或ル古物商ノ話

すいせーむし

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三話 水着少年飛び出し事件 其の弍

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 私達は地落市立第二中学校に勤務する"岩山 伸彦 イワヤマ ノブヒコ"に連れられて、校内を歩いている。
 彼は生徒指導部で体育教師らしい。何というか、あまり偏見で人を判断したくはないが、見た目と名前通りの役職といった印象の人物だ。時代が時代なら、彼は竹刀を持って学校を闊歩していたに違いない。
 そんな彼はある一室の前で立ち止まる。私達は彼の大きな背中から部屋を覗く。
 ドアの上には、生徒指導室と書かれた室名札が貼られている。
 そうして、彼は中へ入れと言わんばかりに私達を見下していた。
 え?ここに入るの?私達、生徒だと勘違いされている?そんなに、若い?
 少し浮かれてしまいそうにもなるが、首を横に振る。彼は私達を不審者として迎え入れた(不審者を迎え入れるなんておかしな話だが)。つまり、学生だなんて毛頭思われていないのだ。

「にしたって、生徒指導室なんて学生時代にも入ったこと無いわよ!」

「ワイだってないわ!…ほとんど」

「ほとんどってことは、アンタ…」

 イワヤマさんに聞かれないよう、ヒソヒソと2人で話す。彼はそんな私たちの様子を見て、深いため息を吐く。

「どうぞ、こちらに」

 そう言って急かされては、不審者の私達にはうつ手がない。警察でも呼ばれてしまってはおじさんに迷惑がかかる。それだけは避けなくてはと、彼に言われた通り、私達は生徒指導室へと入った。
 指導室には大きめのソファが2つ、その間に机があり、探偵事務所の応接室と似たような内装だ。
 ミタマは促されるまでもなく、上座に座る。わざとやっているのだとしたら大した人間だ。まぁ、ミタマに限って上座下座を知らないわけが無いので、彼はわざとやっている。大した人間なのだ。それについて、イワヤマさんは何も言わないので、私も指摘せずにミタマの隣に座る。
 イワヤマさんは部屋の隅にあった電気ケトルで沸かしたお茶を入れている。そうして、暖かいお茶を差し出されてしまった。
 あれ。もしかして、私達は迎え入れられているのだろうか。不審者ではなくお客様だったのか。だとしたら、ミタマが上座に座ったのは正しかったのかもしれない。
 まぁ、そんな訳もなく、一杯のお茶を飲み干し、私達の目の前にどかっと座ったイワヤマさんに問いただされる。

「それで、貴方たち一体何者ですか?」

 彼は明らかに、私達を怪しい者として見ている。そんな相手にお茶を出すなんておかしいような気もするが、そもそも、学校に入れられた時点でおかしいので気にしないでおこう。
 そうして、私は彼の疑念を晴らすべく、名刺を手渡し名乗りをあげる。

「私は⚪︎×探偵事務所の可不可 風鈴と申します」

「ワイは会計してる三珠 梁やで~」

 私の自己紹介に続いてミタマも名乗る。
 イワヤマさんは渡した名刺をじろじろと眺めている。この名刺が偽物だったのであれば、詐欺罪である。もちろん本物だ。偽物だったとしたら、本当に私は何者になるのだろうか。探偵でも警察でもない、終わった事故を追う怪しい人物…事故の話を集めるコレクター?いや、そのような人物がいてたまるか。それこそ、正真正銘の不審者である。
 思考を加速していると、私の身分を認めたのか彼は納得したような顔をして頷く。

「なるほど、探偵なんですね。まぁ、誰でもいいんですけれど…困ります。例の事故で学生1人が亡くなっているんです。それを根掘り葉掘り聞き出して…生徒を不安にさせるような行いは控えていただきたい」

 威圧的な態度でイワヤマさんは怒りを露わにする。大事な生徒を守りたいのだろう。その気持ちは理解できる。しかし、私達も聞き込みを諦めるわけにはいかない。私は思い悩む。
 すると、そんな彼の言葉を聞いていたミタマがニヤリと笑みを浮かべた。

