短い話

すいせーむし

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正夢

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 気分が悪い。
 どうやら、夢を見ていたらしい。
 とても嫌な夢だった。それはもう、忘れてしまいたくなるほど嫌な夢だ。
 夢は三部構成になっているなんて話をどこかで聞いたことがある。
 確かに、今日は三つほど夢を見た気がする。二部と三部も何か嫌な内容だった気がするが、それらを忘れてしまうほど、最初の内容が頭にこびりついている。

 昔、好きだった人の結婚式があったことをSNSで知る夢。

 そんな夢を見たせいで、起きてすぐ、憂鬱な気持ちが加速した。
 伝えられることもなく、招待をされることもない。その人との距離感を感じた。
 距離感は夢に見るまでもなく、もう見えないほど遠くにいる人物だ。二度と会うこともないだろう。
 つまり、もう、会うこともない人の夢だった。なのに、こんなにも感情が揺れ動くのは何故なのか。

 後悔をしていた。

 もっと上手くやれた。もっとたくさん話せた。もっと一緒にいれた。
 そう思っているのだ。今更、何も出来ないことを分かっているから、後悔したふりをしていた。
 もしも、過去に戻れたとして、私は何も変わらない。何も変えることが出来ないはずなのに。
 やり直しが効かないことをいい事に、成功できたのに失敗した人でいようとしている。
 それに気づけば、ただただ惨めだ。
 どうしようもなく、縋っている。何処かで期待をしている。

 夢に見たからといって何か変わることはない。明日、電車であの人に会えるわけでも、久しぶりに連絡を取ることもない。ただ、後悔をできるという甘えが首を絞めただけ。そう思えば、期待なんてせずに済む。
 分かっていてもやめられない。何かの予兆を信じてやまない。
 自分を罰する思考の波は止まることを知らず、朝の支度中も続いていた。
 そのせいだろうか。私は眼鏡を落として割ってしまった。
 どこかデジャヴを感じた気がする。

 しかし、また何かミスをしてもいけない。私は現実逃避をするために、スマートフォンを手に取る。慣れた指の動きで好きな音楽を流す。これを聞けば、少しは気分を一新できるだろう。
 ホーム画面にもどり、ふと、あるSNSのアプリが目に入る。

 いやいや、まさか。そんな訳はない。

 そう思いながら、アプリを開く。そして、あの人のアカウントを見る。
 私は頭を抱えた。そこには『結婚式』と書かれた投稿とともに複数枚の幸せに満ちた写真があった。
 正夢…そういう事だろう。初めて経験した。
 それにしても、贅沢な後悔が夢として現れただけだと思っていたが、まさか現実になるとは。
 あの人が結婚した事よりも、正夢を見たという奇跡の方に思考が傾く。
 嬉しいような、怖いような…。
 正夢という事象に目を向けて、最初に見た夢の印象が薄れたせいか、夢の三部構成の二部と三部の内容を思い出した。
 二部の夢、それは自身の使っているメガネを割るという内容の夢だった。そして、それは先ほど現実で経験したこと。

 ははーん。なるほど。

 二度あることは三度あるという。
 つまり、三部の夢も現実になるということだろう。
 私はまた、頭を抱えた。

 三部の夢はあの人と会って話をするという内容だった。
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