白雪姫とシンデレラ

白玉しらす

文字の大きさ
上 下
3 / 12

3.使い魔

しおりを挟む
「この世界は、魔法使いによって歪められている」
 シンデレラはアンニュイな顔で窓の外を見つめると、ぽつりと呟いた。
「私をこの世界に連れてきたのも、その魔法使いなんでしょうか」
「それは分からない。しかし、無関係とは思えないな」
「私は、どうしたらいいんでしょうか」
 私の質問に、シンデレラはじっと私を見つめた。
「私は魔法使いを討ち取るつもりでいる。君も一緒に来るか?」
「いいんですか?」
「危険な旅になるだろう。それでも良ければ」
「『よく分かる空手道入門』を読んで、毎日正拳突きの練習をしていた時期もあるんです。きっとお役に立ってみせます!」
 名前も思い出せないのに、なぜこんな事は覚えているのか不思議だけど、私は引きつけた拳を半回転させながら前方に突き出し、シンデレラにアピールした。
「よく分からないけど、よろしく頼むよ」
 シンデレラは薄く笑いながら手を差し出してきた。
 ずっと無表情だったシンデレラが笑っている。尊い……
 思わず拝みたくなる気持ちを抑え、私はシンデレラの手を握った。


「魔法使いの居場所を知るには、歪みを探す必要がある」
「歪み、ですか」
「魔法使いが魔法を使って世界を歪ませると、周囲の空間にも歪みが生じるようだ。私もそれを使ってここに逃げてきた」
「ぐにゃっとしたあれですね。でもどうやって探せばいいんでしょう」
 シンデレラは真面目な顔で説明をしてくれている。笑顔も素敵だったけど、凛々しい顔も素敵だ。
「ここに来てからずっと考えていたんだが、ひょっとしたらハラルなら見つけられるかもしれない」
「誰ですか、それは」
「ハラルは魔獣だ。空間を歪ませてあちこち移動して暮らしていると聞く。使い魔にしたら、何かヒントが得られるかもしれない」
「かもしれない、ですか」
「すまない。確かな事は何もないんだ……」
「いえ、僅かにも可能性があるならやりましょう!で、ハラルとやらを使い魔にするには、どうしたらいいんですか?」
 シンデレラに申し訳なさそうに謝られて、私は必要以上に元気な声を出した。シンデレラの綺麗な顔を曇らせる訳にはいかない。
「さあ」
「さあ?」
 やる気みなぎる私とは対照的に、シンデレラは気の抜けた声を出した。
「この森にいるのを見つけて、餌付けを試みているんだが、上手くいっていない」
「使い魔って、餌付けでなるものなんですか?」
「私も書物でその存在を知っているだけで、使い魔の仕方は分からないんだ」
 シンデレラも分からないなりに、色々と試していたと言う事だろう。
 どこかしょんぼりとした表情のシンデレラを見ると、いても立ってもいられなくなった。
「私をハラルのいる所に案内してください。なんとかなるかもしれません」


 大口を叩いた私は、シンデレラに連れられて森の奥へとやってきた。
 シンデレラがピィーっと口笛を吹くと、バサバサっと羽音をさせて黒い生き物が降り立った。
 口笛で呼び出せるって、もう使い魔みたいなものなんじゃないだろうか。
「これがハラルだ」
 黒猫にコウモリの羽が生えたようなその生物は、地面に座りじっとこちらを見ている。
「じゃあ、やってみます」
 私はそろそろとハラルに近づくと、手を胸の前で組み、すぅーっと大きく息を吸ってから歌いだした。
「♪ホントは好きって言いたいのに、あなたを見ると何も言えなくなるの、私の心は臆病で、直ぐに丸まり、転がり、あなたから逃げ出してしまう、そうね私は、恋するロンリー、ローリー、ポーリー」
 森にポップなメロディーが響き渡る。
 一人カラオケで死ぬ程練習した、アニメ『恋するローリーポーリー』主題歌『ロンリーローリーポーリー』である。
 良かった。食べ物以外の記憶もちゃんとあった。

