス様ルートに入る為に必須な絶対条件はー……




「聞いたかい?  最近、聖女様が頻繁に教会や孤児院を巡ってるそうだよ」
「へー、いつも神殿の奥でお祈りしてるだけかと思ってたのにね」

  その日、たまたま食堂の常連さん達の会話が聞こえてきて耳にした私は、話の内容に思わずビクッと肩を震わせてしまった。

  エルミナ様が教会や孤児院への訪問をしている?
  決しておかしな事ではないので、本来なら気にする話ではない。

  なのに、それが気になってしまうのは。

  そこにレグラス様ルートに入る為の必須条件となる邂逅イベントがあるから。

  聖女という存在に以前から興味を持っていたレグラス様は、精力的に慈善活動を来なす聖女様の噂を聞いて、人知れず彼女に好感を抱いていた。
  そしてある日、王太子殿下の視察と偶然同じ日程で訪問していた先の孤児院で、子供たちと触れ合う聖女様の様子を見かける。
  それまでまともな接点の無かった2人の邂逅──この日の出会いをきっかけにどんどん2人は親しくなっていく……

「セラ?  顔が真っ青だよ?  どうかした?」
「え、あ、女将さん……すみません。何でもないです」
「そんな顔色じゃないけどねぇ……」

  私はそんなに顔色が悪いのかな?
  確かに、エルミナ様の話を聞いて動揺はしてしまったけれども。

「もうすぐ、愛しの婚約者殿が来る時間じゃないのかい?  そんな顔色で仕事してたらあの過保護そうな兄ちゃんが驚いちゃうよ?」
「愛しのって……」

  婚約者なのは間違いないけど、別に愛しいわけでは……ない。
  と、心の中で反論した時、カランカランと店のドアが開いた。
  私と女将さんが反射的に入口を振り返って見ると、入ってきたのはー……

「あ……」

  レグラス様だった。
  噂をすれば何とやら……だ。

「セラ!」

  レグラス様は私の顔を見て嬉しそうに微笑んだ。

「……っ!!」

  だから、もう!  何でそんな顔で微笑むの!
  その顔面の破壊力と言ったら……ずるい!!
  本当にこの人は自分の顔面偏差値が高い事を分かってない!

  だけど、そのすぐ後、レグラス様は笑顔を消して眉間に皺を寄せながら私の元へとツカツカとやって来た。
  そして、そっと私の頬に触れる。その手つきはとても優しい。

「……セラ、顔色が悪い。何かあった?  疲れてるんじゃないか?」
「えっ」

  今まさに女将さんに指摘されていた事をズバリ言われてしまって私は動揺する。
  そんな女将さんは、ニヤニヤしながら「ほらね」って顔をしていた。

「働く事に反対はしないけど、無理していいとは言ってないよ?」
「いや、その……」

  女将さんの過保護発言も、聞いた時は、んん?  って思ったけど、確かにそうかもしれない。レグラス様は心配性な所があると思う。

「本当に違うんです……」
「……」

  いや、その無言で見つめてくるのやめて欲しいです。

「お客様が……その、聖女様の話をしていて……」

  レグラス様の事を狙ってるのかと思ったのです!

  ──とは口が裂けても言えない。

「……?  それで顔色が悪くなるの?」
「ちょっとあの日は大変だったな……って思い出してしまっただけです」
「……あぁ、まぁね。分からなくは無いけどね」

  レグラス様が遠い目をする。

  我ながら言い訳にもならないような言い訳だわ。
  もっと他に無かったの……私!

「とにかく!  本当に大丈夫ですから。ただ……あの、もしかしてなんですけど、レグ様、近々、どこかの孤児院の視察の予定があったりしますか?」
「え、どうしたの急に?  日程や場所は言えないけど……まぁ、あるにはあるよ。どこでその話を聞いたの?」
「いえ、聞いたわけではなくて、聖女様の話を聞いてレグ様にもそういうお仕事もあるのかなって思っただけで!」
「セラ?」

  ダメだわ。ますます怪しすぎる。
  レグラス様、追求して来ないけれど明らかに変だなって顔してるもの。


  だけど、それがレグラス様とエルミナ様の邂逅イベントに間違いないはずだ。

  この間はレグラス様がエルミナ様に惹かれる様子は無かったけど、この邂逅イベントが切っ掛けに……は十分有り得る。
  いや、むしろここからが本当にレグラス様ルートの開始となる。

  (エルミナ様のこの行動は偶然なの?  それとも……)

  不安な気持ちが頭をよぎる。

  どうしよう。その日をきっかけにレグラス様とエルミナ様の仲が深まったら。
  私達の結婚式の日はもう来月に迫っているのに?

