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魔法使いノヴァーク兄弟
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いきなりの転生で、私は深く考えずに行動してしまった。小説内世界と言うことで、どこか適当に考えていたのかもしれない。
でも数日過ごし、私は気づいてしまった。
私には聖女として生きてきた十八年間の記憶もあれば、二十三歳で死んでしまった一日本人としての記憶もあった。
鏡に映る顔は有り得ない配色と思いながらも、しっかりと自分の顔だと認識できていた。
「聖女様、今日は編み込んで纏めておきますね」
私の髪を丁寧に梳いてくれているヘンリエッテとは、三年の付き合いになる。
私の趣味である料理にも付き合ってくれていたし、ほんわかとした笑顔にはいつも慰められていた。
それなのに、私は自分さえ良ければそれでいいと、ヘンリエッテを変態に売ったのだ。
「元気が無いようですが、どうかされましたか?」
ヘンリエッテが心配そうに、鏡の中の私を見つめている。
「いいえ、少し考え事をしていただけ。ねえ、ヘンリエッテは今幸せ?」
「そうですね、幸せですよ」
「そう、なら良かった……」
頬を赤く染めて微笑むヘンリエッテは、アルフレートとうまくやっているんだろう。
結果としては上手くいった。win-winだ。
でも、私がした事は、本当に正しかったんだろうか。
身支度が終わると王宮図書館へ向かった。
私は料理に関する本を読むために、よく図書館に行っていた。
私も活字中毒と言っていいぐらいの本好きだから、図書館に行って異世界の本を読んでみたい。
「あー、駄目だ。完全に混ざってる……」
時間が経てば経つほど、私は二つの人格が混ざり合い、セシィー・ローズでもあり木田晴香でもある、第三の人格と言っていいような存在になっていた。
純粋な木田晴香は死んだと言ってもいいだろう。ついでにセシィー・ローズも死んでいる。
軽いノリで生き返らせてあげるなんて言って、女神は二つの人格を殺したのだ。
もういっそ、セシィー・木田とか名乗っちゃおうかな。
「あ、セシィーが来た」
惜しい、私はセシィー・木田だ。
「セシィー、おはよ」
考え事をしながら歩いていたから、前方にノヴァーク兄弟がいる事に気付かなかった。気付いていたら回れ右をしていた。
「おはようございます」
笑顔で挨拶すると、ノヴァーク兄弟に挟まれてしまった。
「図書館に行くんでしょ」
「僕たちも今から行くんだ」
「一緒に行こ」
「手をつないでね」
ステレオ放送かな。
左右からのウィスパーボイス攻撃にくらっとしてしまい、手をつなぐのを阻止できなかった。
「セシィーの事は討伐隊に選ばれる前から知ってたんだ」
「図書館でよく見かけてたからね」
「見かける度に、アルノと話してたんだ」
「アルネも僕も同意見でさ」
二人は両側から私の耳に顔を寄せた。待て、まさかあれが繰り出されるのか。
「セシィーって、かわいいよね」
「セシィーって、かわいいよね」
ノヴァーク兄弟の必殺技、ダブルウィスパー攻撃が決まった。腰が砕けそうだった。
『ほら、アルノとばっかりキスしてないで、僕にもキスしてよ。ふふ、よだれ垂らしてエロい顔』
『アルネの指、気持ちいいの?下の口もよだれが凄いよ。僕も中に指、挿れちゃおうかな。乳首は空いた口で舐めてあげるからさ』
『だめだよ……気持ちいいからって……扱く手を緩めちゃ……』
『僕たちのも……そのかわいい手で……ちゃんと気持ち良くしてよね……』
よし、心拍数が正常に戻った。エロシーンを思い出して、ダブルウィスパー攻撃に打ち勝った。
「今日は図書館ではなく、司書室に用事があるんです。では失礼いたします」
丁度いい感じに司書室に差し掛かったので、私は拒絶するように45度の最敬礼を繰り出した。
「そうなの?」
「じゃあまたね」
まだそれ程仲良くなっていないためか、二人はあっさりと立ち去った。
その背中を見送りながら、やはり彼らも第二部のヒロインに引き取って貰いたいと思ってしまう。
「よし」
私は気合いを入れると、司書室の扉をノックした。
「失礼いたします」
「あら、聖女様。また料理の本をお探しですか?」