 三番まできっかり歌い上げると、森に静寂が戻ってきた。
「これは?」
 何も起こらない事に、シンデレラが当然の疑問をぶつけてきた。
「準備運動です」
 平然な顔で返事をしながら、私は冷や汗をかいていた。
 白雪姫と言えば、森で歌を歌い動物達に慕われるイメージがある。
 森、使い魔、そして白雪姫と揃えば、あとは歌う事によりフラグが立つと確信していた。
 しかし、歌ったところでハラルには何の変化もなく、じっとこちらを、いや、どちらかと言うとシンデレラを見つめるだけだった。
 餌が欲しいのかもしれない。
 大口を叩いた手前、これで引き下がるのは非常に恥ずかしい。私はもうちょっと頑張る事にした。

「ルールルル」
 私はしゃがみ込むと、右手を差し出しじりじりとにじり寄った。
 ハラルは毛を逆立てて威嚇している。
「白雪、ハラルは凶暴なんだ。近づくと危ない」
「大丈夫です」
 止めようとするシンデレラを左手で制し、私は尚もハラルに近づく。
「おいで、さあ。ほら、怖くない。怖くない。……痛っ!」
 シャーと言うハラルが私にがぶりと噛み付いた。
「白雪!」
 シンデレラが持っていた木の枝を構えて私に近づいてくる。正直、木の枝を武器にするシンデレラはギャップ萌が凄い。
「ほらね、怖くない」
 噛まれたまま慈愛の笑みを浮かべると、ハラルは更に強く噛み付いてきた。
「セイッ!」
 余りの痛さに思わず、ハラルの鼻に中高一本拳で突きを入れてしまった。
「フギャー!」
 ハラルは情けない声を出しながらバサバサと飛び立つと、シンデレラの背中に隠れた。
「大丈夫、か?」
 シンデレラは羽で鼻を押さえてフニャフニャ泣くハラルと、咬み跡の血を吸い出しペッと地面に吐き出す私を交互に見て、どちらに声をかけるべきか悩んでいる様だった。

「あのオンナ、ヒドい。かヨワいボク、イジめる」
「お前、喋れるのか?」
「イうコトキくから、あのオンナから、マモってホしい」
「お前が噛まなければ攻撃しないよ」
「あのオンナ、キョウボウ。キケンキワまりナい」
 凶暴と言われる魔物に凶暴と言われてしまった。
「あなた、使い魔になったの?」
 私が聞くと、ハラルはプイっとそっぽを向いてしまった。
「仕方ない、拳で聞くしかないか」
 私が再び手を中高一本拳の形にすると、ハラルはフニャーと鳴いた。
「やっぱり、キョウボウ。キョウアク。サイアク」
「白雪、あまり怖がらせてはいけないよ」
「はあい」
 シンデレラに言われ、私は渋々返事をした。
 私が懐かせて使い魔にする予定だったのに、全く違う結果になってしまった。
「お前は、私の使い魔になったのか?」
「そう、だからボクにナマエいる」
「私が付けていいのか?」
「ごシュジン、ナマエつける。あのオンナから、ボクをマモる。ボク、ごシュジンのヤクにたつ」
 最後に大きくニャーンと鳴くハラルは正直可愛くて、私は羨望の眼差しでシンデレラを見つめた。
「名前か……白雪、何かいい名はあるか?」
「え?私がつけていいんですか?」
「こう言う事は苦手なんだ」
「じゃあ、そうですね……ニャンダユウとかどうでしょう」
「ニャーッ!」
 喋れるはずのニャンダユウが猫の様な鳴き声を発した。よっぽど名前を気に入ってくれたんだろう。
「お前は今日からニャンダユウだ」
「フニャー」
 シンデレラに言われ、ニャンダユウが情けない声で返事をした。
「ところで、ニャンダユウは空間の歪みを見つける事は出来るか?」
「ユガみ?ふにょふにょのコトか?」
「違う場所に繋がっている場所だよ」
「ふにょふにょ、スぐワカる」
「凄い!やりましたね、シンデレラ」
 シンデレラとニャンダユウのやり取りに、思わず乱入してしまった。
「ああ、白雪のお陰だ。ありがとう」
 微笑むシンデレラは、額に入れて飾っておきたいぐらい美しくて、私は思わず見惚れてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【続】18禁の乙女ゲームから現実へ~常に義兄弟にエッチな事されてる私。

