白雪姫とシンデレラ

白玉しらす

文字の大きさ
上 下
9 / 12

9.魔法使い

しおりを挟む
 もう何度目だろう。私達は疲れた顔でハーブティーを飲んでいた。
「大丈夫か?」
「シンデレラこそ」
 ニャンダユウはテーブルの下で昼寝をしている。私も全部忘れて一緒に昼寝がしたい。
「行為はともかく、ようやく手がかりが掴めたような気がする」
「そうですね。今脳内のモザイク処理を終えて証言の検証をしていたんですが、謎は全て解けました」
「凄いな。全部分かったのか」
「すみません。また言い過ぎました。でも、どこに行けば魔法使いに会えるか、分かったかもしれません」
「充分凄いじゃないか」
「行き違いになるといけません、シンデレラが大丈夫なら直ぐに向かいましょう」
 立ち上がる私を、シンデレラは座ったまま見上げている。
「大丈夫じゃ無かったですか?ちょっと休んでからにします?」
「いや、白雪がこの世界に来たのは魔法使いのせいでは無かったんだろう?白雪が魔法使いの元に行く必要はないんじゃないか?」
「そうかもしれませんね」
「ならばなぜ、自ら行こうとする」
「なぜって、側にいると約束しましたから」
「しかし……」
「それに、さすがにここまで来て留守番は嫌ですよ。行きましょう、シンデレラ。最終決戦です。多分」
 私が手を差し伸べると、シンデレラはしばらく迷ってからその手を取った。
「もしも魔法が解けたら……」
「やりたい事、見つかりました?」
 私の問いかけに、シンデレラは笑うだけで答えてくれなかった。


「全裸王子の証言によると、魔法使いは『あそこもちょっと物足りないから変えないと』と言っていたそうです。今まで行った場所で物足りないところがあったでしょうか。私はどこもかしこもお腹いっぱい、胸焼けしそうでした」
 以前使った歪みの前で、私は指をおでこに当てて推理披露をしていた。
「そこで私は一度整理してみる事にしました。それぞれの物語にタグ付けをしたのです。まずはシンデレラ、あなたが逃げ出さずに物語が完結していたとしたらこうです。複数プレイ、からの百合プレイ。そして私、白雪姫は睡眠姦と複数プレイ。どんどん行きましょう。美女と野獣は異種族姦。ラプンツェルは複数プレイ。眠れる森の美女は睡眠姦。さあ、この中で仲間はずれはどれでしょう」
 そこまで言うと私は一度シンデレラに背を向けてからくるりと振り返り、犯人を指差すように指をビシッと突き付けた。
「そうです。複数プレイも睡眠姦もない、美女と野獣です。魔法使いの性癖はズバリ、複数プレイと睡眠姦なのです!」
 息巻く私に、シンデレラは首を傾げた。
「私達が見ていない所で行われていた可能性もあるんじゃないか?」
 シンデレラの冷静なツッコミに、私は突き付けていた指をそっと下ろした。
 確かに、寝ている美女に野獣が突っ込んでいる可能性は否定できない。
「まあ、他に出来る事はないし、行ってみるだけ行ってみよう」
 しょんぼりする私の肩を、シンデレラが優しく叩いた。
「どうせムダアシ、イくだけムダ。イくならボウリョクオンナ、ヒトリでイく」
「うんうん、ニャンダユウは私と一緒がいいんだね」
 私は素早い動きでニャンダユウを抱き抱えると、そのまま歪みに突っ込んだ。

 ぐにゃぐにゃと地面が歪んだと思ったら、そのまま世界がぐにゃぐにゃ歪みだした。
「え?何か、今までと違わない?」
「フニャー。イマ、マサに、セカイユガんでる。キモちワルい」
「今正に?それってつまり」
 魔法使いがいるって事?と聞こうとしたら、ぐにゃぐにゃ歪む景色の向こうから声が聞こえてきた。
「……まずは男の召使いだけ人の姿に戻して……うん、そうね、野獣の精液には男を発情させる効果を付与して……そうそう、野獣がヤッてる時は召使いは手が出せなくて、溜まりに溜まったモノを美女が寝てる隙にぶちまけるっと。城中の男の精を身体に纏わりつかせた美女に、怒り狂った野獣はその身体を巨大化させて、同じく巨大化したアソコを使って美女を攻め立てる……うん、最高だわ」
 ぐにゃぐにゃ歪む視界の中央で、黒いローブを身に纏った誰かが、両手を上げて何かブツブツ言っている。
 その内容の酷さを考えると、魔法使い以外いないだろう。
「シンデレラ、やっぱりここにいました!最終決戦ですよ、最終決戦!」
 私は意気揚々と隣にいるはずのシンデレラに話しかけた。しかし、周りのどこにもシンデレラはいなかった。
「シンデレラ?」
「ここ、ユガみヒドい。シンデレラ、ハグれた」
「え、そんな……」
「ニャンダユウ、ごシュジンサガしてくる」
「ちょっと待って。こんな敵の真ん前で一人にしないで」
 私の願い虚しく、ニャンダユウは私の腕の中からバサバサと飛び立ち、フニャーと鳴いてどこかに行ってしまった。

