【完結】運命の恋に落ちたんだと婚約破棄されたら、元婚約者の兄に捕まりました ~転生先は乙女ゲームの世界でした~

Rohdea

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11. 混ぜたら危険な人達

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「そ、そうだったんですね?  レグラス・クレシャス様には、今は婚約者がいないと聞いていたので驚いてしまいました」

  エルミナ様はそう言って、フワリとした笑顔を見せた。
  
  (あれ?  動揺していたように見えたのは私の気の所為……?)

「婚約おめでとうございます!  そして、セラフィーネ様、申し訳ございませんでした……私、マルク様との事は何も知らなくて……」
「あ、いいえ、私の方こそ……」

  って、私が謝る話じゃないわね?

「あ……えっと、つまりマルク様には、現在婚約者がいらっしゃらないという事でしょうか?」

  エルミナ様がちょっと戸惑った様子で聞いてくる。
  うーん、これはマルク様の新しい婚約者の有無を気にしているのかな?
 
「そうですね」
「ですが、何故……?」

  あなたの事が好きだと言って、私と婚約破棄したんですよー。
  そう言いたいけど、言えるはずがない。

「……」
「あ!  不躾に申し訳ございません……えっと、そうですよね、きっと色々と事情がおありだったんですよね?  立ち入った事を聞いてしまいました……」

  そう言ってシュンと項垂れる姿も可愛いらしかった。
  やっぱりヒロインってそこに居るだけで違う。

「いえ、私は大丈夫です」
「本当にごめんなさい……後でマルク様にも確認してみますね」

  そう言ってエルミナ様は私に頭を下げる。

  今のところ、私以外の攻略対象者の婚約者が婚約破棄されたという話は聞かないから、ゲームの通りに進んでるのなら、おそらくエルミナ様はマルク様ルートを進んでる気はするのだけど……でも何か……気になる。
  
  なんて考えていたら、

「ちょっと!  話の途中で断りもなく逃げ出すとはどういうおつもりなの!!」

  悪役令嬢……でもあるステミア様が怒りながらこちらにやって来た。
  そうだった。エルミナ様は彼女と話してる最中に突然こっちに来たんだった。

  (そりゃ怒りたくもなるわよね……)

  あの状態でステミア様を置き去りにしてこっちに来ようと思ったヒロインパワー恐るべし。
  って言うよりも、ちょっと空気読めな……
  ゲームでも天真爛漫な性格のヒロインだったからそのせい? 
  いや、そんな理由ですませちゃダメよね、まず人として問題だわ。
  

「あ、申し訳ございません……つい」
「ついですって!?  謝るくらいなら始めからそんな失礼な事をしないでくださいませ!」

  うわ……また、戦いが始まりそうだ。
  何でエルミナ様も“つい”とか言っちゃうのよ!
  わざと?  わざとなの!?

「はぁ……あなたの話は他でもよく耳にしますけど。あなた、私に対してだけでなく、他にもリーゼや、コレットにもよく突っかかっているそうね?」
「突っかかる?  何のお話でしょうか?  私はそんなつもりは……」
「しらばっくれないで頂戴!!」

  二人の言い争いは再び再開してしまったけれど、私はそれどころでは無かった。

  ……今、ステミア様の口から出た令嬢の名前って……
  残りの攻略対象者二人の婚約者の名前では……?
  彼女達も私と同じでゲームの中で名前は出て来ない婚約破棄されるだけのモブ。
  現実の世界であるここで、名前を知る事になった令嬢達だ。

  ──悪役令嬢のステミア様だけでなく、彼女達とも諍いを起こしてる……?
  それはつまり、マルク様だけでなく彼らのルートも進んでいるから?

  ……胸の奥がモヤモヤする。





「まぁまぁ、クヤーク公爵令嬢。ここは僕達に免じて今日の所は勘弁してあげてくれないかな?」

  見かねたレグラス様が間に入った。これ以上の騒動は勘弁して欲しいと顔に書いてある。完全に同意だわ。助かります、レグラス様。ありがとうございます!

「え?  って、あなたはクレシャス侯爵家の……それにそちらの方は?」

  ステミア様はようやく今、私達に気付いたようだった。
  どれだけエルミナ様しか見てなかったの……

「セラフィーネ・ラグズベルクと申します」

  私は慌てて挨拶をする。私とクヤーク公爵令嬢に面識は無い。
  夜会やらパーティーやらお茶会でお見かけする事はあっても直接話したことは無かった。

「ラグズベルク……あぁ、あなたが!」
「私をご存知なのですか?」
「あ、えぇ、ごめんなさい。ほら、最近社交界であなたの婚約に関して話題にあがったものだから。お名前だけは、ね」

  なるほど。ステミア様はさすがに婚約の事も知っていたようだ。

  (ん?  なら、エルミナ様は婚約の事は知らなかったのに、なんで私の顔も名前も知ってたのかな?)


  ……更にモヤッとしてきた。


「ごめんなさいね。私はステミア・クヤークですわ」
「はい、よろしくお願いします」

  ヒロインに対するモヤモヤは一旦置いておき、今はとりあえずステミア様と挨拶を交わす。

「ふぅ……エルミナ様、今日のところはこの二人に免じて下がりますけど、あなた、本当にいい加減になさいま……」

  ステミア様がそこまで言いかけた時、それを遮るかのような声が聞こえて来た。

「お前達、そこで何をやってるんだ!!」

  声の主を確認しようと振り返ると、そこにいたのは……

「「ディーク殿下!」」

  私とステミア様の声が重なる。
  まさかの第2王子、ディーク殿下の登場だった。

  私は第2王子の登場に吃驚しながらも慌てて頭を下げた。

  ──メインヒーローがやって来たぁぁぁ!!
  まだ、全員では無いけれど、何でエルミナ様にステミア様……そして殿下も……とキャラ達が勢揃いしちゃうのよぉぉ!
  しかも、よりにもよって一番混ぜたら危険なやつ!!
  どうせなら、無害の二人(神官と教師)にしといてよーー!