本の分類をしていた手を止めて声をかけてくれたのは、王宮図書館司書のヤーナだ。
茶髪のショートカットにヘーゼルの瞳。少し背は低めで、臙脂色の司書の制服とメガネがよく似合っている。
ちなみにどちらかと言えば貧乳であり、乳首攻めに弱い。
なぜそんな事まで知っているかと言うと、彼女もまた第二部のヒロインだからだ。
第二部ではノヴァーク兄弟に右から左から、もしくは上から下から、とにかく同時攻撃でアンアン言わされていた。
「いえ、今日はヤーナに個人的なお願いがあって来たんです。お仕事が終わったら、話を聞いて貰えませんか?」
「聖女様のお願いなら喜んで。丁度もうすぐ休憩時間なので、今からでも大丈夫ですよ」
「いいんですか?」
「早目に戻れば大丈夫」
メガネの奥で優しく笑い、ヤーナが立ち上がる。
「準備室でもいいですか?お茶をお入れしますね」
「ええ、もちろんです。ありがとうございます」
私達は和やかに微笑み合い、司書室奥の準備室へと向かった。
「それで、私にお願いとはなんでしょうか」
「私、魔物討伐隊の皆さんと仲良くなるために、お食事をご一緒したいと思っているんです」
「それはいい事ですね。皆さんも喜びますよ」
「でも私、男の方とお話しする事に慣れていなくて。一人ずつ親睦を深めていこうと思うんですが、魔法使いのアルネ様とアルノ様は、いつも一緒にいらっしゃるでしょう?」
「ああ、ノヴァーク兄弟ですね。確かに、二人はいつも一緒ですね」
「やはりお二人同時にお誘いした方がいいと思うんですが、私一人だけだと心細くて……ヤーナにも同席して貰えないかと、お願いに来たんです」
「私、ですか?」
ヤーナは私の唐突なお願いに、戸惑いの表情を見せた。
「他にお願いできる人がいなくて……」
これは嘘ではない。
聖女と言っても仕事がある訳でもなく、私は王宮の片隅で飼い殺されるように暮らしていた。
元々は孤児だった私が、何もせずいい暮らしを送るのは心苦しくて、人と混じらずひっそりと過ごしていた。
ヤーナには本を探す手伝いをして貰う事が多く、数少ない心許せる人だった。
「聖女様……分かりました。私で良ければ喜んで」
ヤーナも私の置かれた状況を知っている。気遣うような笑みで了承してくれた。
ヤーナ、いい子。そんないい子を、自分さえ良ければそれでいいと、変態に売るのはもう止める事にした。
正々堂々、二人並んでノヴァーク兄弟に選んで貰おう。
「アルネ様、アルノ様、今よろしいですか?」
ヤーナの同意を得た私は、その足で図書館に向かった。
魔法書コーナーに二人の姿を見つけると、足早に駆け寄り声をかけた。
「セシィー」
「用事はもう終わったのかい?」
「はい。あの、突然なんですが、ご一緒にお食事でもどうでしょうか」
誘い方が雑だけど、まあいいだろう。
「ふふ、デートに誘ってくれるの?」
「嬉しいなあ」
「食事もいいけど」
「僕たち、別のものも食べたいな」
私の雑な誘い方を気にする事なく、二人は笑いながら私の左右に移動した。
「食べるなら」
「セシィーを食べたい」
「なんてね」
「なんてね」
なんてね、だけ声を合わせ、流れるようにダブルウィスパー攻撃が繰り出された。
ふふっと笑った声と息が私の耳をくすぐり、変な声が漏れそうになった。
『ああ……アルノのものを美味しそうにしゃぶるセシィーは、本当にかわいい』
『ああ……アルネのものに突かれて腰をくねらすセシィーは、本当にかわいい』
『ねえ、三人で一緒にイこう』
『そうしたら、僕たち一つになれるよね』
『ほら、アルノの精子を口から溢れるぐらい出されながら、イキなよ』
『ほら、アルネの精子を搾り取るように締め付けながら、イキなよ』
よし、呼吸数が正常に戻った。エロシーンを思い出して、再びダブルウィスパー攻撃に打ち勝った。
「知人も誘ったので、餃子パーティーを開こうと思うんです。餃子の作り方は色々ありますが、入れる野菜はたっぷりのキャベツと少々の玉ねぎのみ。塩もみして水分を除けば、カリッとした食感に仕上がります。あっさりとした味わいの餃子はいくつでも食べられて、餃子だけでお腹いっぱいになれますよ。肉だねは少なめに包むのが好みです」
聖女のスキルを発動して、強引に餃子パーティー開催を決めてしまう。できれば食べるのは、餃子かヤーナにして欲しい。
