壊れた勇者と湧いて出た私

白玉しらす

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円卓会議

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「おはよう。なんだ、もう終わっちゃってたんだ」
 明け方近くまでアレンにされるがままされて、意識を失うように寝ていたら、イザムバードの声で起こされた。
「まだ続いていたら混ぜてもらおうと思ったんだけど」
「混ぜる訳無いだろ」
 不機嫌そうに起き上がったアレンの動きに布団が捲れて、私は慌てて布団を引っ張った。
 アレンも私も裸のままだ。しかも身体はベタベタしている。
「アレンがそんなにキスマーク付けるなんて珍しいね。ひょっとして所有印ってヤツ?やらしいなあ」
「ああ、誰かに取られないようにな」
 完全に見られていて、私は恥ずかしさから布団に潜り込んだ。
「食事もこっそり運ばせとくぐらい気を遣ってあげたのに、酷い言いようだね」
 昼過ぎから寝室に籠もっていた私達も、夜になると食事の為に一度寝室を出た。
 すると応接のテーブルに食事が置かれていて驚いたけど、イザムバードが用意してくれたようだ。 
「そこらを歩いていた若い騎士見習いに、エロい声が聞こえても気にせず覗かず、そっと置いておくように頼んだんだ。あの騎士見習い、きっとアイの喘ぎ声を思い出して、右手が止まらなかっただろうね」
 いやもう、本当に勘弁して欲しい。恥ずかし過ぎて、脂汗が出る。
「相変わらず、悪趣味だな」
「そんな話をしに来たんじゃないんだった。もうすぐフレデリックとロゼッタが来るから、支度した方がいいよって伝えに来たんだ。そろそろ急いだ方がいいよ」
「それを早く言え。そしてさっさと出ていけ」
「要件は伝えたからね。もう出ていくよ。ああでもアイ」
 イザムバードが隠れたままの私に話しかける。
「この部屋、凄くいやらしい臭いがするから、換気した方がいいよ」
 どれだけやったんだかと言う言葉を残して、イザムバードは去っていった。
 もう布団から出たくなかった。


 恥ずかしさに逃走も考えたけど、逃げるにしても裸のままでは逃げられない。
 大急ぎで身なりを整えると、殿下とロゼッタがイザムバードと共に部屋へやってきた。
 逃げる暇が無くて仕方なく皆で円卓に座る。
 窓際の椅子は片付けられ、円卓にアレンもいる。それだけは素直に嬉しかった。
「あー、その、とりあえず、良かったな」
 複雑そうな顔をして、殿下がアレンに声を掛けた。
「心配をかけて悪かった」
「いや……アイも、大丈夫だったか?」
 それは、何の心配なのか。ちらりとイザムバードを見ればニヤニヤと笑っているから、まあ、その心配なんだろうな。
「お気遣い無く」
 そう言った私の声は掠れていて、殿下は無言で寝室の方へ視線を向けた。やめて。
「それで、これからの事なんだが……」
「勇者は今まで通り壊れたまま、世話役と共に王宮から厄介払いした。そう言う事にして欲しい」
 アレンが殿下の話を遮った。
「それは、どう言う……」
 私の首元に付けられたキスマークを、顔を赤くしながらチラチラ見ていたロゼッタが、不思議そうに尋ねる。
「俺は皆の様に上手く立ち回れない。誰かに利用されると面倒だ。魔王を倒したんだから、もう勇者なんていない方がいい」
「……イザムバードから聞いた。呪いは内側からなら、アレンなら解ける物だった。それなのにお前は、呪いを解かなかった」
 殿下は苦い顔でアレンを見つめている。
「最初は解くつもりだったんだ。ただ、ここに戻ってきてから、俺の前に現れた人間を見る内、このままの方がいいんじゃないかと、そう思ったんだ」
「すまないな……」
「別に、フレデリックが謝る事じゃない。むしろ、面倒事から逃げて、皆に心配を掛けた俺が謝るべきだ」
 そう言うと、アレンはすまなかったと言って頭を下げた。