「うふふ、これで前より良くなったんじゃないかしら。やっぱり複数プレイと睡眠姦は外せないわね……って、あなた誰?」
 ぐにゃぐにゃとした視界が戻ったと思ったら、直ぐに魔法使いに見つかってしまった。
「あら?あなたは、白雪姫?」
 私が答える前に、魔法使いが正解に辿り着いた。
「ふうん、ふん、ふん、なる程ね」
 魔法使いが観察するように私の周りをぐるっと周った。
「あなた、あの世界の人間ね。私がこの世界に戻る時に、一緒についてきちゃったんだわ。それで丁度空っぽだった白雪姫の中に入っちゃったのね」
「私のいた世界を知っているんですか?」
「あそこは凄いわね。この世の全ての欲望が具現化されている。正に天国だわ」
 うっとりとする魔法使いに、私は反射的に尾鱗の構えを取った。
「それがあなたのギフトと言う訳ね」
「ギフト?」
「死んだ後の魂は全ての記憶を失うと、無限の世界のどこかに生まれ変わるの。それがこの世の理。でも稀に、魂に記憶を宿したまま界を渡り、空いた肉体に入り込んでしまう事がある。すると一つだけ特別な能力が与えられる。それがギフト」
「特別な能力って、これは私が『よく分かる空手道入門』を読んで会得した……」
 話している途中で魔法使いがさっと手を上げ、地面に転がっていた石が物凄い速さで飛んできた。
 危ないと思った瞬間、パシッ、パシッと空を切るような音がして、気がつけば石が地面に落ちていた。
 何か凄い奥義を繰り出したかの様に、シュワアァァ……と煙を出しながら、私の両手が円を描いていた。
「本を読んだだけで、そんな事が出来るようになると思う?」
 言われてみれば、本を読んだだけで実践をしていない割に、キエーッもセイッもクリティカルに決まり過ぎていた。
 火事場の馬鹿力的なものかと思っていたけど、異世界転生ものでよく見るチートと言うやつだったのか。
 あれって現実に即した設定だったんだな。
「私も同じなの。記憶を持つまま魂が界を渡ってギフトを授かったの。最初の私のギフトは、記憶を持つまま魂が界を渡る能力」
 魔法使いの言葉にぞわっと鳥肌が立った。
「それから私は、界を渡る毎にギフトが増えていったわ。三百五十九回目に界を渡った時、私は不老不死となり、それからは無限の時を生き、無限の力を手に入れたの」
 私のチート『空手が強い』との差が大き過ぎないだろうか。
「最初の内は楽しかったわ。だってなんでも出来るのよ?でも、直ぐに飽きちゃった」
 魔法使いの周りには、紫色の光が取り巻いていて、伸ばした右手に向かって流れが出来ていた。
「でもね、あなたの世界を知って、衝撃を受けたの。あそこには神がいるんだわ。だって皆そう言っていたもの」
「ネットスラングを本気にしちゃだめですよ」
「そこで思ったの。私だって今や神に近い存在。神になれるかもしれない」
 私のツッコミは完全にスルーされた。
「だから私は、神の世界にあるような素敵な物語を、この世界で作ろうとしたの。でもなかなか上手く行かない。神になるのも大変なのね」
「そもそもの性癖がニッチ過ぎなんじゃないですか」
 聞く耳が無いことをいい事に、言いたい事を言ったら、また石を投げつけられた。
 チート能力『空手が強い』を発動させてそれを躱す。 
「そう言えばあなた、なぜここにいるの?王子に散々犯された後で七人の小人の元に戻り、永遠に嬲られ続けるのでした。めでたしめでたしってなる筈でしょう?」
「全くめでたくないじゃないですか」
 紫の光を頭上で大きな球にする魔法使いに、私はじりじりと後ずさった。
 こんなの勝ち目があるとは思えない。負け確定イベントなんじゃないか。
「そう?お気に召さないならそうね。まずはあなたを男に変えてから、小人の家に戻しましょうか。八人で順繰りに繋がり合って一つの円になるとか、どう?」
 なんだその地獄の円環。私は恐怖に言葉を失った。
「男同士って私はあまり興味ないけど、人気は取り入れるべきよね」
 間違ってる。色々。
 そう言いたかったけど、声は出なかった。
「男に、な~れ」
 頭の悪そうな掛け声と共に、巨大な紫の光球が私に迫りくる。
 これはチート能力『空手が強い』でどうにかなるんだろうか。
 しゅっと気合いを入れて弾いたら弾き返せるんだろうか。
「危ない、白雪!」
 そんな事を考えていると、上から人が降ってきて、大の字になって私の前に立ち塞がった。きれいな金髪が風にひらめいている。
「シンデレラ!」
 私の大声を合図にするかのように、光球がシンデレラに当たり、爆風が巻き起こった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【続】18禁の乙女ゲームから現実へ~常に義兄弟にエッチな事されてる私。

