すれ違いアブダクション

白玉しらす

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第五話

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 丈さんの家は、私の家とは駅を挟んで反対側にあった。
 最寄り駅が同じでも、北口と南口では生活圏が全然違う。
 それなりに大きな駅だから、使う改札も違えば、いつも乗る車両も違ったんだろう。
 近くにいても、会えなかったはずだ。

「大丈夫か?」
 丈さんの家に着く頃には泣き止んでいたけど、丈さんの顔を見れば、また泣きそうになった。
「すみません。多分、また泣いてしまいます」
「その時は、胸を貸す」
 丈さんが優しく私を見つめている。
「あの、泣いて顔がぐちゃぐちゃなので、あまり見ないでください」
 私は恥ずかしくて、顔を伏せた。
「千紗はかわいいよ」
 泣き腫らして赤くなった顔が、更に赤くなった気がした。

「よし、これでだいたい分かった」
 丈さんはこれまでの事を紙に書き出すと、満足気に笑った。
「アブダクションされた時、千紗から見たら俺は一年半未来の人間で、俺から見たら千紗は一年半過去の人間だったんだな。時間軸が違ったんだ」
「なんでそんな事に……」
「さあ。相手が宇宙人と仮定したら、何万光年も離れた所から来ているんだろう。一年半なんて、誤差の範囲なのかもな」
「誤差……」
 そんな言葉で片付けるには、私には長過ぎる月日だった。
「そもそも、宇宙人かどうかも分からないし、本当の所は分からない」
 私は丈さんが書いた紙をじっと見つめる。少し丸っこくて、意外とかわいい字だ。

 私が最後に丈さんに会った時、私の時間軸では丈さんにはまだ恋人がいた。
 私が裏切られたと思い、辛い日々を過ごしている時、丈さんは恋人と楽しく過ごしていたんだと思うと、少しだけモヤモヤした。
 いくら電話を掛けても出なかったのは、その頃は番号が違ったからだ。
 私がすっかり諦めて携帯番号を変えてしまう少し前、丈さんは恋人と別れている。
 仕事が忙しくて、あまり会えないことを恋人に責め立てられて振られたのに、暫くするとしつこく付きまとわれる様になったそうだ。
 振り回されるのに疲れた丈さんは、私が携帯を変えたのと同じ頃に、引っ越しをして携帯も変えた。
 この時点で私が電話を掛けていたら、丈さんはまだ私を知らないから、直ぐに電話を切られて、二度と会えないでいただろう。
 お互いが携帯を変えた半年後ぐらいに、丈さんは私と出会う。
 丈さんが私の携帯に電話を掛けた時にはもう、私の番号は変わっていた。
 そして今、漸く私達はまた会えたのだ。

「二年は長いな。五ヶ月でも、辛かった」
 丈さんが向かい合わせに座っていた私の手を握った。
「一年ぐらい俺に電話を掛けなかったのに、なぜ急に掛けて来たんだ?」
 丈さんが紙を見ながら尋ねた。
「その、もう諦めていたつもりだったんですが、告白されている人にどうしても答えられなくて。最後に掛けて踏ん切りをつけたら、ええと、一歩踏み出してみようかなと」
 抱かれて忘れようとしていた事は、言わない方がいいだろう。
「危なかった……」
 丈さんは握った手の上に頭を乗せて呟いた。
「今からでも、間に合うか?俺と、付き合って欲しい」
 見上げるように言われて、私は一も二もなく返事した。
「はい……」
 私の目からは涙が溢れた。

「千紗」
 ソファーに移動して、丈さんの胸でひとしきり泣くと、私はくったりと丈さんにもたれ掛かった。
 丈さんは優しく私の頭を撫でながら、心地良い低い声で私の名を呼ぶ。
「結婚しよう」
「え?」
 急な言葉に驚いて顔を上げると、丈さんは口の端を上げて笑っていた。
「責任はとると、言っただろ?」
「でも、子供は出来て無かったって、言いましたよ?」
「出来なかったらそれでいいと言う訳でも無いだろ?千紗の中に出した時、俺は覚悟を決めたんだ」
 本当に、この人は妙に真面目だ。
「ええと、結婚はまだピンとこないけど……丈さん、私を貰ってください」
 恥ずかしくて、私は頭を丈さんの胸板に押し付けた。
「そんな風に言われたら、理性が飛ぶだろ」
 丈さんは私の顔を持ち上げると、じっと見つめた。
 恥ずかしくてぎゅっと目を瞑ると、丈さんはそっとキスをしてきた。
「千紗、辛い思いをさせてすまなかった」
「そんな。丈さんは嘘をついていなかったって、分かりましたから。もう、大丈夫です」
「そうか、大丈夫か」
 丈さんが、片方の口の端を上げて笑う。
 私は上げられた唇にそっと触れてから、そこに唇を重ねた。
 
