同級生

明るい家族

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高校生

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 黒板に数式が書かれるが、解く気になれない。頭の中は、雪千佳とのキスでいっぱいだ。

 雪千佳の唇は……女の子と同じだった。サラサラの髪の手触りも、鼻から抜けるような声も、恥じるように胸を隠す仕草も……

 待てよ……一度は捨てた可能性が再び胸に過ぎる。

 雪千佳って、もしかして……中身は女なんじゃ……

 さあっと血の気が引いた。ハッと口を手で覆う。

 あのキスは無理矢理だ。女の子には絶対できない。やらない。



「いや、男でもダメだろ」

 設備システムの教科書をパラパラとめくりながら、雪千佳は涼しい顔で言った。

 雪千佳に謝るため、校内を探し回って、保健室のベッドで見つけたのだ。

 枕も布団もベッドのヘッドボードに押しやられ、雪千佳の背もたれに使われている。

 一体誰がつけたのか、ヘッドボードにはスマホを固定するアームスタンドが取り付けられている。

「……ダメだろ。男相手でも、無理矢理キスしたら」

 雪千佳は消え入りそうな声で言った。取り繕ったような涼しげな表情も、次第に強張っていく。

「だよな。悪かった」

「いや、いいよ。俺も調子乗りすぎた」

「…………お前って、女なのか?」

 デリケートな問題だと分かっていても、他に聞き方がわからなかった。

「はあ?」

 雪千佳の声が裏返る。何言ってんの? とばかりにプライドの高そうな顔をしかめて愛司を見た。

「ここ、男子校だぞ」

「……一応共学な」

「お前、俺の体見ただろ。おっぱいついてたか?」

「内面を聞いている」

 雪千佳は切長の目を弓形に細めた。

「どっちだと思う?」

「わからないから聞いている。別に答えたくないなら答えなくても構わないが、俺はよくわからない相手とは関わりたくない」

「よく言うよ。あんなキスしてさ」

「後悔してる」

 雪千佳は目尻を吊り上げた。

「で、どっちなんだ」

 逡巡するように雪千佳は視線を彷徨わせる。こっちは真面目に聞いているのに、どう答えるべきか迷っているのだ。

 嘘をつかれるくらいなら、答えなくていい。別にそこまでして仲良くなりたいわけではないのだから。

「悪かったな。変な質問して」

 愛司はそう言って、背を向けた。カーテンに手をかける。

「お、男って答えたら、どうなんの?」

 すんなり答えれば良いものを。

 苛立ち、愛司は踏み出した。

「ちょ、待てって」

「お前が答えないからだろ」

 キッと睨みつける。

「こ、答えようとしてんじゃん!」

「ならさっさと答えればいいだろ。俺をからかうにはどっちがいいか、どっちが効果的か考えるな」

「そんなこと考えてねえしっ!」

「じゃあどっち」

 聞かずとも、反論の仕方で男だと薄々気づいている。

「女」

 スッと胸が冷え込んだ。

「嘘つけ」

 雪千佳の猫のような吊り目がカッ開いた。

「わかってんなら聞くんじゃねえよっ!」

「何キレてんだよ。嘘つきが」

 軽蔑の眼差しで睨みつけ、愛司は男に背を向けた。「待てって」と腕を掴もうとした手を振り払い、その場を後にした。
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