そして餃子パーティー当日。
この世界にも魔法具としてホットプレートなる物があったけど、私はフライパンで餃子を焼く事にした。
餃子パーティーならホットプレートで焼くべきなんだろうけど、フライパンなら焼いている間、キッチンに籠もっていられる。
その間に、ノヴァーク兄弟とヤーナの仲が深まる事を期待して「ホットプレートて焼くなんて邪道です」と言い切り、私は今ジュウジュウと餃子を焼いている。
「焼けました」
カリッ、パリッと焼けた餃子をテーブルに運ぶと、既にヤーナが左右からステレオ放送で囁かれて頬を染めていた。
「わ、わあ、美味しそう。いただきます!」
何を言われたのか、誤魔化すように餃子に箸をつけるヤーナを見て、私は計画通りと悪い笑みをこぼした。
正々堂々選んで貰おうと言っておきながら、策を弄する汚い大人でゴメン。
「絶妙な焼き加減」
「セシィーは料理上手なんだね」
「ホント、美味しい!」
「そう言って貰えると嬉しいです。餃子にはやっぱりビールですよね。さあさあどうぞどうぞ」
この世界にはアルコールは何歳からと言う決まりは無い。私は三人のグラスにビールを注いで回った。
「ニラやネギ、ニンニクや生姜は入っていないので、後の事は考えずいっぱい食べてくださいね。デザートには、お口をさっぱりとさせる杏仁豆腐も用意してありますから」
私の言葉に、ノヴァーク兄弟がヤーナに何やら囁いた。
「か、からかわないでください!」
言葉では怒っていても、その顔は満更でも無いように見えて、私は安堵する。
ヤーナが二人を嫌がるようなら、身体を張ってでも助けようとは思っていた。
でもこの様子なら、変態共をお引き取り頂いても大丈夫だろう。
「お代わり焼いてきます」
私はウキウキと餃子を焼きに行った。
「今日はご馳走さま」
「餃子、美味しかったよ」
「聖女様、ありがとうございました~」
いい感じに酔っ払ったヤーナを真ん中に配置して、ノヴァーク兄弟は去っていった。
こっそりとドアの外を覗くと、両脇から何やら囁かれたヤーナが「ふにゃあ」と言って崩れ落ちていた。ノヴァーク兄弟が笑いながら両脇から支える。ダブルウィスパー攻撃が決まったんだろう。
私はそっと扉を締めると、ヤーナがいるであろう方角に向かって、直立不動で敬礼を送った。
末永く、お幸せに。
でも数日過ごし、私は気づいてしまった。
私には聖女として生きてきた十八年間の記憶もあれば、二十三歳で死んでしまった一日本人としての記憶もあった。
鏡に映る顔は有り得ない配色と思いながらも、しっかりと自分の顔だと認識できていた。
「聖女様、今日は編み込んで纏めておきますね」
私の髪を丁寧に梳いてくれているヘンリエッテとは、三年の付き合いになる。
私の趣味である料理にも付き合ってくれていたし、ほんわかとした笑顔にはいつも慰められていた。
それなのに、私は自分さえ良ければそれでいいと、ヘンリエッテを変態に売ったのだ。
「元気が無いようですが、どうかされましたか?」
ヘンリエッテが心配そうに、鏡の中の私を見つめている。
「いいえ、少し考え事をしていただけ。ねえ、ヘンリエッテは今幸せ?」
「そうですね、幸せですよ」
「そう、なら良かった……」
頬を赤く染めて微笑むヘンリエッテは、アルフレートとうまくやっているんだろう。
結果としては上手くいった。win-winだ。
でも、私がした事は、本当に正しかったんだろうか。
身支度が終わると王宮図書館へ向かった。
私は料理に関する本を読むために、よく図書館に行っていた。
私も活字中毒と言っていいぐらいの本好きだから、図書館に行って異世界の本を読んでみたい。
「あー、駄目だ。完全に混ざってる……」
時間が経てば経つほど、私は二つの人格が混ざり合い、セシィー・ローズでもあり木田晴香でもある、第三の人格と言っていいような存在になっていた。
純粋な木田晴香は死んだと言ってもいいだろう。ついでにセシィー・ローズも死んでいる。
軽いノリで生き返らせてあげるなんて言って、女神は二つの人格を殺したのだ。
もういっそ、セシィー・木田とか名乗っちゃおうかな。
「あ、セシィーが来た」
惜しい、私はセシィー・木田だ。
「セシィー、おはよ」
考え事をしながら歩いていたから、前方にノヴァーク兄弟がいる事に気付かなかった。気付いていたら回れ右をしていた。