「そやなぁ。それに関しては以後、気ぃつけるわ。となると、生徒を不安にさせへんようにワイらは調べものせなあかんなぁ」

「聞き込みするってなったら、生徒じゃなくて、学校に詳しくて、ルイ君について知ってそうな人を探さなあかん訳やけど」

「そんな人、おるかなぁ?」

 ミタマはイワヤマさんの顔をじろじろと見ながら続ける。

「あぁ!そういやぁ、イワヤマ先生は学校の教師やったなぁ!それに、体育教師。水泳の授業の時は、生徒の指導するために一緒にプール行くよなぁ?」

 私ははっとする。そうだ、体育教師。その役職に就いた人物であれば、水泳の授業に指導者として参加することになる。であれば、あの日、イワヤマさんはルイ君と一緒にプールにいたはずだ。

「話、聞かせてもらえへん?」

 その時のミタマの笑みは、獲物を狙う肉食獣のような表情であった。

「何故、私が貴方達にあの事故の日の話をしなきゃいけないのですか!」

 その顔を見たイワヤマさんは話す理由がないと声を荒げる。それはそうだ。私達から見れば彼は重要な情報源になりうるが、彼から見れば私達はただの迷惑人である。
 そんな迷惑人を校内に入れたことにはやはり違和感がある。それに私達を連れ込むのであれば、空き教室や職員室など場所があるだろう。そこで彼のホームともいえる生徒指導室を選ぶあたり、怪しいと思わざるを得ない。

「じゃあ、何で私達をここに連れてきたんですか。何か、話すつもりだったのでは?」

 イワヤマさんは私がそのようなことを指摘すると思っていなかったのか、虚を衝かれたといったふうに顔を顰める。
 そうして、数秒の沈黙の後、ため息混じりに口を開いた。

「はぁ…そうですよ。最初から話すつもりでした。私も思わないところがないわけではないですから」

「せやろうなぁ。じゃあ、さっきは何で話さなきゃいけないんだ!何でキレとったんや?」

「そりゃ、まぁ…売り言葉に買い言葉だったと言いますか…。はぁ、わかりましたよ。あの日のこと、話します。それで、生徒や私以外の教師にも関わるのをやめてくださいね」

 ケラケラと笑うミタマの横で、私は頷く。まぁ、その約束を守れる保証はないが、話を聞くだけ聞こうではないか。

         ◇◇◇

 私は御形流維の在籍していた地落市立第二中学校3年C組の担任で、体育教師で、生徒指導を任されている教師だ。
 オガタは覇気のない生徒だった。友人を作らず、部活にも所属しておらず、学業に専念していたようには見えない、そんな学生だった。
 しかし、ある日、学校に眼鏡をかけてきた日を境に自己肯定感が芽生えたのか彼はよく笑うようになった。視力が落ちたという訳ではなさそうだったが、何か言うほどのことでもないと私はそれを黙認した。相変わらず友人は作らず1人で過ごしていたが、担任として、また、生徒指導部として彼の変化は好ましく思っていた。
 そして、事故のあったあの日、水泳の授業があった。体育教師である私は勿論、生徒達と共にプールへと向かった。そこでオガタがゴーグルもせず眼鏡を掛けたまま、授業に出席しようとした。私は安全面のことも考慮して流石にその行動を止めた。すると、彼は露骨な仮病を使った。もしかしたら、水泳が苦手だったのかもしれない。しかし、周囲には別の生徒もいた。そのため、仮病を押し通すわけにもいかず、彼には眼鏡を外して授業に出席してもらった。
 そうして、水泳の授業が始まるとオガタはやはり水泳が苦手だったのか溺れていた。だが、様子がおかしい。なんというか、昔のように無気力というか、それを通り越して挙動不審になっていた。周囲をキョロキョロと見渡し、時折頭を抱える仕草をして何かに怯えているようであった。
 仮病に見えたが、実は本当に体調不良だったのか。そう考えて彼に声を掛ける。

