癒やしの巫女と業務隊長

白玉しらす

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4.先生といると調子が狂う

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 そろそろ昼休憩かと窓の外を見ると、フラフラ歩く先生が見えた。
 何かを探すような仕草に迷ったのかと思い、外に出て声を掛けると、予想外に驚かれてしまった。
 先生は慌てた様子で何か言っていたが、潤んだ瞳で熱っぽい視線を送られて、話を聞くどころではなかった。
『性的に気持ちよくなって、イッちゃうんです』
 癒やしの力を使うとそうなると言っていた先生を思い出す。今まで治療をしていたと言う事は、そう言う事なんだろうか。
 先生は走れる場所を教えて欲しいと言ってきたが、こんな状態の先生を一人にする訳にはいかない。
 一緒に建物の外周でも走るかと、案内をしながら考えるのは先生の現状についてだ。
 男だったら抜けばスッキリするんだろうが、女性の場合はどうなんだ?
 走るよりも部屋に送り届けた方がいいんじゃないだろうか。
『いつも男の人に慰めてもらっていたんですよ?』
 先生の柔らかな身体と、石けんの甘い香りが思い出される。

 いや、そう言う意味で部屋に送り届ける訳ではない。女性だって一人で解消する方法はあるはずだ。あの張型みたいに。
「たいちょーさーん、まってー」
 先生の声に後ろを振り返ると、先生が駆け寄ってくる所だった。
 大きく揺れる柔らかそうな胸に目が釘付けになる。
 実際、抱きしめた時柔らかかったなとか、そう言えば昨日もこんな事があったなとか、思い出している場合ではない。
 まだ昼休憩前で人の姿が無いからいいものの、休憩のラッパが鳴ったら、あっと言う間に人が増える。そんな中で先生が走ったら、不埒な事を考えるヤツが続出だ。
 ラッパが鳴る前に人目につかない場所に行く為、俺は何も言わず走り出した。
「ねーえ、たいちょーさんっ」
 先生も付いてきてくれているようで安心して振り返ると、そこにはスカートを持ち上げて走る先生がいた。
 白い足が見えているのも気にせず、必死に走っている。だから、そんな姿を見たら、不埒な事を考えるヤツが続出だろうが。
 今にもラッパが鳴りそうな気がして、俺は更にスピードを上げた。
 
 
「はあ、はあ……たいちょー、さん……」
 何だ、その事後のような呼びかけは。
「いきなり走りださないでください」
 不満げな先生に、胸と足の事を指摘しようとしたが、上手くできなかった。
 下から突き上げてもっと揺らしてやりたいとか、太ももに顔を挟まれながらあちこち舐め回したいとか思われたらどうするんだ、なんて言える訳がない。
 いや、そこまで言う必要は無いのか。駄目だ、気が動転している。
 人前で一人で走らないよう釘を指すと、無理だと言われ、微妙な空気のまま戻る事になった。


 建物が見えてきた所で、昼休憩を知らせるラッパが鳴った。
「わ、もうお昼ですね。私約束があるんで、行きます」
「約束?」
 昨日来たばかりで、誰と約束したんだ?
「リリーさんが、男ばかりでむさっ苦しい中食べるご飯はおいしくないだろうから、女子寮の食堂で一緒に食べようって。昨日の晩ごはんもそこで食べたんですが……ダメだった?」
「リリーって、下女のリリーか?」
「そうです。昨日ここのことを教えてくれた、リリーさん」
 先生は嬉しそうににこにこと笑っている。
 確かに、食事だけなら騎士の食堂で食べるより、女子寮の方が安全か。
「……リリーは俺の事、何も言ってなかったか?」
「隊長さんのこと?」
 リリーの名に思わず聞いてしまったが、自意識過剰もいい所だな。
「いや、何でもない。これからも食事は女子寮で取るといい。近くまで送っていく」
 女子寮に向かい歩き出すと、先生が小走りで付いてきた。
 女性と並んで歩くなんて久しぶり過ぎて、ゆっくり歩かないといけない事をつい忘れてしまう。
「すまない」
「いえ、むしろ一人で行けるんで、隊長さんもご飯を食べに行ってください」
「さっきみたいに、フラフラ歩いていると危ない」
 声をかけられたら、どこにでもホイホイ付いていきそうだ。
「今はもう、声をかけられてもホイホイついていって腰を……なんでもないです」
「今はって何だ、腰って何だ」
「もうだいじょうぶ」
 先生は笑って誤魔化している。