KUMA
恋愛
※続けて書こうと思ったのですが、ゲームと分けた方が面白いと思って続編です。※ 前回までの話 18禁の乙女エロゲームの悪役令嬢のローズマリアは知らないうち新しいルート義兄弟からの監禁調教ルートへ突入途中王子の監禁調教もあったが義兄弟の頭脳勝ちで…ローズマリアは快楽淫乱ENDにと思った。 だが事故に遭ってずっと眠っていて、それは転生ではなく夢世界だった。 ある意味良かったのか悪かったのか分からないが… 万李唖は本当の自分の体に、戻れたがローズマリアの淫乱な体の感覚が忘れられずにBLゲーム最中1人でエッチな事を… それが元で同居中の義兄弟からエッチな事をされついに…… 新婚旅行中の姉夫婦は後1週間も帰って来ない… おまけに学校は夏休みで…ほぼ毎日攻められ万李唖は現実でも義兄弟から……

前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる

KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。 城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。

【R18】泊まった温泉旅館はエッチなハプニングが起きる素敵なところでした

桜 ちひろ
恋愛
性欲オバケ主人公「ハル」 性欲以外は普通のOLだが、それのせいで結婚について悩むアラサーだ。 お酒を飲んだ勢いで同期の茜に勧められたある温泉旅館へ行くことにした。そこは紹介された人のみ訪れることのできる特別な温泉旅館だった。 ハルのある行動から旅館の秘密を知り、素敵な時間を過ごすことになる。 ほぼセックスしかしていません。 男性とのプレイがメインですが、レズプレイもあるので苦手な方はご遠慮ください。 絶倫、巨根、連続絶頂、潮吹き、複数プレイ、アナル、性感マッサージ、覗き、露出あり。

18禁の乙女ゲームの悪役令嬢~恋愛フラグより抱かれるフラグが上ってどう言うことなの?

KUMA
恋愛
※最初王子とのHAPPY ENDの予定でしたが義兄弟達との快楽ENDに変更しました。※ ある日前世の記憶があるローズマリアはここが異世界ではない姉の中毒症とも言える2次元乙女ゲームの世界だと気付く。 しかも18禁のかなり高い確率で、エッチなフラグがたつと姉から嫌って程聞かされていた。 でもローズマリアは安心していた、攻略キャラクターは皆ヒロインのマリアンヌと肉体関係になると。 ローズマリアは婚約解消しようと…だが前世のローズマリアは天然タラシ(本人知らない) 攻略キャラは婚約者の王子 宰相の息子(執事に変装) 義兄(再婚)二人の騎士 実の弟(新ルートキャラ) 姉は乙女ゲーム(18禁)そしてローズマリアはBL(18禁)が好き過ぎる腐女子の処女男の子と恋愛よりBLのエッチを見るのが好きだから。 正直あんまり覚えていない、ローズマリアは婚約者意外の攻略キャラは知らずそこまで警戒しずに接した所新ルートを発掘!(婚約の顔はかろうじて) 悪役令嬢淫乱ルートになるとは知らない…

異世界の学園で愛され姫として王子たちから(性的に)溺愛されました

空廻ロジカ
恋愛
「あぁ、イケメンたちに愛されて、蕩けるようなエッチがしたいよぉ……っ!」 ――櫟《いちい》亜莉紗《ありさ》・18歳。TL《ティーンズラブ》コミックを愛好する彼女が好むのは、逆ハーレムと言われるジャンル。 今夜もTLコミックを読んではひとりエッチに励んでいた亜莉紗がイッた、その瞬間。窓の外で流星群が降り注ぎ、視界が真っ白に染まって…… 気が付いたらイケメン王子と裸で同衾してるって、どういうこと? さらに三人のタイプの違うイケメンが現れて、亜莉紗を「姫」と呼び、愛を捧げてきて……!?

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

【※R-18】パラレルワールドのゲートを潜り抜けたら、イケメン兄弟に奉仕される人生が待っていた。

aika
恋愛
彼氏いない歴=年齢の三十路OL、繭。欲求不満で爆発しそうな彼女の前に、ある夜パラレルワールドへ続くゲートが現れる。 興味本位でゲートを潜ると、彼女はイケメン兄弟たちと暮らす女子高生になっていて・・・・ 女子高生になった彼女は、イケメン兄弟に奉仕される官能的な日々に翻弄されることに。 冴えないOLがオイシイ人生を生き直す、ご都合主義の官能ラブストーリー。 ※逆ハーレム設定、複数プレイ、変態プレイ、特殊設定強めになる予定です。苦手な方はご注意願います。

お屋敷メイドと7人の兄弟

とよ
恋愛
【露骨な性的表現を含みます】 【貞操観念はありません】 メイドさん達が昼でも夜でも7人兄弟のお世話をするお話です。

処理中です...