「本当に体調不良だったのか?」

 彼は頷く。ならば仕方ないと私は彼をプールから引き上げ、更衣室へと送った。私は彼に保健室へと向かうように指示をしたが彼は何処か上の空で不安だった。そのため、保健委員の人物に彼を送るよう頼もうとプールへと戻った時、更衣室の方から悲鳴が聞こえた。
 その甲高い声が誰のものであったか、考えるまでもなくすぐ理解した。
 私は更衣室へと走る。そこには既に誰もおらず、水でできた足跡が校内へと向かっているのが見えた。
 悲鳴は止まず、足跡もある。彼の向かう方向が分かった私は勿論、彼を追いかけた。
 しかし、彼を捕まえることはできなかった。
 
 衝突音だけが耳に残っている。最期は悲鳴も聞こえなかった。

 私は、大事な生徒を見殺しにした。

         ◇◇◇

「まぁ、はい。こんな感じです。あんまり、人に話したいようなことではないんですが、これでいいですか?」

「えぇ。ありがとう」

 話は先程聞き込みをした時に大方聞いたものと同じ内容であった。更衣室から飛び出し、水着姿のまま校内を爆走、そのままトラックに轢かれて…。しかし、やはり肝心なところがわからない。

「イワヤマさん。アナタ、なんでルイ君が更衣室から飛び出して行ったのか、何か見当はつかない?」

「そうですね…やはり、体調不良が原因だと思いますよ。高熱で幻覚を見るっていうのはない話ではないですし。その結果招かれた…事故だったのだと思います」

 彼は目を伏せてそう口にした。確かに納得のいく内容ではあると思う。最初の聞き込みで耳にした、何かから逃げている様子というのも熱が見せた幻覚からの逃走だったのかもしれない。しかし、何か引っ掛かる。

「あ、せや。ルイ君、叫びながら走って行く時にサングラス掛けてたみたいなんやけど、イワヤマ先生それについては何か心当たりない?」

 その言葉にイワヤマさんは頭を捻る。

「サングラス、ですか。いえ、知らないですね。先程申しました通り、眼鏡は掛けていましたが、サングラスは特に…」

 まぁ、伊達眼鏡を許容したイワヤマさんでも流石に学校にサングラスを掛けた生徒が登校すれば、理由がなければ指導の対象であろう。
 となると、このサングラスが事故の鍵を握っているのではないだろうか。
 これを掛けたのは、きっとプールから戻ってきた更衣室でのひと時であろう。

「あれ?そういえば、眼鏡ってどこに行ったのかしら。サングラスはまぁ、事故の件で警察が持って行ったとしても、眼鏡は更衣室にあったはずよね」

「確かにそうかもしれませんが、突然の出来事でしたからロッカーを確認なんて出来ませんでしたよ。その後、彼の私物がどうなったかは…保護者か警察が知っているんじゃないですか」

 イワヤマさんは更衣室から飛び出したルイ君をすぐに追いかけた。そのため、眼鏡の所在は知らないようであった。しかし、そもそも、事故の手がかりになりそうな物はサングラスであって眼鏡ではない。ならば、無理に調べる必要もないだろう。
 私達が口を開かなくなると、イワヤマさんは先程入れたお茶を一気に飲み干して「ふぅ」と一息つく。

「他に聞きたいことはないですか?」

「えぇ。大丈夫よ。ミタマ、アナタは?」

「所長サンがないなら、ワイもないで~」

「であれば、校舎の外まで送ります。もう学校には近づかないでください」

 私達はイワヤマさんの後ろを歩き、まるでお客様の如く、校外まで案内された。

          ◇

 私達は地落市立第二中学校の校舎を後にする。しかし、困った。まだまだ、事故の原因は突き止められてはいないのに、イワヤマさんから学校には近づくなと釘を刺されてしまった。もしかしたら、今も彼に見られているかもしれない。これでは、学校周辺でこっそり続けようとしていた聞き込みも再開できそうになかった。
 私は行く当てもなく、校舎から離れる道を歩く。ミタマもそれに続いて私の後ろを歩いていた。