「そう言えば、リリーさんが業務隊のみなさんのことを教えてくれたんです。隊長さんのことも言ってましたよ」
「業務隊?」
 もう俺も、その括りにまとめられていると言う事か。
「これから一緒に働く人のことは、知っておいたほうがいいでしょって」
「まあ、そうだな」
「ええと、バートは意外とねちっこいとか、医官のロベルト先生は年のわりに元気とか。あとは名前が覚えられなかったけど、淡白だとか、とにかく早いとか、意外といいトコロをついてくるとか、一番ヤバイのは副隊長だとか」
 待て、それは正しい人物評価か?
「隊長さんは、昔は大きくて元気なことだけが取り柄だったけど、今はわからないって」
 やっぱり夜の評価なんじゃないか?何を教えているんだ、リリーは。
「その話は、忘れた方がいいな」
「隊長さんは、今は仕事もできますよって言っておいたんで、だいじょうぶです」
「……それは、大丈夫じゃないな」
 リリーの話の流れだと『しっかりイカせてくれる』とも受け取れる。変な誤解をされてないだろうか。
「リリーさんも驚いていましたが、ひょっとして隊長さんって、あんまりイカせてくれない人なんですか?」
 落ち着け、先生は『仕事が出来ない人なんですか?』と言ったんだ。
「いや、頑張っているつもりだが……」
「じゃあ、リリーさんにももっと、できる男アピールしておきますね」
 任せてくださいと張り切る先生に、嫌な予感しかしない。
「頼むから、リリーの前で俺の事は話さないでくれ」
「あー、誤解されると困ります?」
「そうだな」
 先生の様子だと、言えば言うほど俺と熱い時間を過ごした感じになりそうだ。
「りょーかいです」
 分かってなさそうな先生が呑気に答える頃、ちょうど女子寮の門の前に着いた。
「俺はここで戻る。治療が終わったら、午後からは休んで貰って構わない」
 どうも先生といると調子が狂う。
 先生に別れを告げて、俺も昼食をとりに食堂に向かった。


「おーい、セオー。ここ、ここ」
 トレイを持って空いている席を探していると、バートンに声をかけられた。
「何か用か?」
 バートンが俺に声をかけるのは、用事がある時だけだ。
「そう言う訳じゃないけど、今日からユイが治療を始めたんだろ?」
「来たばかりだから、数日休んでからでいいと言ったんだが、先生の好意でな」
「みんなその話で持ちきりでさー」
「まあ、そうなるだろうな」
 下女や娼婦以外の女性と言うだけでも珍しいうえに、先生は癒やしの巫女だ。癒やしの力を目の当たりにすれば、騒ぎたくもなるだろう。
「潤んだ瞳に、荒い息遣いが妙にエロいとか」
 そっちか。
「外套を着用するよう、指示しておいたんだが」
「治療の時だけフードで顔を隠すのも、秘められたエロスを感じてそそるとか」
 なんだ、秘められたエロスって。
「そっと身体に触れられて、危うく勃ちそうになったとか」
 まあ、ここは女性が少ないから、それぐらいは仕方ないか。
「実際ギンギンにおっ勃てたモノを、見せつけたバカがいたとか」
「誰だ、そのバカは!」
「見せられても反応が無かったから、そこは恥じらって欲しかった派と、無理して平静を装っていると考えるとグッとくる派と、そのまま事務的に扱いて欲しい派の三つ巴の争いになってた」
「全員バカか!」
「なんか最終的にユイ関係なく、どう扱かれたいかで盛り上がってたよ」
「バートン、午後から俺も訓練に参加する。事務仕事は任せた」
 大きな声で告げると、騒がしかった食堂が静まり返った。
「うわあ、僕恨まれそう……」
 バートンが頭を抱えていたが、俺の知った事ではなかった。
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