「おはようございます」
笑顔で挨拶すると、ノヴァーク兄弟に挟まれてしまった。
「図書館に行くんでしょ」
「僕たちも今から行くんだ」
「一緒に行こ」
「手をつないでね」
ステレオ放送かな。
左右からのウィスパーボイス攻撃にくらっとしてしまい、手をつなぐのを阻止できなかった。
「セシィーの事は討伐隊に選ばれる前から知ってたんだ」
「図書館でよく見かけてたからね」
「見かける度に、アルノと話してたんだ」
「アルネも僕も同意見でさ」
二人は両側から私の耳に顔を寄せた。待て、まさかあれが繰り出されるのか。
「セシィーって、かわいいよね」
「セシィーって、かわいいよね」
ノヴァーク兄弟の必殺技、ダブルウィスパー攻撃が決まった。腰が砕けそうだった。
『ほら、アルノとばっかりキスしてないで、僕にもキスしてよ。ふふ、よだれ垂らしてエロい顔』
『アルネの指、気持ちいいの?下の口もよだれが凄いよ。僕も中に指、挿れちゃおうかな。乳首は空いた口で舐めてあげるからさ』
『だめだよ……気持ちいいからって……扱く手を緩めちゃ……』
『僕たちのも……そのかわいい手で……ちゃんと気持ち良くしてよね……』
よし、心拍数が正常に戻った。エロシーンを思い出して、ダブルウィスパー攻撃に打ち勝った。
「今日は図書館ではなく、司書室に用事があるんです。では失礼いたします」
丁度いい感じに司書室に差し掛かったので、私は拒絶するように45度の最敬礼を繰り出した。
「そうなの?」
「じゃあまたね」
まだそれ程仲良くなっていないためか、二人はあっさりと立ち去った。
その背中を見送りながら、やはり彼らも第二部のヒロインに引き取って貰いたいと思ってしまう。
「よし」
私は気合いを入れると、司書室の扉をノックした。
「失礼いたします」
「あら、聖女様。また料理の本をお探しですか?」
本の分類をしていた手を止めて声をかけてくれたのは、王宮図書館司書のヤーナだ。
茶髪のショートカットにヘーゼルの瞳。少し背は低めで、臙脂色の司書の制服とメガネがよく似合っている。
ちなみにどちらかと言えば貧乳であり、乳首攻めに弱い。
なぜそんな事まで知っているかと言うと、彼女もまた第二部のヒロインだからだ。
第二部ではノヴァーク兄弟に右から左から、もしくは上から下から、とにかく同時攻撃でアンアン言わされていた。
「いえ、今日はヤーナに個人的なお願いがあって来たんです。お仕事が終わったら、話を聞いて貰えませんか?」
「聖女様のお願いなら喜んで。丁度もうすぐ休憩時間なので、今からでも大丈夫ですよ」
「いいんですか?」
「早目に戻れば大丈夫」
メガネの奥で優しく笑い、ヤーナが立ち上がる。
「準備室でもいいですか?お茶をお入れしますね」
「ええ、もちろんです。ありがとうございます」
私達は和やかに微笑み合い、司書室奥の準備室へと向かった。
「それで、私にお願いとはなんでしょうか」
「私、魔物討伐隊の皆さんと仲良くなるために、お食事をご一緒したいと思っているんです」
「それはいい事ですね。皆さんも喜びますよ」
「でも私、男の方とお話しする事に慣れていなくて。一人ずつ親睦を深めていこうと思うんですが、魔法使いのアルネ様とアルノ様は、いつも一緒にいらっしゃるでしょう?」
「ああ、ノヴァーク兄弟ですね。確かに、二人はいつも一緒ですね」
「やはりお二人同時にお誘いした方がいいと思うんですが、私一人だけだと心細くて……ヤーナにも同席して貰えないかと、お願いに来たんです」
「私、ですか?」
ヤーナは私の唐突なお願いに、戸惑いの表情を見せた。
「他にお願いできる人がいなくて……」
これは嘘ではない。
聖女と言っても仕事がある訳でもなく、私は王宮の片隅で飼い殺されるように暮らしていた。
元々は孤児だった私が、何もせずいい暮らしを送るのは心苦しくて、人と混じらずひっそりと過ごしていた。
ヤーナには本を探す手伝いをして貰う事が多く、数少ない心許せる人だった。
「聖女様……分かりました。私で良ければ喜んで」
ヤーナも私の置かれた状況を知っている。気遣うような笑みで了承してくれた。
ヤーナ、いい子。そんないい子を、自分さえ良ければそれでいいと、変態に売るのはもう止める事にした。
正々堂々、二人並んでノヴァーク兄弟に選んで貰おう。