「にしても、所長サンよかったの?あのおっさん、嘘ついてたわけやあらへんのやろうけど、なんか隠しとったで?」

「え?」

 私は振り返り、首を傾げる。

「いや、だから。なんか隠してたでって」

「聞こえてたわよ!なんでさっき言わなかったの!」

 私は声を荒げた。そんな重大なこと、学校を出た今更言われてもどうしようもない。

「だって、あんさんが聞きたいことはもうない言うとったから、気づいた上であえて泳がせとるんか思ったんよ」

「はぁ…!?」

 彼のニヤケ面が頭にくる。
 今から学校に行けばまだ話を聞けるだろうか。いや、隠していたのならそもそも聞き出せるようなことではないか。それに、今度向かえば通報される恐れもある。下手に動いて、おじさんに迷惑をかけたくはない。深呼吸をして冷静になる。
 今出来ることは彼が何を隠していたかを考えることだ。

「まぁ、いいわ。で、何を隠してたと思う?」

 彼の意見を聞こうではないか。何か隠したと思い至ったのは彼であって私ではない。ならば、何を隠していたのか予想の一つや二つくらいあるだろう。そう、決して私が何も思いつかなかったために聞いたわけではない。
 そのような、思考が彼に漏れたのかは知らぬが私の言葉を聞いた彼は一瞬口角を上げた。そして、腕を組み頭を捻らせる。

「う~ん、そやなぁ…いじめのこととかちゃう?話に一言も出ぇへんかったやろ」

 確かにそうだ。彼の口からいじめという言葉は一言も出てはこなかった。生徒指導部の教師という立場であれば、人一倍敏感なはずなそれに、同クラスの生徒が見て見ぬ振りをしていたそれに、気づいていないとは考えにくい。

「なるほどね…でも、なんでいじめのこと、隠してたのかしら」

「今回の件と関係あるかは知らんけど、あのおっさん、生徒指導の先生でルイ君の担任やったんやろ?そりゃ、隠そうともするんとちゃう?自分のクラスでいじめがあったのを知られる、職務怠慢バレもいいところやろ」

「だから、聞き込みで生徒からいじめという言葉をワイらが聞く前に。自分の腹ン中連れ込んで、言葉選んで話して、いじめに触れずに納得させるつもりやったとか?まぁ、その前にワイらはいじめについて聞いとったんやけどな」

 つまり、彼は情報の一部を隠して提示することで、いじめを無かったことにして、責任逃れをしようとしたのだろう。ミタマの予想が事実であったのならば、よくもまぁそんな思考を持ちながら"私は、大事な生徒を見殺しにした"なんて言葉を口にできたものだ。
 私は拳を強く握りしめた。彼をぶん殴ってやりたい。しかし、そんな暴力は無意味だ。もっと、正しく彼を成敗しよう。

「ミタマ」

「なんや?」

「聞き込み、続けましょう。いじめについても、ルイ君が車道に飛び出した理由も、全部私が暴いてやるわ!」

 ミタマは帽子の鍔を掴み表情を隠す。しかし、口元は笑っているように見えた。

「了解やで、所長サン」

 私達は学校から少し離れた、通学路で聞き込みを再開した。

          ◇

 それから数時間、道行く学生に片っ端から声をかけて回ったが、今まで出た以上の情報が出ることはなかった。
 行動に見合わない成果からか疲労感を感じ始める。私達は丁度そこにあった公園のブランコに座り一休みすることにした。

「それにしても、さっきの話…よく気づけたわね」

「ん?何がや?」

「何って、イワヤマさんが何か隠してたことよ」

「あぁ、それかいな」

 ミタマは、「せやなぁ…」と先程のことを思い出しているのか、顎に手を当て考える素振りを見せる。

「あの人、話しながらめっちゃ手ェ動かしとったんよ。それで、口元隠したりしとったから気になって、目ェ合わせたろ思て見とったらすごい目ェ逸らしとったんよ」

「そういう仕草って、まぁ基本的に隠し事したりしてる時に無意識に出る仕草やからな。まぁ、なんかあると思ったんや」

「な、なるほど…」

 悔しいが、彼にはどこで培ったのか、私の持ち合わせていない鑑識眼がある。それにより、助けられたこともしばしばだ。私よりも彼の方が探偵に向いているなんて考えることもあった。しかし、私は諦めない。彼から学べるものはとことん学ぼうと、手帳にメモを取る。
 それを見て調子に乗ったのか、ミタマはさらに言葉を発する。