「んっ、あっ……丈、さん……」
 いつしか丈さんの手は私の服の中に入り込み、胸を揉んでいた。
「何だか、服を脱がすのは新鮮だ」
「んんっ……前は、裸、でしたもんね……あっ……」
 促されるまま服を脱ぐと、丈さんは胸元にキスをした。
「下着姿も、かわいい」
「そう言うのは、いいです」
 私は恥ずかしくて顔を逸らしてしまう。
「千紗の、そう言う所が好きだ」
 丈さんは私を抱き上げると、そのままドアに向かった。
「あの、重いです。自分で歩きます」
「筋トレが趣味だから大丈夫だ」
 重くないとか適当な事を言わない所が、丈さんらしい。
 私は初めてされたお姫様抱っこが落ち着かなくて、困った顔で丈さんを見つめた。
 丈さんの口の端が上がっていて、楽しそうだった。

「んっ……んんっ……あっ……んっ…」
 寝室に連れて行かれ、そっとベッドに寝かせられると、丈さんは手早く服を脱いで覆いかぶさってきた。
 あっと言う間に私の下着も剥ぎ取られ、胸を揉まれながら深い口づけを交わす。
 辛かった二年間が嘘のように、丈さんへの気持ちで一杯になった。
「んんっ……あっ、んっ……んんっ……」
 お腹を撫でるように下に向かった指が、割れ目をなぞると、私の身体は簡単に反応してしまう。
「千紗、優しくする。だから、もっと俺を好きになってくれ」
 丈さんはそう言うと私の胸を舐め、乳首に噛りついた。
「あっ、んっ……もう、充分っ……ああっ……好きですっ……」
 身体をくねらせながら丈さんを見つめると、丈さんも私を見つめていた。
「だから、もっとと言っただろ?」
 丈さんはそう言うと、私の足を大きく広げて、そこに顔を埋めた。
「やっ、だめっ……ああっ……汚い、からっ……あっ……やあっ……」
 そんな所を舐められて、私は逃げるように身体をくねらせた。
 私の動きは、がっしりと腰を押さえられて封じられてしまう。
 そのまま舌先で舐められながら、指でクリトリスを弄られると、もうどうしようもなく感じてしまい、私は呆気なくイッてしまった。

「やっ……やです……いや……」
 私は目に涙を浮かべて丈さんを見つめる。
 丈さんの口周りが濡れていて、恥ずかしくてもっと泣きそうになった。
「気持ち良く、なかったのか?……次は、もっと頑張る」
「違うっ、気持ち、良かったです。こんなの、初めてで」
 足を掴む丈さんを慌てて止める。
「でも、私だけ気持ちいいのは、嫌です。丈さんにも、気持ち良くなって欲しい」
 私の言葉に丈さんは私に覆いかぶさると、ぎゅうぎゅうと抱きしめてきた。
「本当に、千紗はかわいいな」
 それだけ言うと丈さんは起き上がり、ナイトテーブルの引き出しをゴソゴソと探った。
「今度は、ちゃんとつけるから」
 丈さんは私に小さなパッケージを見せると、ベッドに腰掛けてゴムを装着した。
「準備、いいんですね」
 なんとはなしに呟くと、丈さんは私に覆いかぶさり、口の端を上げて笑った。
「かわいい彼女が出来たと思ったから、買っておいたんだ。使うまでに五ヶ月かかったけどな」
 そう言って深い口づけをすると、何度か割れ目をなぞり、指を差し入れてきた。

「んっ、んんっ……んんっ、あっ……んぅっ……」
 舌と指の動きに、私の頭は真っ白になる。
 縋るように丈さんに抱きつくと、丈さんは硬く勃ち上がった物を押し当ててきた。
「千紗……」
 丈さんが、優しく名前を呼びながら、私の中へと入ってくる。
「んんっ……あっ、んっ……ああっ……」
 圧迫感と共に、快感が私の全身を駆け巡る。
「はあっ、はあっ……丈、さんっ……」
 私を見下ろす丈さんを見つめると、丈さんは腰を打ち付けながらキスをした。
「千紗……また会えて、良かった……」
「あっ、ああっ……丈さんっ……わた、しっ……ああっ……会いたかった……」
「会えなかった分も、大事にする……」
 丈さんのその言葉にすっかり力が抜けてしまった私は、丈さんの全てを受け入れて、快感の波に溺れてゆく。
 今までの悲しみはすっかり吹き飛んで、ただただ幸せだった。
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