【完結】運命の恋に落ちたんだと婚約破棄されたら、元婚約者の兄に捕まりました ~転生先は乙女ゲームの世界でした~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
2 / 27

1. ここは乙女ゲームの世界だった!

しおりを挟む

─────

──……


  私、セラフィーネは、ラグズベルク伯爵家の長女で、年齢は18歳。
  下に10歳下の妹がいる。
  ラグズベルク伯爵家は、伯爵家の中でも下位にあたり、しかも貧乏ときている。
  なので屋敷の使用人も最低限のみ。
  だから、私は貴族の令嬢だけど身の回りの事も自分でやれるので、そこら辺の貴族令嬢達とはだいぶ違っている自覚が昔からあった。

  そんな私には、10年前から婚約者がいる。
  クレシャス侯爵家の次男、マルク様。

  ラグズベルク伯爵家の前当主である私の祖父と、クレシャス侯爵家の前当主が生前から決めていた婚約。
  それは遺言という形で両家に伝わり、様々な事情を考えた結果、クレシャス侯爵家の次男であるマルク様がラグズベルク伯爵家に婿入りするという形で落ち着き私達の婚約は結ばれた。



  そして、最近そんな婚約者であるマルク様の様子がおかしい。



  以前から頻繁に連絡を取っていたわけではないけれど、それなりにご機嫌伺いの手紙や贈り物が届いていたのに、ある日を境にそれがパッタリと無くなった。

  (何かあったのかしら?)

  そして今日、私と彼は久しぶりに顔を合わせてお茶を飲む事になったのだけど、我が家にやって来たマルク様はどこか様子がおかしかった。

「……やぁ、セラフィーネ」
「お久しぶりですね、マルク様。お元気でしたか?」
「あ、そうだね……久しぶり……うん、元気だよ」

  マルク様はどこか挙動不審な様子。……何で私の目を見ないんだろう?

  (まるで、何かやましい事でもあるみたい)

「そういえば最近はお忙しかったのですか?」
「……ぅえっ!?」

   (何でそんなに驚いた声を出すんだろう。ますますおかしい)

「ん、まぁ、そうだね……ごめん。そういえば、最近はあまり連絡してなかったね」
「それは構わないのですが……」
  
  (それよりもその挙動不審の理由が知りたいわ。絶対に何か隠し事をしてる気がする)

「あの、マルク様……」
「……」

  (うわ!  人の話聞いてない!  心ここに在らずだわ!)

「……」
「……」

  結局、それからの私達は会話が弾むはずもなく、終始無言でお茶を飲みこの日の婚約者同士の触れ合いの時間は終わった。

  (全く目が合わなかったんだけど!?)

  10年も婚約者として過ごして来てこんな事は初めてだった。




  そして、それから数日後。
  私はマルク様の挙動不審だった理由を知る事になった。


「……聖女様?」
「そうよ~、今代の聖女様はフレアーズ男爵家のエルミナ様に決まったじゃない?  それで彼女、先日お城にあがられたらしいんだけどー……」

  友人の一人である、同じ伯爵家の令嬢であるレイラの屋敷を訪ねた際に、話題が“聖女様”の事になった。噂好きの彼女は色んな話を知ってる。

「そうなの?  私、聖女様が決まった事すら知らなかったわ」
「え!?」

  私がそう答えたらレイラは驚きの表情を浮かべる。
  その反応は何だ?

「セラフィーネ。何で聖女様の事を知らないの?」
「何でって、別に私と関わりがあるわけじゃないから興味が無かった、それだけよ?」
「は?  何言ってるの?」
「?」

  レイラが何を言いたいのか分からず首を傾げる。そして、レイラは呆れたように言った。

「あなたの婚約者がその聖女様の護衛騎士に抜擢されてるのに、関わりが無いなんて事はないでしょう?」
「…………は?」
「だから、マルク様よ!  彼は聖女様の護衛騎士になったんでしょ?」
「!?!?」

  初耳だ!  マルク様が聖女様の護衛騎士?  だから、最近忙しそうだったの?


  ──って、あれ……??


  聖女様?  フレアーズ男爵家のエルミナ様……
  その護衛騎士がマルク・クレシャス……


  ──んんん?  どっかで聞いたことあるような。
  ……って!


「────っ!!」


  私は、突然思い出した。一気に色んな記憶がなだれ込んで来た。
   ──そう。ここではない世界で生きた記憶、すなわち前世の記憶というものを。

「セラフィーネ?  どうかしたの?」

  レイラが心配そうに声をかけてくれたけど、これは説明のしようが無い。

「ありがとう。その、大丈夫よ。何でもないわ……」

  どうにか笑みを作ってそう返すも自分でも声が上擦ってるのが分かる。


  どうしよう……気付いてしまった……ここは、この世界は……
  私が前世でプレイした事のある乙女ゲームの世界だ!!