KUMA
恋愛
※続けて書こうと思ったのですが、ゲームと分けた方が面白いと思って続編です。※ 前回までの話 18禁の乙女エロゲームの悪役令嬢のローズマリアは知らないうち新しいルート義兄弟からの監禁調教ルートへ突入途中王子の監禁調教もあったが義兄弟の頭脳勝ちで…ローズマリアは快楽淫乱ENDにと思った。 だが事故に遭ってずっと眠っていて、それは転生ではなく夢世界だった。 ある意味良かったのか悪かったのか分からないが… 万李唖は本当の自分の体に、戻れたがローズマリアの淫乱な体の感覚が忘れられずにBLゲーム最中1人でエッチな事を… それが元で同居中の義兄弟からエッチな事をされついに…… 新婚旅行中の姉夫婦は後1週間も帰って来ない… おまけに学校は夏休みで…ほぼ毎日攻められ万李唖は現実でも義兄弟から……

前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる

KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。 城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。

【R18】泊まった温泉旅館はエッチなハプニングが起きる素敵なところでした

桜 ちひろ
恋愛
性欲オバケ主人公「ハル」 性欲以外は普通のOLだが、それのせいで結婚について悩むアラサーだ。 お酒を飲んだ勢いで同期の茜に勧められたある温泉旅館へ行くことにした。そこは紹介された人のみ訪れることのできる特別な温泉旅館だった。 ハルのある行動から旅館の秘密を知り、素敵な時間を過ごすことになる。 ほぼセックスしかしていません。 男性とのプレイがメインですが、レズプレイもあるので苦手な方はご遠慮ください。 絶倫、巨根、連続絶頂、潮吹き、複数プレイ、アナル、性感マッサージ、覗き、露出あり。

18禁の乙女ゲームの悪役令嬢~恋愛フラグより抱かれるフラグが上ってどう言うことなの?

KUMA
恋愛
※最初王子とのHAPPY ENDの予定でしたが義兄弟達との快楽ENDに変更しました。※ ある日前世の記憶があるローズマリアはここが異世界ではない姉の中毒症とも言える2次元乙女ゲームの世界だと気付く。 しかも18禁のかなり高い確率で、エッチなフラグがたつと姉から嫌って程聞かされていた。 でもローズマリアは安心していた、攻略キャラクターは皆ヒロインのマリアンヌと肉体関係になると。 ローズマリアは婚約解消しようと…だが前世のローズマリアは天然タラシ(本人知らない) 攻略キャラは婚約者の王子 宰相の息子(執事に変装) 義兄(再婚)二人の騎士 実の弟(新ルートキャラ) 姉は乙女ゲーム(18禁)そしてローズマリアはBL(18禁)が好き過ぎる腐女子の処女男の子と恋愛よりBLのエッチを見るのが好きだから。 正直あんまり覚えていない、ローズマリアは婚約者意外の攻略キャラは知らずそこまで警戒しずに接した所新ルートを発掘!(婚約の顔はかろうじて) 悪役令嬢淫乱ルートになるとは知らない…

異世界の学園で愛され姫として王子たちから(性的に)溺愛されました

空廻ロジカ
恋愛
「あぁ、イケメンたちに愛されて、蕩けるようなエッチがしたいよぉ……っ!」 ――櫟《いちい》亜莉紗《ありさ》・18歳。TL《ティーンズラブ》コミックを愛好する彼女が好むのは、逆ハーレムと言われるジャンル。 今夜もTLコミックを読んではひとりエッチに励んでいた亜莉紗がイッた、その瞬間。窓の外で流星群が降り注ぎ、視界が真っ白に染まって…… 気が付いたらイケメン王子と裸で同衾してるって、どういうこと? さらに三人のタイプの違うイケメンが現れて、亜莉紗を「姫」と呼び、愛を捧げてきて……!?

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

【※R-18】パラレルワールドのゲートを潜り抜けたら、イケメン兄弟に奉仕される人生が待っていた。

aika
恋愛
彼氏いない歴=年齢の三十路OL、繭。欲求不満で爆発しそうな彼女の前に、ある夜パラレルワールドへ続くゲートが現れる。 興味本位でゲートを潜ると、彼女はイケメン兄弟たちと暮らす女子高生になっていて・・・・ 女子高生になった彼女は、イケメン兄弟に奉仕される官能的な日々に翻弄されることに。 冴えないOLがオイシイ人生を生き直す、ご都合主義の官能ラブストーリー。 ※逆ハーレム設定、複数プレイ、変態プレイ、特殊設定強めになる予定です。苦手な方はご注意願います。

お屋敷メイドと7人の兄弟

とよ
恋愛
【露骨な性的表現を含みます】 【貞操観念はありません】 メイドさん達が昼でも夜でも7人兄弟のお世話をするお話です。

処理中です...