  私の内心は大パニックだ。

「ステミア……また、お前か」
「……何の事でしょう?」
「しらばっくれるな!  最近あちこちでお前がエルミナに突っかかってると言う話を聞くぞ!」
「まぁ、何て人聞きの悪い言い方を……私はただ、エルミナ様に注意をしていただけですわ」
「注意だと?」
「えぇ、ほらエルミナ様はまだ貴族社会になれていませんでしょう?  なのに、突然こうして王城に上がる事になり、しきたりなどご存知ない事も多いようですから」
「……!  エルミナを馬鹿にするのか!!」
「どうしてそうなりますの?  殿下を中心として揃いも揃って皆が甘やかすからこういう事になるのではありませんか?」
「……私に指図するのかっ!?  これだからお前はっ!」

  うわぁぁぁ……
  何か目の前で殿下vs悪役令嬢の戦いまで始まっちゃったよぉぉ。

  これ、場所がどこぞの夜会やらパーティーやらだったら間違いなく「お前とは婚約破棄だ!」って悪役令嬢が公開断罪される場面そっくりだよ……
  そのイベントはもちろんあったけど、まだ先だよね?  今じゃないよね??

  泣きたい気分になった。

「……これもわりと最近よく見る光景だ」
「えっ」

  レグラス様が横で呆れたように呟いた。

  こんな光景が日常茶飯事な王城なんて怖いよ!  関わりたくないよ!!
  心からそう思った。

「あの二人はしばらくあのままだろうから、もう行こう」

  レグラス様がそう促す。

「え、でも私、ディーク殿下に挨拶をしていませんが……」
「…………セラフィーネはあの状況で挨拶出来る?」
「……」

  そう言われて私は、チラッとディーク殿下とステミア様を見る。
  二人は今も言い争いを続けていた。
  そして、話は何故か幼少期のかくれんぼの話になっていた。
  ステミア様が、どこを探しても見つからなかったディーク殿下を探すのを諦めて、途中で放置したらしく、ディーク殿下はその時の事を逆恨みしてるような話だった。
  どうやら寂しくて泣きべそをかいたらしい。そんな情けない王子の失態が暴露されていた。

  ……って、何の話してんのさ。実は仲良しか!
  とは言え、あの二人の争いの中に割って入る心臓など私は持ち合わせてはいない。

「…………無理ですね」
「だろ?」

  レグラス様が苦笑する。

  挨拶は後日するとして、レグラス様に促され私達は帰る事にした。
  そして、歩き出したところで急に呼び止められた。

「あの、お待ちください……」

  エルミナ様だった。

「?」

  何だろう?  まだ、何か用でもあるのかな?  と思って振り返るとエルミナ様は花のような笑顔を向けながらレグラス様に近寄って行く。

「レグラス・クレシャス様。先程はステミア様から助けていただきありがとうございました」
「いや、助けたわけではなくて、単にもう終わりにして欲しかっただけだから」

  レグラス様はそう言ったけど、エルミナ様は「いいえ」と首を振る。

「私が助けてもらえたと思ったから、助けられたのです。ありがとうございました」
「いや、だから僕は君を助けたつもりは無いんだけど」
「いえいえ、さすがマルク様のお兄様です!  私、マルク様から話を聞いていてずっとお話してみたいと思っていたんです。ですから、今日お会い出来て嬉しいです!」

  そう言って可愛いらしい笑顔をレグラス様に向ける。
  こんな美少女の笑顔を見せられたら、だいたいの人はコロッといっちゃうわよね。
  マルク様もこの笑顔を見て一目惚れしたんだろうなぁ。
  きっとそこの王子様を含む他の攻略対象者も……


  そう。他の攻略対象者……


「……」

  私は見つめ合って話す二人を一歩離れたところから見る。

  “お似合いだな”

  そんな事を考える。
  二人は美男美女でとてもお似合いだ。
  そりゃそうよ。この世界のヒロインと攻略対象者の一人だもん。
  似合ってて当たり前。

  ──チクリッ

  何で胸が痛むんだろ。

  二人を見ていたら、思い出した。
  レグラス様のルートに入ると、実はエルミナ様が聖女として王城に挙がった頃から、レグラス様はエルミナ様を意識していた事が明かされる。
  聖女認定という突然の状況にも、めげずに前向きに天真爛漫とした持ち前の性格で、いつも明るく振る舞うエルミナ様に惹かれていたと言って……

  レグラス様は今までエルミナ様とは挨拶しかした事が無いと言っていた。
  だけど、今日のこの出会いは確実に二人の距離を縮めた気がする。
  これをきっかけにレグラス様がエルミナ様を意識し始める……のもありえる話で。

  レグラス様が恋に落ちるイベント。もしそれが発生したら……

  ……レグラス様もエルミナ様と運命の恋に落ちてしまうの?

「……っ!」

  やっぱり私はおかしい。
  自分で自分の気持ちが分からない。
  
  ただ、思うのはレグラス様にはヒロインに惹かれて欲しくない。ゲームのようにはなって欲しくない。

  それだけだった。


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