  Destiny lover~貴方と私の運命の恋~

  そんな名前のゲームだったと思う。
  えぇ、そうよ!  乙女ゲームと呼ばれるアレよ!
  説明はきっといらないと思うけど、ヒロインが様々な男性と出会い恋に落ちるゲーム。

  私の婚約者……マルク様は、そのゲームの攻略対象者の1人だった。

  ちなみに、もちろんヒロインは私では無い。
  ヒロインはその先日、聖女認定を受けたフレアーズ男爵家の令嬢エルミナ様だ。

  そもそも、この聖女とか言ってるのがもうすでにゲームっぽい。
  だって、この世界は魔法があるわけでは無いのよ?  なのに聖女って何なのさ。
  
  まぁ、聖女の役目は、定期的に聖堂に籠り祈りを捧げる事で国に平和をもたらすと言われている。いわば国の象徴的な存在だ。
 
  ──エルミナ・フレアーズ男爵令嬢。
  彼女こそがこの度、聖女認定された令嬢であり、かつゲームのヒロイン。

  ゲームは、ヒロインであるエルミナが、聖女認定を受けた所から物語はスタート。
  エルミナは私生児だった為、わりと最近まで市井で育っていて王城に招かれ混乱するも、持ち前の性格と天真爛漫の明るさで、慣れない王城生活を乗り切っていく。
  その中で出会った男性達と恋に落ちていく。

  うん。実に有り触れたどこにでもあるストーリー。
  ストーリーよりも美麗なグラフィックとキャラデザが人気だったのよ。

  なので、マルク様……見た目はカッコイイ。さすが攻略対象者だわ~……


  (って、ちょっと待って?  ……つまり、私はこれから婚約破棄されるんじゃ……?)


  私の記憶が確かなら、各々の攻略対象キャラにはもれなく婚約者がいたはずだ。
  このゲームは婚約者がいるのに、ヒロインと会って運命の恋に落ちてしまう……
  そんな背徳的な部分を売りにしていたから。

  ……だけど、現実になるとあれね、背徳的も何も単なる浮気男にしか思えないんだけど。
  今思うとはた迷惑なゲームだわ。
  
  そして、ヒロインに嫌がらせを行う鉄板の悪役令嬢役は、メインヒーローである第2王子の婚約者。
  つまり、私は悪役令嬢では無い!
  メインヒーロー以外の婚約者は、特に名前も出ないままポイ捨てされるだけの役割。
  だからセラフィーネ・ラグズベルクという令嬢の名前はゲームに全く出て来ない。
  

  (名前が出て来ないという事は、私はモブ!  ううん、モブ以下よ!  婚約破棄される以外にこの世界での私の役割なんて無いんだわ!)

「……」

  婚約破棄されるというのなら、その後の私は自由に生きてもいいのでは?
  10年も婚約していた人に破棄されるのだ。当然、次の婚約が難しい事は私にでも分かる。
  なら、無理に結婚なんてしなくてもいいじゃない!
  そもそも、貧乏伯爵家と縁を結びたい貴族なんて居ない。
  クレシャス侯爵家は遺言があったから婚約してくれていただけだ。

  祖父の遺言を遂行出来なくなる事だけが心苦しいけれど、こればっかりはどうにも出来ない。
  だって“運命の恋”だもの。勝てないわよ。

  正直、今から押し付けるのは申し訳ないけど……妹がいるから、我が家を継ぐのは私でなくても大丈夫だろうし。
  それなら、私は私で自分の生きていく道を見つけたい。

  マルク様もヒロインもその他の攻略対象者も、王城でどうぞ好きに乙女ゲームの展開を繰り広げてくれて構わないわ。

  最終的にヒロインが誰とエンディングを迎えるかは知らないけど、マルク様のあの様子から言って、もうすでにヒロインに心惹かれているのは間違いない。
  だからおかしかったのね……
  だって、今思えば浮気男そのものの挙動不審さだったわ……

  これなら、他の攻略対象者も遅かれ早かれ同じ事になるだろう。
  ゲーム補正ってやつもあるのかもしれない。

  (まさか、ゲームの世界に転生する事が本当にあるなんて、びっくりよ。しかも、それが“デスラバ”の世界だなんてね)

  すでにゲームの物語が動き出しているのなら、婚約破棄の申し出はこれからそう遠くない日に起こると思われる。
  なら、私は私の準備をしなくては!

  今世は、一応貴族令嬢としての生を受けて18年生きてきたけど、前世の私は結婚もせずにバリバリのキャリアウーマンとして働いていた。
  今の私にやれる事は限られるかもしれないけど、働く事に抵抗も無いし、きっと1人でも生きていける。

「よーし、やるわよー!!」

  私は自分自身に気合いを入れた。  

「へ?  何が!?」

  ずっと何かを考え込んでた私がいきなりそんな声を上げたものだからレイラは目を丸くして驚いていた。

 
しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

21時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

処理中です...