「イザムバードは、最初から分かっていたんですか?アレンなら呪いが解けるって」
 ロゼッタがイザムバードに尋ねる。
「まあね。ただ、本人に呪いを解く気が無いみたいだったから、解かずにはいられない状況を作ろうと思って。だから、探しに行ったんだ」
「探しに行くと言うのは、解呪方法じゃ無かったんだな。何を探しに行っていたんだ?」
 フレデリックの問いかけに、イザムバードはニヤニヤ笑いながら私を見た。
「美人で気丈、そのくせどこか不安定で惚れた男には全てを捧げてしまう。そして、快感にはすこぶる弱い。そんな子を探しに行っていたんだよね」
「おい、やめろ」
 なんか、どこかで聞いた事のあるセリフだ。
「酔っ払うといつも言っていたアレンの理想のタイプだよ。ちなみに、僕も完全同意だね」
 私の左側に座っていたイザムバードが、私の手を取り口づけを落とした。
「だから、やめろって言ってるだろ」
 アレンが私の手を引ったくるようにして、そのまま椅子ごと私を引き寄せた。
「僕とアレンは女性の好みがそっくりでね。いつも同じ女性を取り合っていたんだ。だから、理想的な女性を充てがって、横から掻っ攫ったら起きてくるんじゃないかなって思ったんだ」
「理想的?」
 イザムバードの言葉に、尋ねるようにアレンを見ると、ふいっと顔を背けられてしまった。
「アイはそんなんじゃない。気丈でもないし案外間抜けだ」
 明け方まであんな事をしておきながら、酷い言われようだ。
「違うなら僕にちょうだいよ」
「でもだから、特別なんだ」
 顔を背けたまま告げられた言葉に、私の顔は赤くなる。
 そんな私達を見て、殿下は勝手にやってくれと言った顔をして、ロゼッタは手を口に当てて小さくまあと言った。
 イザムバードは気にした様子もなく、楽しそうに笑っている。
「それは、奪い甲斐があるな」
 私の髪を一房手に取り、口づけを落としたイザムバードは、いつの間にかワイルドイザムバードに姿を変えていた。
「だからやめろって言ってんだろ!アイも満更でも無い顔するな」
 アレンは立ち上がると私と席を交換した。

「あの、アイはこれからどうしたいですか?私は、アイの希望を全力で叶えたいと思います」
 隣になったロゼッタが、決意みなぎる顔で聞いてきた。
「出来れば普通に暮らしていきたいと思っているので、働くのに必要なもの、戸籍とか保証人的な物が必要なら、それが欲しいです。殿下」
「あ、ああ。意外としっかり考えていたんだな」
「そりゃもう、お役御免の後の事も、きっちり交渉しようと思っていたので」
「お役御免って、なんだよ」
 アレンが怒ったような顔で割り込んできた。
「もうアレンのお世話は必要ないし、ここにいる理由もないし」
「晴れて自由の身、みたいな顔をするな」
「え?自由じゃないの?」
「さっきも言っただろ。壊れた勇者は世話役と追い出されるって」
「世話役?」
 私が自分を指差すと、アレンは当然だと言った風に頷いた。
「アイはどう言うつもりで、一晩中俺に抱かれたんだ。俺はもう離すつもりは無いからな」
「な、なんで人前でそう言う事を言うの!」
 殿下は勝手にやってくれと言った顔をして、ロゼッタは……って、さっきも同じ反応を見たな。
「だから、どう言うつもりで全部あげたいとか好きにしてと言ったんだ」
「うわー!やめて!ほんとすみませんでした!」
 私達のやり取りに、イザムバードが声を出して笑いだした。
「アレンに愛想が尽きたら俺がいる。いつでも俺の胸に飛び込んでこい」
「イザムバード、お前は後で殴ると決めていた。今すぐぶん殴ってやる。表に出ろ」
「言っておくが、お前が壊れたまま、アイを俺の物にしても良かったんだぞ。お前が知らないところでな」
「二人共いい加減にしてください。アイの希望が最優先です!」
 ロゼッタが私を引っぱり身体を寄せた。何だかモテモテだ。モテ期到来だ。
「アレンの望みは叶えるとして、アイはどうする?このまま王宮にいて貰っても構わないが」
「フレデリック、まさかアイを愛人にしようとか考えて無いですよね?」
 ロゼッタが私の腕にしがみつき、フレデリックを牽制した。
「考える訳無いだろう!私まで巻き込むな!」
 良かった。これ以上の混沌は回避された。

「アレンは城下に住む場所を用意させる。今後の事はそこでじっくり考えろ!イザムバードは勇者の呪いが解決したんだから、さっさとエムリスに戻って三賢者として働け!ロゼッタはアイが今後の身の振り方を考える為にも、この世界の事を色々教えてやってくれ。アイもしっかりと勉強するように。以上、解散!」
 有無を言わせぬ殿下の剣幕に、部屋は静まり返った。
「では、アイは今日から私と一緒に過ごしましょうね」
 組んだ腕はそのままに、うふふと笑うロゼッタに連行される。
 アレンとイザムバードが口を開こうとすると、殿下がギロリと睨みつけて黙らせていた。
 第三王子とは言えやはり王族だからか、それなりに威厳があった。
 こうして、私とアレンの共同生活は、一先ずの終わりを迎えた。
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