「アルネ様、アルノ様、今よろしいですか?」
ヤーナの同意を得た私は、その足で図書館に向かった。
魔法書コーナーに二人の姿を見つけると、足早に駆け寄り声をかけた。
「セシィー」
「用事はもう終わったのかい?」
「はい。あの、突然なんですが、ご一緒にお食事でもどうでしょうか」
誘い方が雑だけど、まあいいだろう。
「ふふ、デートに誘ってくれるの?」
「嬉しいなあ」
「食事もいいけど」
「僕たち、別のものも食べたいな」
私の雑な誘い方を気にする事なく、二人は笑いながら私の左右に移動した。
「食べるなら」
「セシィーを食べたい」
「なんてね」
「なんてね」
なんてね、だけ声を合わせ、流れるようにダブルウィスパー攻撃が繰り出された。
ふふっと笑った声と息が私の耳をくすぐり、変な声が漏れそうになった。
『ああ……アルノのものを美味しそうにしゃぶるセシィーは、本当にかわいい』
『ああ……アルネのものに突かれて腰をくねらすセシィーは、本当にかわいい』
『ねえ、三人で一緒にイこう』
『そうしたら、僕たち一つになれるよね』
『ほら、アルノの精子を口から溢れるぐらい出されながら、イキなよ』
『ほら、アルネの精子を搾り取るように締め付けながら、イキなよ』
よし、呼吸数が正常に戻った。エロシーンを思い出して、再びダブルウィスパー攻撃に打ち勝った。
「知人も誘ったので、餃子パーティーを開こうと思うんです。餃子の作り方は色々ありますが、入れる野菜はたっぷりのキャベツと少々の玉ねぎのみ。塩もみして水分を除けば、カリッとした食感に仕上がります。あっさりとした味わいの餃子はいくつでも食べられて、餃子だけでお腹いっぱいになれますよ。肉だねは少なめに包むのが好みです」
聖女のスキルを発動して、強引に餃子パーティー開催を決めてしまう。できれば食べるのは、餃子かヤーナにして欲しい。
そして餃子パーティー当日。
この世界にも魔法具としてホットプレートなる物があったけど、私はフライパンで餃子を焼く事にした。
餃子パーティーならホットプレートで焼くべきなんだろうけど、フライパンなら焼いている間、キッチンに籠もっていられる。
その間に、ノヴァーク兄弟とヤーナの仲が深まる事を期待して「ホットプレートて焼くなんて邪道です」と言い切り、私は今ジュウジュウと餃子を焼いている。
「焼けました」
カリッ、パリッと焼けた餃子をテーブルに運ぶと、既にヤーナが左右からステレオ放送で囁かれて頬を染めていた。
「わ、わあ、美味しそう。いただきます!」
何を言われたのか、誤魔化すように餃子に箸をつけるヤーナを見て、私は計画通りと悪い笑みをこぼした。
正々堂々選んで貰おうと言っておきながら、策を弄する汚い大人でゴメン。
「絶妙な焼き加減」
「セシィーは料理上手なんだね」
「ホント、美味しい!」
「そう言って貰えると嬉しいです。餃子にはやっぱりビールですよね。さあさあどうぞどうぞ」
この世界にはアルコールは何歳からと言う決まりは無い。私は三人のグラスにビールを注いで回った。
「ニラやネギ、ニンニクや生姜は入っていないので、後の事は考えずいっぱい食べてくださいね。デザートには、お口をさっぱりとさせる杏仁豆腐も用意してありますから」
私の言葉に、ノヴァーク兄弟がヤーナに何やら囁いた。
「か、からかわないでください!」
言葉では怒っていても、その顔は満更でも無いように見えて、私は安堵する。
ヤーナが二人を嫌がるようなら、身体を張ってでも助けようとは思っていた。
でもこの様子なら、変態共をお引き取り頂いても大丈夫だろう。
「お代わり焼いてきます」
私はウキウキと餃子を焼きに行った。
「今日はご馳走さま」
「餃子、美味しかったよ」
「聖女様、ありがとうございました~」
いい感じに酔っ払ったヤーナを真ん中に配置して、ノヴァーク兄弟は去っていった。
こっそりとドアの外を覗くと、両脇から何やら囁かれたヤーナが「ふにゃあ」と言って崩れ落ちていた。ノヴァーク兄弟が笑いながら両脇から支える。ダブルウィスパー攻撃が決まったんだろう。
私はそっと扉を締めると、ヤーナがいるであろう方角に向かって、直立不動で敬礼を送った。
末永く、お幸せに。
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