「所長サンは優しすぎるんやて。人は基本悪やと思いぃ?もっと、疑え。そんで、人の表情とか仕草とかよく見とくべきや。名探偵になりたいんやったらなぁ?」

 煽るような言い方に少しイラッとしたが、言い返せそうにない。

「わ、分かってるわよ!」

 私は悔しまじりの言葉を口にする。そうして、ブランコのチェーンを握りしめた時、がしゃんと音を立てて私の座っていたブランコの座板が地面に落ちた。
 私は「きゃっ」と軽く悲鳴をあげて、そのまま尻餅をついた。

「いたた…」

「所長サン、無事?立てるか?」

 隣に座っていたミタマは立ち上がって私に手を差し伸べる。それを握って起き上がり、座っていたブランコを確認すると、私の強く握った鎖部分が切れていた。

「なんや、めっちゃ錆びてて、今、丁度崩壊したっちゅう感じかな?」

 危なかった。私達は座ってブランコを利用していたが、これがもし漕いでいた時に崩壊したらと考えると、恐ろしい。

「ケガ、ない?」

 ジンジンと痛むが、ケガはしていなさそうだ。私は頷く。

「ほうか、ならよかったわ」

 彼は私の手を離す。
 こうなると分かっていたら、ブランコになんて座っていなかったのにと少しだけ考えてから首を振る。いやはや、子どもたちが遊んでいた時ではなく、私が座っていた時でよかった。
 あとで、市役所に連絡をしよう。そんなことを思いながら、同時に仕事の進捗を憂いて独り言を呟く。

「あんまり休んでるじゃないって、神様のお告げかしらね」

 それを耳にしたミタマは顔を顰めて上を指差す。

「やとしても、もう夕方やで?」

 彼に促されるまま、空を見れば太陽は沈みかけ、オレンジ色が広がっていた。黄昏時というやつだ。この時間になるとほとんどの学生は家に帰っているに違いない。だとすると、これ以上の聞き込みも難しそうだ。

「確かに、そうね。じゃあ、今日は撤収しましょうか」

「了解~」

 私達は事務所に戻ろうと、歩み始める。その時だった。

「あの!」

 背後から声をかけられた。それは少年の声であった。振り返ると、夕日を背後にして全身真っ黒に見える誰かが立っている。

「えーっと、何かしら?」

 私の問いかけに、表情も見えない少年は震える声で一言、口にした。

「ルイ君のことを調べているのって、貴方達ですか?」

          ◇

 私は彼を警戒する。真っ黒なその姿と声から得られるのは、彼が中学生くらいの男性であるということのみ。ルイ君のことを知っているということから、地落市立第二中学校の学生だと考えられる。となると、私達の知らないルイ君の情報を持っているかも知れないが、イワヤマさんの差金である可能性もある。
 さて、どう受け答えをしたものかと頭を悩ませていると、ミタマが口を開いた。

「あんさん、何もんや?」

「えっと、僕…天音 京 アマネ キョウといいます。ルイ君と同じクラスで、もし貴方達がルイ君について調べている人達だったら…あの日の話を聞いて欲しくて」

 どうやら、イワヤマさんに言われてここに来たということはなさそうであった。

「えぇ、私達がルイ君について調べている人達で間違いないわ。私が探偵の可不可 風鈴でこっちが、助手の三珠 梁よ」

 ミタマは最早諦めたのか、助手ではなく会計だというツッコミも入れない。

「それで、キョウ君。話って何かしら?」

 気を取り直して、私は彼に問いただす。
 日の光に目が慣れてきて、彼の表情が薄らと見える。彼は今にも泣きそうな顔をしていた。

「聞いて欲しいのは、あの日犯した、いや今まで犯し続けていた、僕の罪についてです」

 そうして、彼は語り出す。ルイ君の身に起きた悲劇について。
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