  結果としてレグラス様が聖女と運命の恋に落ちてしまって、私が婚約破棄したいと言い出してもレグラス様は受け入れてくれるのかな?
  お祖父様達の遺言を遂行する為や、迫ってる式の事も考えて仕方なく私と結婚はすると言い出すかもしれない。

  ──そうしたら、愛のない結婚をする事になるんだわ。

  もともと、愛のない結婚だと覚悟はしていたけど、何故かレグラス様が優しくしてくれたり、思わせぶりな事をしたりするから勘違いする所だった。


  …………もしかしたら、私の事を少しは好きなのかもって。


  そこまで考えて私は首を横に振った。

  きっと勘違いだ。
  少なくとも、今は前みたいに嫌われてはいないのかもしれないけど、だからと言って愛されてるわけでもない。

  そんな事を考えていた私は、静かにため息をついた。


「…………」

「セラ? どうかした?  本当に様子が変だよ?」

   難しい顔をして黙り込んでしまった私をレグラス様は心配そうに覗き込む。

「い、え。何でもないです……」
「本当に?」
「本当です!  ほら、レグ様!  お席にご案内しますよっ!  今日も私のオススメで宜しいですか!?」
「あ、うん……」

  私は強引に話を打ち切って、笑顔を無理やり作ってレグラス様を席に案内する。
  レグラス様も怪訝そうな表情を浮かべたままだったけど、大人しく従ってくれた。

  だけど、その間も私の胸のモヤモヤは消えてくれなかった。








  レグラス様が、王太子殿下と孤児院の視察に行かれる日──つまり邂逅イベントが起こるであろう日──に、何故かマルク様が我が家にやって来た。


  ちなみに何で今日がその日だと分かったのかと言うと、レグラス様が昨日「明日は店に行けないんだよなぁ……」と寂しそうな顔で呟いていたからだ。
  情報漏らしちゃってるわよ……レグラス様。とりあえず聞こえないフリをしておいたけれど。








「マルク様?  どうなさったのです?」
「突然、ごめん。ちょっと話を聞きたくて」
「話、ですか?」

  私が首をコテンと傾けると、マルク様がフッと笑った。
  ちょっとその笑みは暗い。

「エルミナの事で聞きたい事があるんだ」
「え?」


  マルク様を応接室に案内して、侍女にお茶を運んでもらい私達は一息ついた。
  侍女はそのまま部屋の隅で待機している。
  婚約者のいる身で、その弟とは言え、2人きりにはなれない。
  ……それにマルク様は元婚約者という立場だし。


「それで?  聖女様の事でお話とは何ですか?」

  私は率直にマルク様に訊ねる。

「うん。あのさ、この前セラフィーネが兄上と王城に行った時に、エルミナに会ったと聞いたんだけど」
「その事ですか?  はい。お会いしましたよ」

  エルミナ様に聞いたのかな?
  婚約の事、後で話してみるって言っていたものね。

「……何を話した?」
「はい?」

  何故かマルク様の声がどこか怒ってるように聞こえる。
  何を、とは?

「エルミナと何を話したのかって聞いてるんだ」
「はい?」

  マルク様の言葉の意味が分からなくて首を傾げる。

「……エルミナは泣きながら僕に言ったんだ!  セラフィーネとヨリを戻すべきだって!  どういう事なんだよ!?」
「!?」

  私は驚き過ぎて声も出なかった。
  はぁぁ!?  何それ、どういう事なの!?  私の方が聞きたいわよ!

「僕達の婚約はとっくに破談になってて、セラフィーネはもうすぐ兄上と結婚するのに、何でそんな話になるんだよ!  セラフィーネ、あの日彼女に何を言ったの!?」
「待って、ください、マルク様……」
「エルミナは身を引くと言い出したんだよ。あんなに僕の事を好きだと言ってくれてたのに!!」
「!?」
「セラフィーネが僕とヨリを戻したいなんて口にしたとは思えないけど、でも、エルミナが身を引きたいと言い出すような何かを言ったんじゃないのか!?」

  どうしよう……本当に本当に意味が分からない。
  激昂するマルク様に部屋で待機してる侍女も困惑してる。
  分かるわ……マルク様のこんな姿初めて見るわよねー……
  だけど、何がどうしてそんな話になってるの?

「マルク様、違います!  私とエルミナ様はあの時はご挨拶しただけです。ただマルク様と私の婚約が破談になってる事を知らなかったようなので説明はしましたが……そして、私はレグラス様の婚約者としてご挨拶しています!」
「なら、何でエルミナは身を引くなんて言い出したんだよ!」

  そんな事、私に言われても分かるわけないじゃない……!

「その話を聞いた直後は僕だってセラフィーネが何か言ったなんて思わなかったさ!  でも、時間がたてばたつほどやっぱりセラフィーネが何かしたのかもって思わずにはいられなくなった!」
「え?」

  それは、つまり最初は私の事を疑っていなかったのに、時間が経ってから私への疑惑がどんどん生まれ始めたという事?
  何だろう、何か……

  (怖い……)

  怒ってるマルク様が……ではなくて。
  時間と共に、だんだんそんな考えに至ってしまったマルク様が……怖い。

  だって、何かが働いてるみたい───

   (……これも、強制力なの?)

  もし、本当に強制力なんてものが働く世界なら……レグラス様も今頃……?

  マルク様にいわれの無い事で責められてるのにも関わらず、私の頭の中はレグラス様の事ばかりだった。


しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

21時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

処理中です...